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ACE阻害薬やARBなどを使ったレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害により,高血圧合併2型糖尿病の予後が改善されることが種々の臨床試験でエビデンスとして示されています。
しかし,実際の医療現場では、いまだに腎障害が進展し,透析・腎移植などを余儀なくされている患者が多数存在することも事実です。
そんな中で,新たに直接的レニン阻害薬(Direct Renin Inhibitor : DRI)アリスキレンが登場します。
このアリスキレンについての座談会で勉強しました。
##レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の新たな展望
#直接的レニン阻害薬アリスキレンの高血圧合併2型糖尿病に対する有用性
司会:
伊藤 貞嘉 氏 東北大学大学院内科病態学講座腎・高血圧・内分泌学分野 教授
出席者:
Hans-Henrik Parving 氏 Professor of Department of Medical Endocrinology Rigshospitalet, University Hospital of Copenhagen
鈴木 洋通 氏 埼玉医科大学腎臓内科 教授
柏原 直樹 氏 川崎医科大学内科学(腎) 教授
#RAAS阻害により糖尿病性腎症の予後が改善
■Parving
RAASのなかでもアンジオテンシンII(A II)が臓器障害をもたらすことは広く知られているが,高血圧合併2型糖尿病や糖尿病性腎症においても同様である。
特に糖尿病性腎症に焦点を当てて考えてみると,30年以上前の時点では,糖尿病性腎症は不可逆性の病態であり,治療の手だてはなく末期腎不全を経て死に至るものと考えられていた。
そのようななか,われわれは,β遮断薬・高用量利尿薬・血管拡張薬などを使って降圧治療を行うことにより,1型糖尿病性腎症の病態改善を試みてある程度の成功を収めた(Parving H-H, et al : Lancet 1 : 1175-1179, 1983)。
しかし,その後,対照群とほぼ同等の降圧下でACE阻害薬が1型糖尿病性腎症の予後(死亡・透析導入・腎移植)を有意に改善することが示され,糖尿病性腎症におけるRAAS阻害の有用性が初めて立証された(Lewis EJ, et al : N Engl J Med 329 : 1456-1462, 1993)。
コペンハーゲンのデータでは,かつては1型糖尿病性腎症を発症すると7年後には患者の約半数が死亡していたが,現在では,発症から21年経過しても患者の約半数が生存していることがコホート研究からわかっている。
2型糖尿病性腎症に対しても,RAAS阻害により微量アルブミン尿の発症が抑制されることが臨床試験BENEDICT(BErgamo NEphrologic DIabetes Complications Trial)により示されました(Ruggenenti P, et al : N Engl J Med 351 : 1941-1951, 2004)。われわれは,持続性のアルブミン尿を示す高血圧合併2型糖尿病に対するARB投与が用量依存的に予後を改善することを臨床試験IRMA-2(IRbesartan in Patients with Type 2 Diabetes and MicroAlbuminuria)において明らかにした(Parving H-H, et al : N Engl J Med 345 : 870-873, 2001)。
臨床試験IDNT(Irbesartan Diabetic Nephropathy Trial)やRENAAL(Reduction of Endpoints in NIDDM with the Angiotensin II Antagonist Losartan)においても,やはりARB投与が2型糖尿病性腎症の予後を改善することが立証されている。
#高血圧合併2型糖尿病に対するアリスキレンの役割
■Parving
現在,ACE阻害薬やARBといったRAAS阻害薬が臨床で汎用されている。
両薬剤の作用機序は異なるが,RAAS阻害によるネガティブフィードバックのため,代償的にレニン産生が亢進し,これがRAASを刺激してしまうという共通の問題点がある。
これに対してDRIアリスキレンの作用機序はレニン・アンジオテンシン系の活性起点である律速酵素のレニンを阻害するので,このような不都合は生じない(図1)。

■Parving
レニンが(プロ)レニン受容体に結合すると,細胞内シグナル伝達が開始され,肥大や線維化に関与するMAPK(mitogen- activated protein kinase)が活性化されて,腎糸球体硬化が誘発されることが糖尿病動物モデルにおいて報告されている(Ichihara A, et al : J Am Soc Nephrol 17 : 1950-1961, 2006)。
アリスキレンが糸球体などにおける(プロ)レニン受容体の発現を減少させたとの動物モデルでの報告があるが(Feldman DL, et al : Hypertension 52 : 130-136, 2008),実際にヒトではどうなるのか興味深い。
#高血圧合併2型糖尿病を対象とした臨床試験AVOID(Aliskiren in the EValuation of PrOteinuria In Diabetes)で示されたアリスキレンの有用性
■Parving
