戯れ言たれる侏儒
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動脈硬化の新たな治療法

戯れ言たれる侏儒 / 2009.08.31 00:20 / 推薦数 : 1

昨日は、最近特別講演を聴いた佐田教授の研究をとりあげました。

心臓周囲脂肪
http://blog.m3.com/reed/20090831

ちょっと古いのですが、先生の東大在局中の2002年の業績が目にとまりました。

動脈硬化の発生機序についての新しい説をNature Medicine誌(Apr,8(4):403-409、2002)に発表されたという、ある雑誌の”Top runner in coronary research”というコーナーの記事です。


■これまで心筋梗塞などの動脈硬化性疾患は、Ross が言うように、もともと血管中膜にあった平滑筋細胞が、血管傷害による炎
症をきっかけに内皮下へ移動・増殖し、血管内腔を狭窄することでのみ生じるものと考えられてきました。
しかし、それが本当かどうかを実際に確認した人はいません。(佐田)

■そこで私は、動脈硬化病変で増殖している平滑筋細胞の起源を検討することにしました。
消化管、血管中膜およびneointima(新生内膜)の平滑筋細胞の遺伝子解析を行った報告をみますと、新生内膜の平滑筋細胞には、筋細胞由来の細胞には必ずみられるはずのdesmin などの発現がほとんど認められませんでした。
そのため私は、血管中膜と新生内膜の平滑筋細胞はphenotype の変化というよりも、起源そのものが違うのではないかという“妄想”を抱き、種々の検討を重ねていきました。(佐田)

■そして、野生型マウスとLacZ マウス間で異所性心臓移植をした実験系や、骨髄置換マウスの大腿動脈に機械的障害を与えた実験系などの結果から、動脈硬化病変部で増殖している平滑筋細胞の起源が、実は骨髄幹細胞(造血幹細胞を含めた骨髄由来血管前駆細胞)であることをつきとめました。
同時に、in vitroの実験系で、全骨髄もしくは造血幹細胞から平滑筋型アクチン、カルポニン陽性細胞が分化誘導できることを確認し、従来血液だけを造ると考えられていた造血幹細胞も、ある条件や環境の下では平滑筋細胞になり得ることを明らかにしました。
これらのことから、私は、バルーンや移植により血管が傷害され、炎症が起こると、骨髄から幹細胞が流血中に動員され、傷
害血管に定着・平滑筋細胞に分化したのち増殖し、傷害後血管修復と動脈硬化形成へ寄与するという説をN a t u r e
Medicine で提唱したのです。(佐田)

■血管形成術や心臓移植など血管がかなりの傷害を受けた後に生じる動脈硬化には、骨髄幹細胞の関与が強いと思います。
しかし、私の理論は、決してRoss の仮説にとって代わるものではないと考えています。
例えば、高脂血症や糖尿病などを基盤として慢性的に生じてくる
動脈硬化の場合、初期の頃にみられるdiffuseな新生内膜の形成には、Ross の仮説が示すように血管内膜に存在する平滑筋細胞の増殖が関与していると思います。
一方、私たちは、50 週齢の高脂血症・慢性動脈硬化マウスの骨髄を放射線で破壊し、健常マウスの骨髄で入れ替えた後、動脈硬化病変を観察するという実験系で、骨髄幹細胞が動脈硬化病変における平滑筋細胞の増殖や血管新生に関与することを確認しています。
慢性動脈硬化症でも、脂質沈着に富み脆弱化した末期病変の場合は、これと同様、Ross の仮説ではなく、私の理論でうまく説明がつくのではないかと思っています。(佐田)

■傷害血管への骨髄幹細胞の動員、循環、定着、分化、増殖――の機序を分子レベルで明らかにすることが、動脈硬化、特に血管形成術後再狭窄や移植後動脈硬化症などの血管病の有力な治療法の開発につながると信じています。(佐田)

■私の理論を臨床に応用する方向性は、骨髄幹細胞をいかに上手に制御するかです。
骨髄幹細胞が流血中に循環し、傷害血管部位へ定着、分化・増殖するまで数多くのステップがあります。
その中で、どの段階にどう働きかければ、一番治療効果が高く、副作用が少ないのかを模索中です。(佐田)

