戯れ言たれる侏儒
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< カルシウム拮抗薬と虚血性心疾患 | メイン | NSTEMIと抗血小板薬 >

冠動脈性心疾患のリスクが中レベルを超えるすべての健常人へのアスピリンのルーチン使用には有効性に問題がある。つまり、「一次予防におけるアスピリンの使用にメタ解析が疑問を呈した」という論文がLancet誌に掲載されました。
低用量アスピリンの1次予防効果は限定的
メタ分析の結果、出血リスク上昇に優る利益は見られず

閉塞性の血管疾患の既往がある人々に、2次予防を目的として低用量アスピリンを投与する方法は、利益がリスクを上回ることが示されている。
しかし、1次予防を目的とする投与の利益とリスクのバランスは明らかではない。
国際的なAntithrombotic Trialists'(ATT)Collaborationの研究者たちは、質の高いメタ分析を行い、1次予防においては絶対リスクの減少幅は小さく、出血リスクの上昇に優る利益は見られないことを明らかにした。
詳細は、Lancet誌2009年5月30日号に報告された。

これまでにも1次予防におけるアスピリンの影響を評価するメタ分析は行われていたが、個々の患者のデータを集めて分析した研究はなかった。
そこで著者らは、アスピリン投与群と、アスピリンを含む抗血小板薬を投与しないグループの血管イベントと出血イベントについて比較した無作為化研究を選出。
それぞれの主任研究者に協力を求めて個々の患者データを入手し、より質の高いメタ分析を行うことにした。

閉塞性疾患歴がなく、糖尿病ではない1000人以上の人々を対象に、低用量アスピリンを2年以上投与して長期的な一次予防効果を評価した6件の無作為化試験を対象に、重篤な血管イベントと大出血について分析した。
重篤な血管イベントは、冠イベント(非致死的心筋梗塞、冠疾患死亡)、脳卒中(非致死的脳卒中、脳卒中死亡)、その他の血管疾患死亡とした。

出血リスクの分析は、頭蓋外の大出血(主に消化管出血で、輸血が必要または死に至るイベント)を対象に行った。

初回イベントに関するデータを収集し、intention-to-treatで分析した。

血管イベントリスクの低い9万5000人を66万人-年追跡したところ、3554人に重篤な血管イベントが見られた。

血管疾患による死亡は、0.19%と0.19%(p=0.7)で有意差なし。血管系以外の疾患による死亡にも差はなく(p=0.1)、原因不明の死亡についても差は見られなかった(p=0.7)。
したがって、全死因死亡の率比は0.95(0.88-1.02、p=0.1)となり、アスピリン投与の影響は認められなかった。

一方、アスピリンは頭蓋外の大出血リスクを高めていた(0.10%と0.07%、率比1.54、1.30-1.82、p<0.0001)。

以上の1次予防におけるデータと比較するために、長期的な2次予防効果について評価していた16件の無作為化研究についても同様に分析した。 
 
心筋梗塞歴のある患者を登録した6件の研究、脳卒中または一過性脳虚血発作歴のある患者を対象とした10件の研究は、計1万7000人のハイリスク者を4万3000人-年追跡していた。
重篤な血管イベント発生は3306人だった。 

2次予防試験では、重篤な血管イベントのリスク低下は1次予防の場合より大きかった。
年間のイベント発生率は、アスピリン群6.7%、対照群8.2%。絶対リスク減少は1.5%、率比0.81(0.75-0.87、p<0.0001)で相対リスク減少は19%だった。

出血性脳卒中のリスクは、有意ではないが上昇していた。
一方で、脳卒中自体のリスクは有意に低下し(2.08%と2.54%、p=0.002)、冠イベントも有意に少なかった(4.3%と5.3%、p<0.0001)。

血管疾患死亡は率比0.91(0.82-1.00、p=0.06)と低下傾向を示し、全死因死亡のリスクはアスピリン群で10%低かった(0.90、0.82-0.99、p=0.02)。

頭蓋外の大出血はアスピリン群で有意に多かったが、イベント発生がアスピリン群23人、対照群6人と少なかったため、信頼性の高い結果は得られなかった。

予想通り、2次予防に関する試験では、1次予防に関する試験に比べて絶対リスク減少が大きかった。
例えば、冠イベントの相対リスク減少は、1次予防が18%、2次予防は20%でほぼ同等だったが、絶対リスク減少は0.06%と1.00%と、明瞭な差を示した。