アリスキレンは,半減期が40時間を超えるほど極めて長いため夜間血圧のカバーが可能であること,trough to peak ratio(T/P比)がほとんどフラットで安定した降圧効果を示すことを,まず念頭に置く必要がある(図2)。

AVOIDは高血圧を合併した2型糖尿病を対象とした臨床試験(599例,追跡期間24週)で,対照群(至適降圧治療+ARBロサルタン100mg/日)とアリスキレン上乗せ群(150mg/日を12週間,その後300mg/日を12週間)の間で腎保護効果を比較した(図3,4)(Parving HH, et al : N Engl J Med 358 : 2433-2446, 2008)。

主要評価項目は「早朝の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の減少率」である。
その結果,アリスキレン上乗せ群では,対照群よりも24週(アリスキレン300mg日)における主要評価項目が20%有意に減少した(p<0.001,図5)。
12週後(アリスキレン150mg/日)においてもアリスキレン上乗せによりUACRが11%有意に減少した(p=0.02)。
夜間の尿中アルブミン排泄率も,アリスキレン上乗せ群で18%有意に減少した(p=0.009)。
また,アルブミン尿の50%減少は,アリスキレン上乗せ群で24.7%と,対照群の12.5%よりも有意に高いとのデータも得られている(p<0.001)。
両群の降圧は同程度ということから(アリスキレン上乗せ群で2/1mmHg低かったが,対照群と有意差なし),アリスキレンによる腎保護効果は降圧に非依存の形で得られたと考えられる(図4)。
なお,高カリウム血症(≥ 6.0mmol/L)はアリスキレン群で対照群より高い傾向にあったが,有意差はなかった。
■Parving
診察室血圧は両群で同等であったが,夜間血圧がアリスキレン群でより低下した可能性はある。
夜間高血圧は予後不良であることが知られているので,今回24時間血圧測定を行っていなかったことが残念であった。
■伊藤
Hollenbergらは,健常人を対象とした検討で,アリスキレンが血中から消失しても血管拡張が続いていたと報告している(Naomi DL, et al : Circulation 117 : 3199-3205, 2008)。
これは,腎臓内に結合したアリスキレンが残っていたためであり,そのために夜間でも降圧効果が良好であった可能性がある。
■Parving
現在,「ASPIRE HIGHER」と名付けられたアリスキレンの心臓・腎臓予後確認試験が進行中だが,その1つに心血管系および腎イベントのリスクが高い2型糖尿病患者を対象としたALTITUDE(ALiskiren Trial In Type 2 diabetes Using cardio-renal Disease Endpoints)がある。
夜間血圧の問題を,ぜひALTITUDEで検討してみたい。
■Parving
中心血圧も関心のある点である。
Hollenbergらの論文では,アリスキレンの投与量の増加に伴い,腎血流量も増加することが示されている。
腎保護の点で,通常用量と高用量を比較してどのような違いがあるのか,もうすぐデータがまとまると思う。
■鈴木
AVOIDではARBにアリスキレンを上乗せしているが,まずアリスキレンを使ってからARBを上乗せした場合はどうなるのか,知りたいところである。
しかし,腎イベントのリスクが高い2型糖尿病患者に対してARBもACE阻害薬も投与しないということは非倫理的ですから,実際にそれを検証するのは難しいと思われる。
■Parving
ALTITUDEでも,アリスキレン単独群を設けるかどうかでかなり議論を行なったが,結局,対照群(従来治療群)とアリスキレン上乗せ群の2群間での比較に落ち着いた。
■柏原
IRMA-2,そしてAVOIDなどの結果から,RAAS阻害による抗蛋白尿効果はRAAS阻害の程度に依存していることが明らかです。
このようなRAAS阻害には,ARBとACE阻害薬併用,高用量のARBという選択肢もあると思う。
そうしたなか,ARBとアリスキレンを併用する意義はどのような点にあるのか。
■Parving
AVOIDにおいてACE阻害薬ではなくARBを使ったのは,ARBは副作用が少なく投与量に関してもよくわかっていたからである。
しかし,ARB投与により代償的にレニン活性が亢進してしまう。
アリスキレン併用により,こうしたRAAS刺激のフィードバックが阻害され,その結果UACRが減少することがAVOIDによって示された臨床的意義は大きいと思われる。
■Parving (ARBとACE阻害薬併用)
多数の小規模検討で,ARBとACE阻害薬併用がアルブミン尿を減少させるなどのよい成績が得られている。
投与順序は重要ではないようである。
しかし,微量アルブミン尿を伴うハイリスクの高血圧合併2型糖尿病を対象とした臨床試験IMPROVE(The Irbesartan in the Management of PROteinuric Patients at High Risk for Vascular Events)400例では,ARBとACE阻害薬併用がACE阻害薬単独に比べて微量アルブミン尿の抑制に優れていることを実証できなかった(Bakris GL, et al : Kidney Int 72 : 879-885, 2007)。
■柏原
IMPROVEと違ってAVOIDでよい成績が得られたのは,アリスキレンがレニン活性や(プロ)レニン受容体の発現を抑制したためだと思う。
■Parving (高カリウム血症の頻度)
