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Medical Tribuneに3回シリーズで統計学と臨床試験に関する記事が掲載されています。
国立病院機構東京医療センター
臨床研究センター臨床疫学室室長 尾藤 誠司
と
東京北社会保険病院
臨床研究センターセンター長 名郷 直樹
の両先生の対談です。
第1回は
試験に出る統計用語
http://blog.m3.com/reed/20091006
第2回は
臨床試験の正しい理解と活用
http://blog.m3.com/reed/20091023
で勉強しました。
きょうはその最終回です。
対談シリーズ(全3回)/臨床試験を正しく理解し,活用するために 第3回
##臨床試験の知見を日常診療に生かす
2回までは,臨床試験を正しく読み解く際の注意点を取り上げてきた。
しかし,読み解いた情報を実臨床の場に導入する際には,また別の観点からの注意が必要である。
最終回の今回は,臨床試験と実臨床の場の違いを踏まえたうえで,医療の主役である患者にとって最良の診療を行うためのポイントについて考える。
#臨床試験は概して外的妥当性が低いことを念頭に
尾藤
■臨床試験は観察研究と違い,限られた患者を対象としたものですから,内的妥当性が高い一方,外的妥当性は概して低い傾向にあります(図)。

したがって,その結果をそのまま実臨床の場に導入することには無理があると思います。
■そこで取りうる方策は,外的妥当性の高い別のデータと抱き合わせることです。
例えば,自分の病院の電子カルテのデータを解析してみてください。後ろ向き研究は質が悪いと言われますが,後ろ向きに収集されたデータは臨床上の事実ですので研究としての作為はありません。
さらに,対象は「選ばれた人」ではありませんので,外的妥当性は明らかに前向きデータより上です。
その結果と臨床試験の結果をすり合わせ,両者の折り合いを付けることにより,外的妥当性の低い臨床試験の弱点を補完できるでしょう。
名郷
■なるほど。確かに後ろ向き研究は作為がないですよね。
尾藤
■内的妥当性を高めるために位置付けられたプロトコルがあるわけではないので,なかには薬剤は処方されたけれども飲んだり飲まなかったりという患者さんもいると思いますが,それが現実の医療であり,そこから得られる情報は貴重です。
■ただ,後ろ向き研究の場合は,患者さんの背景因子や診断名を合わせることが少々面倒です。
例えば米国の退役軍人(VA)病院では,すべての病院の電子カルテが統一されており,ものすごい数のデータをさまざまな角度から検討していますが,こうした情報源は非常に貴重ですね。
#患者には臨床試験の結果を「翻訳」して説明する
名郷
■先生は,臨床試験の結果を踏まえて治療方針を決定する際に,どのように患者さんに説明していますか。
尾藤
■素人の方に数字をそのまま示しても,ほとんどの人はピンとこないと思いますので,effect sizeを「翻訳」してお伝えするようにしています。
例えば,降圧薬を2種類から3種類に増やすときなら,「薬を増やすと将来脳卒中になる可能性がちょっとだけ減ります」という感じで説明します。
「ちょっと」とか「半分ぐらい」とか,言い方はいろいろですが。
名郷
■「10%が8%に減ります」ではわからないですよね。
尾藤
■あと大事なことは,エビデンスにのっとった一般的な方向性を提示したうえで自分の意見を述べるということです。
「ガイドラインではこうなっています」というだけでは不誠実でしょうし,逆に自分の意見だけを言う医者は傲慢です。
名郷
■わかります。
臨床試験の対照群には「何もしない」という選択肢しかありませんが,現実の臨床ではほかの治療を考える選択肢があります。
それなのに,臨床試験という極端な事例の結果だけを示して「はい,おしまい」というのは,不誠実以外の何ものでもありません。
臨床試験のeffect sizeを実臨床のeffect sizeに翻訳して患者さんに伝えることは,医者の誠意ですね。
#有害事象の説明は患者の利益を考えて行う
尾藤
■「誠意」と言えば,まれな有害事象についてはどこまで説明すべきでしょうか。
プロセス的には,まれなものであっても説明することが誠意ある行動だと思うのですが,医療の立場としての心情では,明らかに有用な薬剤に対して患者さんに不必要な警戒心を抱かせたくありません。
名郷
■例えばスタチンは非常に優れた薬剤ですが,横紋筋融解症についてお話しすると患者さんは不安になります。
それが原因となって治療の機会を逸するようなことになっては患者さんの利益にならない場合もあります。
尾藤
■ええ。
リコメンデーショングレードがAとかBの治療については,あまり説明したくないというのが正直なところです。
名郷
■モニタリングできるものについては,それでいいのではないでしょうか。
スタチンの横紋筋融解症の場合も,CPKのモニタリングを怠らなければ対処できます。
ただ,モニタリングできないものについては説明が必要ですね。
尾藤
■アナフィラキシーやStevens-Johnson症候群などは予想しようがないですからね。
「100万分の1の確率で死ぬかもしれません」といっても現実味がないかもしれませんが,必ず一定の確率で起こります。
現実味が感じられなくても説明するのが誠意でしょうね。
こういう問題を医療者間で話し合うとき,とかく紛争回避という視点で物事を考えがちです。
そうすると,「なんでもかんでも説明しておけばいいじゃないか」となりがちです。
もちろん,紛争は患者さんにとっても不利益なことですので,これを回避しようとすることは間違いではありません。