今回の結果は、低用量アスピリンを1次予防に適用した場合の総合的な利益を示すことはできず、1次予防を目的とする広範な投与を支持するデータは得られなかった。

原著
Aspirin in the primary and secondary prevention of vascular disease: collaborative meta-analysis of individual participant data from randomised trials
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(09)60503-1/abstract

 

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/lancet/200906/511241_2.html

出典 NM online 2009.6.22(一部改変)
版権 日経BP社

<追加編>
Baigent博士はheartwireに次のように論評した:「我々が今回報告したデータは、これまで利用可能でなかったものである。
現在のガイドラインは以前に行われたメタ解析に基づくものだが、それらには限界がある。我々は、心疾患のリスクが比較的高い人々は同じくアスピリンによる出血リスクも比較的高いことを初めて明らかにしたが、これは非常に重要な情報でありアスピリンの使用方法に影響を及ぼすに違いない」。

「医学は近年進歩しており、現在、コレステロールと血圧を下げることによって心疾患のリスクを安全に下げることができ、これらのリスクファクターを軽減するために使用される薬剤はおそらくアスピリンよりも安全であることがわかっている。リスクを下げたいと願う人々が、スタチンまたは降圧薬を最初に使用し、その後に限り、アスピリンのような比較的安全性の低い薬剤を追加しようと考えるのは理に適っているだろう」と博士は付け加えた。

Baigent博士は、ある程度のリスクを超えるすべての人々の一次予防にアスピリンを推奨している現在のガイドラインは、この新規メタ解析によって支持されないと指摘した。
「我々がガイドラインの変更を推奨するのではないが、ガイドライン委員会は今こそ、これらの新規知見を考慮に入れて勧告を再検討しようと考えるだろうと私は思う」と博士は述べた。
「私は一次予防にアスピリンを決して使用すべきではないと言っているわけではなく、ある種の人々はリスクとベネフィットについて医師と話し合った上でそれでもアスピリンの服用を希望するかもしれないが、私はそれは結構だと思う。しかし我々のデータは、中程度を超えるCHDリスクを有する人々の一次予防のためのルーチン使用を推奨する公共政策を十分に正当化するだけの、リスクを上回る重要なベネフィットがあるという、良いエビデンスがないことを示唆している」 。

この意見は、アスピリンの絶対的ベネフィットがはるかに大きく出血のリスクを上回る二次予防に関する勧告には影響しないと、博士は付け加えた。

個人単位で判断すべき?
論文についてheartwireにコメントしたDeepak Bhatt博士(ブリガム女性病院、マサチューセッツ州ボストン)はBaigent博士の意見に賛成した。
Bhatt博士はメタ解析を、「非常に出来栄えが良く」、「確固たる」知見を示していると述べた。
「著者らは、非致死的虚血性事象の一次予防におけるアスピリンのベネフィットは、出血性脳卒中の軽度の増加を含む出血事象の増加によって大部分が相殺され、血管性事象による死亡率に対する正味の効果はないことを確認している。
虚血性事象のリスクファクターが出血性事象のリスクファクターと同様であったことは、それ自体、興味深い観察知見である。男性と女性における効果が異なるというよりもむしろ類似していたことから、抗血小板療法は生物学的に意味をもつ」とBhatt博士は言及した。
「したがって私は今のところ、一次予防のためにアスピリンを使用するかどうかの判断は、医師と患者による個人単位での虚血および出血のリスクの熟慮の結果としての評価に基づいてなされるべきだと思う。私は、患者が医師に相談せずに一次予防のためのアスピリンの開始を決めるのは間違いだと思う。進行中の試験は、大規模な一次予防の領域においてどの患者が本当にアスピリンを使用すべきかを解明するのに役立つはずである」と博士は付け加えた。

