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兵庫県立尼崎病院循環器内科 佐藤幸人部長が書かれた記事で勉強しました。
内容は、糖尿病を合併していない高血圧患者での厳格な降圧はどういった臨床的意義があるかという内容です。
周知のごとく、JSH2009では糖尿病合併例の降圧目標値は若年者・中年者に比較して拡張期で5mmHg、高齢者と比較して収縮期・拡張期ともに10mmHg低い数値となっておりより厳格な降圧目標を設定されています。
糖尿病非合併高血圧での厳格降圧の有用性は?
心電図心肥大所見を指標としたイタリアの前向き研究から
研究の背景:
糖尿病を合併しない場合も“the lower the better”か?
高血圧は脳卒中,心筋梗塞,心不全などの心血管イベント発症の危険因子であり,血圧値が上昇すると段階的にリスクが上昇することが知られている。
また,種々の降圧薬の介入試験により,降圧が心血管イベントの抑制につながることも周知の事実である。
降圧目標値は,前向き試験と疫学的データから総合して設定するが,糖尿病を合併した高血圧患者では厳格な降圧目標値が必要であり,日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2009」にも明記されている。
しかし,糖尿病を合併しない高血圧患者において,脂質異常の介入試験のように“the lower the better”なのかどうかまでは不明であった。
今回取り上げるCardio-Sis試験は,その大きな疑問に対する回答を得る目的でイタリアで行われた多施設前向き試験である(Lancet 2009; 374: 525-533 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/19683638)。
研究のポイント:
心電図心肥大所見の発生が強化治療群で有意に抑制
1,111例の非糖尿病高血圧患者〔収縮期血圧(SBP)150mmHg以上〕を対象に,降圧目標がSBP 140mmHg以下の通常治療群(553例)と130mmHg以下の強化治療群(558例)に割り付けた。
1次エンドポイントは,心電図の心肥大所見である
(1)modified Cornell voltage,
(2)T波strain pattern ,
(3)Romhilt-Estesスコア
のいずれかを満たす頻度とした。
2次エンドポイントは,複合エンドポイント(総死亡+心筋梗塞+脳卒中+心房細動+心不全入院+狭心症+冠動脈再建)とした。
中央値2.0年の追跡後,血圧値は通常治療群では23.5/8.9mmHg低下,強化治療群では27.3/10.4mmHg低下した。
両群間の差はSBP 3.8mmHg,拡張期血圧1.5mmHgであった。
2年後にSBP 140mmHg未満を達成したのは,通常治療群で66.9%,強化治療群で78.7%, SBP130mmHg未満を達成したのは順に27.3%, 72.2%であった。
2年後の平均血圧値は,順に135.6/78.7mmHg,131.9/77.4mmHgであった。
1次エンドポイントである心電図心肥大所見は2年後,通常治療群17%,強化治療群11.4%に生じ,強化治療群の通常治療群に対するオッズ比は0.63(95%信頼区間0.43~0.91,P=0.013)であった(図1)。

同様に,2次エンドポイントである複合エンドポイントはそれぞれ9.4%,4.8%に生じ,強化治療群の通常治療群に対するハザード比は0.50(95%信頼区間0.31~0.79,P=0.003)であった(図2)。

複合エンドポイントのこの有意差はおもに,冠動脈再建,心房細動の抑制によるが,他の心筋梗塞,心不全,脳卒中,総死亡というエンドポイントを比較しても強化治療群で通常治療群よりも抑制傾向が認められた。
副作用の発生は両群間で差が認められなかった。
佐藤幸人部長の考察:
日本のガイドラインは本研究の結果を先取り
各国の高血圧治療ガイドラインでは,糖尿病合併高血圧はより厳格な降圧目標値が設定されているが,糖尿病を合併しない患者群においてもより厳格な降圧目標値が有用であるかどうかは不明であった。
本研究は,患者の平均年齢67歳,糖尿病を除外した患者において,SBPは130mmHg未満に設定したほうが,心血管イベントが抑制できるという結果であった。
米国高血圧合同委員会第7次勧告(JNC7)では,降圧目標値は140/90mmHg未満とされたが(JAMA 2003; 289: 2560-2572
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/12748199),日本の「高血圧治療ガイドライン2009」では若年者,中年者の降圧目標は130/85 mmHg未満であり,本研究結果を先取りしたガイドラインと言える。
一方,高齢者を対象とした日本のJATOS試験(平均年齢73.6歳)では,厳格降圧群(SBP 140mmHg未満)と緩和降圧群(SBP 140~160mmHg未満)に割り付けられた結果,2年間の経過観察中,両群間に心血管イベントの発症率の差は認められなかった(Hypertens Res 2008; 31: 2115-2127
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/19139601)。
したがって,年齢によって結果が異なる可能性もある。
また,今回の降圧目標値よりもさらに厳格にした場合の検討も必要である。
もう1つ本研究で注目すべきは,心電図の心肥大所見をエンドポイントとしたことである。
降圧が得られても臓器障害が残存した症例では将来心血管イベントを生じるわけであるが,心臓の臓器障害の検出法として心電図の心肥大所見が最近注目されている。
その理由は,心電図心肥大所見は,降圧とは独立した予後予測因子であり,心エコーよりも簡便に行えるからである。
本研究でもその点が強調され,降圧に伴う心血管イベントの抑制とともに,臓器障害の独立した指標として心電図心肥大所見の改善を報告している。
この点は実はアンジオテンシン II 受容体拮抗薬(ARB)ロサルタンと,β遮断薬アテノロールを比較したLIFE試験でも指摘されており,ロサルタンはアテノロールと比較して心血管イベントのみならず,心電図心肥大所見も抑制している(Lancet 2002; 359: 995-1003
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/11937178)。
また,経過中の心電図心肥大所見の改善が予後の改善と,血圧値とは独立して相関することも報告されている。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr090809.html?ap
出典 MTpro 2009.8.24
版権 メディカル・トリビューン社
<関連サイト>
厳密な血圧コントロールと左室肥大の退縮
http://blog.m3.com/reed/20090823
<コメント その1>
「糖尿病を合併しない高血圧患者において,脂質異常の介入試験のように“the lower the better”なのかどうかまでは不明であった」・・・脂質異常で“the lower the better”は本当にコンセンサスが得られているのでしょうか。
<コメント その2>
こういった血圧に関する研究でいつも思うことがあります。
データとしてとられた血圧値がどのような方法でとられたものかということかです。
このあたりがはっきりしないままデータが一人歩きしている気がしてなりません。
図になったり統計処理されたり活字になったデータを鵜呑みにするリスクは常につきまといます。
これは血圧に限った話ではありませんが。
以前にも書いた覚えがありましたが、私の出身大学は伝統的に高血圧の研究をしています。
後年、高血圧の権威となられた某先生が講師だった頃にポリクリで「血圧の測定は奥が深いんだよ」といわれた言葉は忘れられません。
高血圧の研究をチェックする際には血圧値のデータ取りがどのように行われたかということを考察する習慣が必要と思われます。
しかし多くはお互いの暗黙の了解で済んでいるようです。
その他
ふくろう医者の診察室http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
「井蛙内科/開業医診療録(3)」2008.12.11~ http://wellfrog3.exblog.jp/
「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21~ http://wellfrog2.exblog.jp/
「井蛙内科/開業医診療録」 ~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/
(内科医向き)
があります。