■例えば大動物を用いた実験で、骨髄をすべて抑制すれば、動脈硬化病変が消失するという報告がなされています。
しかし、ヒトで全骨髄を抑制することはできません。
そこで私たちは、現在、血管傷害を契機に過剰発現するM-CSF、SDF、MCP-1、TNF-αなど、骨髄幹細胞の動員因子として候補にあがっているものの中から、最も重要な因子を見つけだす研究をしています。
それを局所で、一過性に特異的に抑制することができれば、有効な治療法になり得ると思うからです。
また最近は、幹細胞の分化はもともとの細胞の性質というより、定着した場所の性質により方向づけられると考えられるように
なってきています。
このことから私たちは、動脈硬化では骨髄から出てくる幹細胞は比較的未分化なままで、血管傷害部位に定着することにより、そこにもともと存在していた何らかの因子の影響を受けて平滑筋細胞へ分化するのではないかという仮説を立て、それを証明するための実験系を準備中です。
これにより、骨髄幹細胞から平滑筋細胞への分化過程、分化制御の機序がわかれば、有効な治療法を確立できるのではないかと考えています。(佐田)

■血管形成術後再狭窄を予防するために、免疫抑制剤のラパマイシンでコーティングしたステントが開発されています。
ラパマイシンが細胞増殖を抑制するには、細胞に発現しているFK506-binging protein(FKBP)などのアダプター蛋白に結合
する必要があります。
しかし、冒頭で述べた遺伝子解析において、FKBP は血管中
膜の平滑筋細胞ではなく、新生内膜に豊富に発現しています。
私たちは、ラパマイシンが、従来言われていたような中膜平滑筋細胞ではなく、骨髄由来の平滑筋細胞の増殖を抑制して血管形
成術後再狭窄を予防していると推察し、その実証のための研究をしている最中です。(佐田)

■また、留置されたステントが血管内に固定するまで、ある意味で創傷治癒反応と言える良性の炎症反応が生じなければなりません。
ステントの内側が一層の内皮細胞で覆われる程度で創傷治癒反応が終わることが理想です。
この反応のover shootingが、平滑筋細胞の過増殖による血管内
腔の狭窄につながると考えています。
治療法をより有用にするには創傷治癒反応のタイムコースを考慮し、適切な時点で抑制をかけることが重要で、そのポイントを探している途中です。(佐田)

■これらが明らかになれば、ステントコーティング剤としてラパマイシンが本当に適切なのか、over shootingのみを抑制するラパ
マイシンのコーティング方法とは何か、あるいは、骨髄由来平滑筋細胞の増殖を抑制する特異的な物質やover shooting のみを抑制する物質はないかなどが分かり、薬剤コーティングステント留置法をより有効な再狭窄予防法に改良できると思います。(佐田)

出典
骨髄由来の平滑筋細胞を標的に動脈硬化の新たな治療法を模索
http://www.novartis.co.jp/ebm/evidence200303.pdf

発行 日経メディカル開発
提供 ノバルティス ファーマ(株)

<関連サイト>
東京大学大学医学部循環器内科助手 佐田政隆先生
http://www.e-doctor.ne.jp/contents/anohito/a02-08.html

<きょうの一曲>
Ravel - Bolero - Daniel Barenboim - Berliner Phil. Pt. 1
http://www.youtube.com/watch?v=S2q-gWMAGjw&hl=ja

Ravel - Bolero - Daniel Barenboim - Berliner Phil. Pt. 2
http://www.youtube.com/watch?v=MP3qwZxm7p4&hl=ja

石田しのぶ 田園の村 F8
http://www.ichimainoe.co.jp/index/ishida_shinobu.html

その他
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
 「井蛙内科/開業医診療録(3)」2008.12.11~
http://wellfrog3.exblog.jp/
「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21~
http://wellfrog2.exblog.jp/
「井蛙内科/開業医診療録」 ~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/ 
(内科医向き)
があります。

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