#以前に行われたメタ解析には限界があった
著者らは論文において、すでに閉塞性血管疾患のある患者の場合、血管事象の軽減に関する長期アスピリン治療のベネフィットは出血リスクよりもはるかに大きいことがはっきりしているが、一次予防におけるリスクとベネフィットのバランスはそれほど明らかではないと説明している。
その理由は、患者の血管疾患リスクがより低いためアスピリンの絶対的ベネフィットの大きさが二次予防よりも1桁小さいからである。
著者らは、アスピリンの一次予防試験に関する以前のメタ解析は個々の被験者のデータに基づいたものではなかったため、予後面で重要な群(高齢者や冠動脈性心疾患のリスクが高い人々など)におけるアスピリンのベネフィットとリスクを確実に比較することができず、冠動脈性心疾患のリスクが上昇している人々のうち出血のリスクも上昇している人々の割合を確実に定量化することができなかったと指摘している。
したがって現在のガイドラインでは出血リスクの差を概ね無視して、心疾患リスクが中程度に上昇している人々の一次予防としてアスピリンを広く使用することを推奨しており、年齢が冠動脈性心疾患リスクの主要な決定因子であることからガイドラインでは特定の年齢を超えるすべての人々に対してアスピリン連日投与を開始すべきだと推奨していると、著者らは付け加えた。

著者らは現在のガイドラインの基礎をなす解析の限界を考慮して、アスピリンによる一次予防に関するすべての大規模試験の首席治験責任医師が関係する確立された個々の被験者のデータのメタ解析を照合した。

一次予防に関する6試験の結果から、重篤な血管事象の年間発生率がアスピリンに割り当てられた群では0.51%であったのに対して、対照群では0.57%であったことが明らかになった。
この1年あたり0.07%の絶対減少は、12%の相対的減少に相当した。重大な出血(major bleeds)のリスクはアスピリンによって1年あたり0.07%から0.10%に増加し、0.03%の絶対増加であった。

血管事象の相対的減少はすべてのサブグループにおいて同様
重篤な血管事象のこのような相対的減少は、年齢、性別、喫煙歴、血圧、総コレステロール、ボディマス指数、糖尿病の既往歴、または冠動脈性心疾患の予測リスクに有意に依存しなかった。
著者らは、冠動脈性心疾患の推定リスクが非常に低い、低い、中程度、および高い人々におけるアスピリンの相対的効果を示唆する有意な傾向すら認められなかったと指摘している。
「これらの異なるサブグループにおける相対的なリスク減少が本当に同様であるなら、絶対リスクの減少は、無投与の状態での個人の絶対リスクに主に依存することになる」と著者らは論評している。

著者らは、年齢または性別に関係なく、一次予防集団における閉塞性事象の絶対減少の大きさは、出血の絶対増加の約2倍にすぎないだろうと計算している。
そして、これらの試験に参加した大部分の人々は、MIと脳卒中の両方を減らし危険性がほとんどないと考えられるスタチンを服用していなかったことも、著者らは指摘している。
著者らはスタチンのジェネリック薬が現在、低価格で広く利用可能であることに注目して、有効性と安全性のため、もしかするとスタチンによる一次予防はアスピリン単独による一次予防よりも好まれるかもしれないと示唆している。
「もしそうなら、今日の一次予防におけるアスピリンに関する主な疑問のひとつは、スタチンにアスピリンを追加することに価値があるのかということである」と著者らは述べている。

著者らは、もし血管疾患のリスクがすでにスタチンによってほぼ半減しているなら、アスピリンを追加することによって得られる更なる絶対的ベネフィットはこれらの一次予防試験で示唆されたもののほぼ半分の大きさにすぎないかもしれないが、重大な出血の危険性は残存するかもしれないと付け加えた。
「その場合、先在疾患のない人々に長期アスピリンを追加することのベネフィットと危険性は、大体同じ大きさになるだろう」と著者らは述べている。

#いくつかの因子が心疾患と出血のリスクを決定する
著者らは、解析は、心疾患のリスクを決定する因子と同じ因子がアスピリンによる出血のリスクも決定することを示唆しており、そのため冠動脈性心疾患のリスクが中程度に上昇している人々の場合も、スタチンをベースにした一次予防投与法にアスピリンを追加することによる主要な絶対的ベネフィットと危険性は依然としてほぼ互角であった可能性があると述べている。