しかし,常に有害事象への不安を抱きながら生活することもまた患者さんの不利益です。
そういうことも含め,広く患者さんの利益を確保するという視点で物事を見ることが大切だと思います。
#エビデンス・プラクティス・ギャップを埋める試験も重要
名郷
■臨床試験のアウトカムのなかには,「これがほんとうに患者さんのためになるのだろうか」と思うものもあります。
極端な話,「死亡率が減った」といっても,長い目で見れば人は100%死にます。
ある時点で生きているか死んでいるかということだけでなく,死ぬまでのプロセスがどうだったかということも大切です。
尾藤
■究極のアウトカムは患者さんの幸福です。
ただ,幸福は測れないし,医療は人の幸福に100%は責任を持てません。
だから周辺の医学的な尺度で固めているのでしょう。
ただ,HbA1Cが何パーセント下がったとか血圧が何mmHg下がったというときにも,それがどれだけ延命に寄与できるのか,どれだけ日常生活が改善されるのかを想像しながら治療することは大切ですね。
名郷
■この「治療する」という行為において,今の医療界では薬剤の位置付けが大きすぎると思われませんか。
尾藤
■それはあります。少なくとも一流と言われる医学雑誌の最近の内容は,著しく薬剤に偏っていると思います。
名郷 臨床試験も薬剤のトピックに関するものが圧倒的に多いですよね。
尾藤
■おっしゃる通りです。
製薬業界は試験を行う資金を持っていますから,薬剤の試験がある程度多くなるのは仕方がないことだと思いますが,実際には医療的介入全体のなかで薬剤が占める割合は2割くらいだと思います。
残り8割は外科的介入や運動・食事などの生活,それに治療の継続性や周囲のサポート,定期的に医師と面談しているかどうかといったことも大切な要素ですが,残念ながらそういったことに関する検討は非常に少ないですね。
ただ,そうしたなかでも,糖尿病の患者さんの足の状態を定期的に観察するようにしたらアウトカムが向上したというような報告などが少しずつ出てきています。
こういうエビデンス・プラクティス・ギャップを埋めるためのエビデンスをつくろうという動きが出てきていることはたいへんよいことだと思います。
名郷
■これからはエビデンス・プラクティス・ギャップを埋めるような研究も必要だということですね。
その際には,わが国の皆保険という制度をデータベースとして活用できれば,米国のVA研究に匹敵する素晴らしい研究ができると思います。
それにはまず医療情報を二次利用できる仕組みをつくることが必要ですが,ぜひ取り組んで欲しいですね。
尾藤
■同感です。
国立病院機構で働いていると,情報を相互交換するネットワークの重要性を実感します。
幸いなことに,最近はかつての「医局の壁」が崩壊しつつあり,インタレストグループ,つまり興味を持ったもの同士のつながりが形成しやすくなってきています。
がん領域における日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)などはその最たる例であり,世界に誇るトップクラスのエビデンスを次々と出しています。
こうした緩やかな横の結び付きを利用した多施設研究こそが,これからの日本の目指すべき姿ではないかと思います。
ただし,そうした「緩やかな結び付きの集団」は,病院や大学などとは違い,事務局やデータセンター業務を担う組織基盤がありません。
したがって,現在わが国で稼働している数少ないインタレストグループのほとんどは,外部組織に高いお金を払って事務局業務を委託しています。
言い換えれば,お金のないグループには,大規模な共同研究はできないのが実状です。
こうした状況を打開し,既成の枠組みを離れた研究形態をわが国に根付かせるためには,運営のノウハウを持つ人材を内部で育成し,コストダウンを図るなどの工夫が必要でしょうね。
出典 Medical Tribune 2009.10.15
版権 メディカル・トリビューン社
<製薬会社資料コーナー>
製薬会社との間に利益相反はありません。
あくまでも勉強目的であり、使用の奨励やましてや反対の立場に立つものではないことをご理解下さい。
ミカルディス
第7回「虚血性心疾患患者への有用性が期待されるミカルディス」
http://nbi.m3.com/ck9a5739b172cbc8b4845a107d7fe179c6a73/contents/evidencenews/07/index.html?cid=20091038DI
■ミカルディスは、
RASを強力に抑制することにより、優れた降圧効果を発揮するARBであり、血管内皮前駆細胞(EPC)を増加させる可能性が示唆されている。
■ミカルディスはバルサルタンとの降圧効果を比較したMICADO試験で、より強い降圧効果が実証された。
■末梢血の中に骨髄由来の血管内皮前駆細胞(EPC)が多く含まれている患者では心血管イベントの発生率が低い。
Werner N et al. N Engl J Med 353:999-1007,2005
■同じARB間でもEPC増殖への影響は異なる。
■ミカルディスが他のARBと大きく異なる点とりて、PPARγの活性化作用が知れれている。
■ PPARγを阻害するGW9662を用いた実験系でミカルディスによるEPC 増殖促進作用は PPARγを介したものであることが推測された。
<きょうの一曲>
Harry Belafonte,Jamaica Farewell
http://www.youtube.com/watch?v=dyGuP3_ajZg&feature=related