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ステント留置による血管内治療は冠動脈が代表的だが,それ以外に四肢動脈,頸動脈,腎動脈に対しても行われている。しかし,冠動脈に比べると,これまで他の動脈に対する血管内治療の施行は限定的であった。
そのおもな理由としては,
(1)臨床的有用性を証明する確固たるエビデンスが存在しない
(2)部位に適合したデバイスが開発されていない
(3)手技が難しい
などが挙げられる。
しかし近年,こうした問題は徐々に克服され,それに伴い冠動脈以外の動脈に対する血管内治療の施行も増加しつつある。
今回,昨年保険償還された頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting;CAS)について神戸市立医療センター中央市民病院脳神経外科の坂井信幸部長に,先ごろ保険償還された腎動脈ステント留置術については心臓血管センター北海道大野病院の山下武廣副院長(循環器科)に,現状および展望を解説してもらった。
プロテクションデバイスの開発が適用拡大を促すCAS
CASは頸動脈狭窄症に対する治療法で,世界的には1990年代後半から本格的に施行されてきた。
わが国でも2004年ころから施行数が増え始め,2008年4月に保険承認されたことで,その傾向に拍車がかかりつつある。
わが国におけるCASのパイオニアの1人である坂井部長は「CASの導入以来,わが国の頸動脈狭窄症の治療は大きく変貌しつつある」とし,さらに「外科手術に比べて低侵襲で,入院期間も短くてすむCASは今後,さらに急速に適用が拡大する可能性がある」と述べた。
CEA高リスク例を中心に施行されてきたCAS
頸動脈狭窄症は,頸動脈分岐部のアテローム動脈硬化症により頸動脈が狭窄することによって起こる。
言葉が出にくい,手足が痺れるなどの症状を伴うこともあれば,無症状のまま経過することもある。
同症は,脳梗塞(アテローム血栓症)発症の重要なリスクファクターとなる。
頸動脈狭窄症の治療は,狭窄が軽度であれば,抗血小板薬などによる内科治療が適応となる。
しかし,狭窄が中等度以上になると,たとえ内科治療が十分であっても脳梗塞の発症,再発リスクは高い。
こうした症例では,狭窄部に対する局所的な治療として,頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy;CEA)あるいはCASが施行される。
CEAは頸動脈狭窄部を切開し,狭窄の原因となっている内膜のアテロームを取り除くことで狭窄部を拡大する外科治療である。
高度狭窄例に対し内科治療に加えてCEAを施行すると,内科治療単独に比べて脳梗塞の再発率が有意に抑制されることが,大規模臨床試験により証明されている。
CASはカテーテルを用い,経皮的に頸動脈にステントを設置する血管内治療である。
1970年代後半から試みられているが,報告が増え始めたのは90年代に入ってからとなる。
しかし,既にCEAという治療法が存在したため,CASはCEAの適用が難しい,CEA高リスク症例を中心に施行されてきた。
わが国でも2008年4月に保険承認
CASには,導入当初から指摘されてきた1つの問題がある。
それは,術中に合併症としての脳塞栓症を起こすリスクが高いことだ。
CASでは血管拡張に伴いアテローム性プラークが破砕され,それにより生じたデブリス〔debris(仏);破片〕が頭蓋内動脈に迷入して,脳塞栓症を起こしやすい。
この周術期合併症を防ぐ有効な手立てがなかったために,CASは低侵襲ではあるがリスクの高い治療と認識され,普及を妨げることになった。
ブレークスルーは1990年代後半になって,脳塞栓症のプロテクションデバイスが開発されたことで訪れる。
このデバイスの原理は,CASと同軸で使用できる血管閉塞用バルーンやフィルターなどを狭窄部の遠位部に留置し,それによりデブリスを捕捉するというもの。
フィルターにはレーザーカットで微細な孔が開けてあるので,術中でも血流は保持される(図1)。
「プロテクションデバイスの開発により,CASの術中の安全性は劇的に改善し,欧米でのCASの適用は飛躍的に拡大した」と坂井部長。
プロテクションデバイスを用いたCASに関する最初の大規模臨床試験は,2000年から米国で開始されたSAPPHIRE※1である。
対象はCEA高リスク(症候性で50%以上,無症候性で80%以上の狭窄率)の頸動脈狭窄症患者334例で,CAS群とCEA群それぞれ167例ずつに無作為割り付けした。
主要評価項目は,「術後30日以内の死亡+脳卒中+心筋梗塞および術後31日以降1年以内の死亡+治療側脳卒中」の累積発現率。
2004年に行われた結果報告では,累積発現率がCAS群12.2%,CEA群20.1%で,CASはCEAより有意に優れており(P=0.05),CASのCEAに対する非劣性が証明された(図2)。
この結果を受け,同年,CASは米食品医薬品局(FDA)により認可された。

プロテクションデバイスは,わが国でも2004年には入手可能になり,それ以降CASの施行数は増加し始める。
また,SA PPHIRE試験の結果を受け,2008年4月にわが国でもCASが保険承認されたことが追い風となり,CASの適用は急激に拡大する勢いを見せている。
関連12学会で実施基準のコンセンサスを取りまとめ
CASは脳梗塞発症または再発予防のために行う治療であり,それによる予防効果がCAS施行に伴うリスクを上回っていてこそ意義がある。
すなわち,周術期リスクをできる限り低減させることと,長期予防効果のエビデンスを確立することが, CAS存立のための必須条件と言える。
周術期リスクをできるだけ低減するために,坂井部長は「まず何より適応をきちんと守ることと,施術者がCASのスキルに習熟することである」と言う。
この目的のために,関連12学会ではCAS実施基準と術者トレーニングに関するコンセンサスを取りまとめた(http://www.jacct.com/cas/top.html)
)。
同部長は「これからCASを実施したい施設や医師は,まず学会のホームページで検討したうえで,既に関連12学会が認めた指導医の資格のある医師に相談して欲しい」としている。
CASの長期予防効果については,CASが新しい治療法で,現在も急速に進歩を続けている手技であるため,エビデンスが追い付いていないのはやむをえないと言える。
わが国では2008年4月からCASの初期成績と1年までの経過を見るJ-CASES PMS※2が開始されている。
今後は,長期予防効果を証明するための努力を続ける必要がある。
同部長は「CASが周術期リスクと長期予後においてCEAに劣らないことがわかれば,CASの低侵襲で,入院期間が短縮するという利点は,もっとクローズアップされてくるはず。頸動脈狭窄症の治療の主役がCEAからCASに移行するのは,そう遠くないと思われる」と結んだ。
※1 Stenting and Angioplasty with Protection in Patients at High Risk for Endartrectomy
※2 Japan Carotid Artery Stent Education Systemによる市販後調査
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=0&order=1&page=0&id=M42300761&year=2009
出典 Medical Tribune 2009.7.23、30
版権 メディカル・トリビューン社
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