「薬剤の安全性は、見たところ疾患のない大規模集団に対する公衆衛生勧告においては特に重要である;適切な差でリスクを上回るベネフィットがあるという、良いエビデンスがなければならない。それゆえ、現在利用可能な試験結果は、長期アスピリンを自分が使用することについての個人別の適切な判断を個人的に説明するのには役立つかもしれないが、冠動脈性心疾患リスクが中レベルを超える見たところ健康な多くの人々へのアスピリンのルーチン使用を支持する一般的ガイドラインを正当化するようには思われない」と、著者らは結論づけている。

#論説ではベネフィットが得られると思われる群を明らかにしようと試みている
付随する論説において、Ale Algra博士とJacoba Greving博士(大学医療センター、オランダ、ユトレヒト)は、博士らが以前に実施した費用効果分析を最新化するため、今回のメタ解析のデータを使用した。
今回のメタ解析の著者らは、主な結論を導くために男性と女性のデータを合計して解析したが、Algra博士とGreving博士は女性と男性を区別し、わずかに異なる心事故と虚血性脳卒中のリスク比を使用した。
そしてその結果は、アスピリンをよりリスクの高い一次予防集団に対して推奨すべきであることを示唆する。

Baigent博士は論説に感銘せず
しかしBaigent博士は、論説委員が作成した表には同意しないとheartwireに語った。
「私は論説委員らがどのような計算をしたのか正確には知らないが、我々のデータを十分に一貫性のある方法で検討しているとは思わない。いくつかの仮定を含むモデルを使用しており、これらのモデルは一般的にうまく機能しない。我々が発表したデータの特に有用な解釈方法だとは思わない」と博士は述べた。

博士は、一次予防のためにアスピリンを服用すべき人々を明確にする簡単な方法は残念ながら存在しないと指摘した。
「簡単な方式はないがこれは易しい質問ではない」と博士は論評した。
この判断を行うプライマリケア医に博士ならどのように助言するかと尋ねられて、Baigent博士はこう答えた:
「例えば体重超過、喫煙、および高コレステロールのような多くのリスクファクターを有する患者なら、アスピリンをスタチン療法に追加することは理に適っているだろう。アスピリンの使用が正当化されるとGPが考えるリスクレベルは、おそらく今よりいくらか高くなるだろう」と博士は示唆した。

http://www.m3.com/news/SPECIALTY/2009/6/18/102394/?pageFrom=m3.com
Medscape Medical News 2009. (C) 2009 Medscape
 

<コメント>
欧米人のとことん議論するやり方にはほとほと感心します。
結局結論はどうなったんでしょうか。

 

<番外編>
尿蛋白発症機序におけるネフリンの重要性とアバプロの可能性
http://ds-pharma.jp/medical/ebiz/ava/eseihin2/0.html
ネフリンはスリット膜の主要構成蛋白であることが明らかにされており、糸球体からの蛋白漏出時にはネフリン発現量が著明に低下していることが知られています。

腎障害におけるMCP−1の関与とアバプロの可能性
http://ds-pharma.jp/medical/ebiz/ava/eseihin3/0.html
腎障害の進展においてケモカインであるMCP-1の関与が注目されており、MCP-1/CCR2bを標的分子とした腎疾患治療戦略に関心が寄せられています。

 

<ネフリン 関連サイト>
CKD 診療ガイド―高血圧編―その2(2/2)
http://blog.m3.com/reed/20080824/_CKD__

蛋白尿発症メカニズムの解明
― 新規治療法開発に向けた取り組み―
http://www.niigata.med.or.jp/file/pdf/1913.pdf

 

<自遊時間>
製薬会社が研究会で配るタクシーチケット について議論百出です。

製薬会社のタクシーチケット
http://community.m3.com/doctor/showMessageDetail.do?boardId=4&messageId=1165313&messageRecommendationMessageId=1165313&topicListBoardTopicId=116638

何気なく貰っていましたがなかなか奥が深いですね。
講演会名と使用月日が印字されているので私用には使えません。
もちろん私自身も私用に使ったことはありませんが。



2009.6.21 標高1650m

 

 

 

<きょうの一曲>
天国の郵便ポスト / キマグレン
http://www.youtube.com/watch?v=s9HgHLtoJfU

 

 

その他
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
 「井蛙内科/開業医診療録(3)」2008.12.11~
http://wellfrog3.exblog.jp/
「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21~
http://wellfrog2.exblog.jp/
「井蛙内科/開業医診療録」 ~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/ 
(内科医向き)
があります。

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