このような形でRAASのdual blockを行うとき,一番心配なのが高カリウム血症である。
そこで血清カリウム値が5.1mmol/L以上を除外条件の1つに含めた。
推定糸球体瀘過量(eGFR)30mL/分/1.73㎡未満も除外した。
6.0mmol/L以上の高カリウム血症はアリスキレン群14例(4.7%),対照群5例(1.7%)で両群間に有意差はなかった(p=0.06)。
論文にもあるが,アリスキレン群14例のうち9例は実は登録時に血清カリウム値が5.1mmol/L以上であり除外基準に相当していたことがわかりった。
この9例のうち3例は試験から除外した。
また,アリスキレン群のうち1例は血清カリウム値が6.3mmol/Lとなったため試験を中断した。
いずれにせよ,アリスキレン群で高カリウム血症が有意に高まることはなかった。
■鈴木
集合尿細管細胞では,インスリンとアルドステロンが一緒になって作用を発揮していると思うが,アリスキレンがインスリンの作用をブロックしたため,アルドステロンが作用して高カリウム血症にならなかった可能性が考えられる。
■Parving (エスケープ現象・ブレークスルー)
われわれの検討では,アリスキレンにはそうしたエスケープ現象は認められなかった。
■鈴木
それは投与期間によるのかも知れない。
例えばARBでは1年程経ってからエスケープ現象が生じる。
アリスキレンでは,例えば2年以上経ってからエスケープ現象が出現するのかも知れない。
■Parving
その問題の解答を得るためには,アルドステロンのエスケープ現象を評価項目に設定して,ACE阻害薬,ARB,アリスキレンで群間比較をするしかない。
■柏原
いずれにせよ,アリスキレンが最も効果を発揮する病態は2型糖尿病性腎症を合併した高血圧である可能性がある。
アリスキレンは腎組織との親和性が高く,しかもそれが長時間にわたって持続するというのがその理由である。
■Parving
私もそう理解している。
同じ腎症といっても,糖尿病性以外の腎症では様々な要因が混在しているので,一定した効果を得るのは難しいかも知れない。
なおわれわれは,持続性アルブミン尿を伴う2型糖尿病患者に対する血糖・血圧・脂質などに対する多因子介入により,糖尿病に関連する細小血管合併症だけでなく大血管障害も有意に抑制されるというSteno-2試験の成績を報告した(Gæde P, et al : N Engl J Med 348 : 383-393, 2003)。
さらに最近,その後の追跡調査(試験開始から13.3年)でも良好な効果が持続していることが判明した(Gæde P, et al : N Engl J Med 358 : 580-591, 2008)。
#腎臓のサロゲートマーカーを巡って
■伊藤
Parving先生を始めとしたデンマークのグループは,微量アルブミン尿が心血管系疾患のマーカーとして,予後判定に極めて重要であることを報告している。
中心血圧も,予後を予測する重要なサロゲートマーカーである可能性がある。
例えば脳では,大血管から細い穿通動脈が枝分かれしている。
そのため20μm程度の細い血管でも高い血圧に曝されている。
■伊藤
それは腎臓でも同様あるす。
同じ20μm程度の細血管でも,末梢動脈における血圧は20mmHgであるのに対して,腎の輸入動脈では60〜80mmHgと高い血圧がかかっている。
つまり,中心血圧が腎の構造に大きな影響を与えることは明らかである。
腎臓では特に,大血管(弓状動脈)に隣接した傍髄質糸球体に高血圧による損傷が起こることがわかっており,その結果,微量アルブミン尿が出現すると考えられる。
高血圧自然発症ラット(Spontaneous Hypertensive Rats : SHR)では高齢になるにつれて,傍髄質糸球体の毛細管血圧が上昇することも示されている。
つまり,脳や腎臓における微量アルブミン尿は,大血管から枝分かれしている細小血管が損傷されていることを示していると考えられる。
■伊藤
髄質内の血液は傍髄質輸出動脈によって供給されているから,微量アルブミン尿は髄質内に循環障害があることも示している。
つまり,腎は血圧に非常に敏感である。
脳や腎臓などの重要臓器は,生命維持に不可欠な部分を保護するために,早期段階から細小血管に損傷を受けている。
■Parving
そうした細小血管損傷の問題も含めて,われわれにはまだ究明すべき多くの課題がある。
通常,脳血流も糸球体内圧も自動調節能によって適切な値にコントロールされているが,この自動調節能が破綻すると血管に高い圧力がかかって損傷をもたらすことになる。
このような破綻を未然に防ぐことが重要である。
■伊藤
そのためには,本日話題となったRAAS阻害が極めて重要になると思う。
アリスキレンの登場により,強力なRAAS阻害による臓器保護が実現されることを期待したいと思う。
出典 MT pro 2009.12.17
版権 メディカル・トリビューン社
<きょうの一曲> 白い恋人達
白い恋人達 桑田 佳祐
http://www.youtube.com/watch?v=xXQLMK64xL0
その他
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
http://wellfrog3.exblog.jp/
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
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井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/
(内科医向き)
があります。