戯れ言たれる侏儒
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HFPEF

戯れ言たれる侏儒 / 2009.04.05 00:41 / 推薦数 : 2

臨床的に明らかな心不全症状を伴うにもかかわらず,左室駆出率(EF)の保持された心不全患者をheart failure with preserved ejection fraction;HFPEFと呼称するようです。
このHFPEFは心不全全体の30〜50%を占めるといわれ、ここ10数年の間に,こうした実態が浮き彫りになり,注目を集めているということです。

以下の記事でHFPEFを勉強しました。

Focus/左室駆出率の保持された心不全にどう対処するか
HFPEFを対象に,ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を用いた大規模臨床試験も実施されたが,EF低下を伴う収縮不全の患者とは異なり明確な予後改善は見られず,HFPEFについては診断・治療法とも確立されたとは言い難いのが現状だ。
最近,わが国で実施された登録研究JCARE-CARD(Japanese CArdiac REgistry in CHFCARDiology)の結果でも,EF 50%以上のHFPEFは心不全患者の25%を占めており,高齢者に伴うことの多いHFPEF対策は,高齢化の進行が著しいわが国で,今後さらに重要性を増すと予想される。
そこで,JCARE- CARDを主導した北海道大学大学院循環病態内科学の筒井裕之教授と,HFPEFに対するβ遮断薬の有効性を検討すべく臨床試験J-DHF(Japanese Diastolic Heart Failure Study)に取り組む大阪大学臨床医工学融合研究教育センターの山本一博特任教授に,最近のエビデンスを踏まえて,HFPEF患者にどう対処すべきかを聞いた。

日本人HFPEFの臨床像
長期予後は収縮不全と同等
そもそもHF PEFとは,どのように定義されるのか。EFの正常域をどうとるかのカットオフ値は,報告によってEF 40〜50%以上,50%超と幅があり,EF 40〜50%は見解の分かれるグレーゾーンであるという。
筒井教授は「拡張機能障害が病態の主因と考えられる例が多いが,収縮不全であるがEF低下が軽度にとどまっているケースも少なくない。
本来,拡張不全と診断するためには拡張機能の評価が必要であり,厳密にはHFPEFは拡張不全と同義語ではないが,臨床試験やガイドラインなどでは,HFPEFと称することが多い」と説明する。

高齢者,女性に多く,高血圧,心房細動,腎不全などを合併
筒井教授らは,全国164の日本循環器学会研修施設の参加を得て,わが国初の慢性心不全患者を対象とした大規模レジストリー調査JCARE-CARDを実施。
2004年1月〜05年6月に,慢性心不全の増悪のために入院治療を必要とした2,675例を登録して前向きに追跡し,日本人心不全患者の臨床像を明らかにした。
 
その結果,EF 40%以下の収縮機能低下型の心不全(収縮不全)が58%,EF 50%以上のHFPEFが25%を占めることがわかった。
HFPEFでは収縮不全に比べて女性,高齢者の割合が多く,基礎疾患としては虚血性心疾患の頻度が低く,高血圧性心疾患の頻度が高かった。
合併症については収縮不全に比べて高血圧(68%),心房細動(38%),腎不全(15%),貧血(27%)などの頻度が高いといった特徴が見られた(図1-a)。
 
一方,長期予後については,生存率,再入院回避率とも両群に有意差はなく,1年後の死亡率はともに10%程度だった(図1-b,c)。
 
こうした日本人HFPEFの臨床的背景は,欧米で実施されたADH ERE( J Am Coll Cardiol 2006; 47(1): 76),OPTIMIZE-HF(J Am Coll Cardiol 2007; 50(8): 768),Euro Heart Surveyなどの大規模レジストリー調査などの結果と同様であり,日本人心不全患者のほうが長期予後は良好であるものの,HFPEFの予後が収縮不全と同等である点は,欧米と差がないという。

HFPEFの可能性を念頭に診断を
現在のところ,HFPEF,拡張不全の簡便な診断方法は確立されていない。
昨年発表された欧州心臓病学会(ESC)のコンセンサスステートメントでは,拡張不全またはEF>50%のEFの正常な心不全(heart failure with normal left ventricular ejection fraction;HFNEF)の診断手順として,図2に示すフローチャートを提示している。

左室内腔拡大なく,左房径大
山本特任教授によると,臨床的に心不全の症状を伴うがEFが50%以上に保持されているケースに遭遇した場合,日常診療におけるHFPEF,拡張不全の診断の目安として,
(1)心エコー上,左室内腔拡大がない,左房径が大きいなどの特徴がある
(2)脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が70〜100pg/mL以上
―などが見逃さないためのポイントとなるという。
同程度の左室肥大を伴う例で比較すると,心不全を伴わない高血圧症例よりも,拡張不全例で左房径が大きく,BNPが高い(図3)。
「心不全症状を伴う症例のなかに,EFの保持された病態があることを,まず念頭に置いて診断に当たることが重要だ。左房径は,これまであまり注目されていなかったが,心エコーさえできれば簡便に確認できるので,チェックして欲しい」と同特任教授は注意を促す。
 
筒井教授も,高齢者や女性,高血圧,心房細動,慢性腎臓病(CKD)などを伴えば,それも1つの目安になるとアドバイスする。

心筋細胞自体のstiffnessが亢進
HFPEF,拡張不全を惹起する病態メカニズムについても,解明が進んでいる。
山本特任教授は「左室が拡大できない原因としては,動物実験で確認された間質の線維化,コラーゲン架橋の亢進に加えて,最近,臨床データから心筋細胞自体の硬さ(stiffness)が亢進しており,それが左室stiffnessの増高に寄与していることが明らかになってきた」と解説する。
これには,心筋細胞のサルコメア構成蛋白で,心筋の張力を規定している2種類のタイティン(titin)の比率の変化や低リン酸化が影響している。
 
さらに最近,メイヨー・クリニックから,拡張機能が悪化するほど運動能が悪化するとの成績が報告された〔JAMA 2009; 301(3): 286〕。
対象には無症状の拡張機能障害例もかなり含まれているが,拡張機能障害が運動能を規定していることを明らかにした点で評価できるという。

厳格な血圧コントロールが不可欠
これまでHFPEFを対象に,ARBカンデサルタンを用いたCHARM-Preserved,ACE阻害薬ペリンドプリルを用いたPEP-CHF,ARBイルベサルタンを用いたI-PRESERVEと,レニン・アンジオテンシン(RA)系抑制薬を用いた3つの大規模臨床試験の結果が報告されている。

RA系抑制薬による明確な予後改善示せず
しかし,収縮不全とは異なり,期待に反していずれの試験でも,1次評価項目について,通常治療への試験対象薬の上乗せによる明確な予後改善効果は得られていない(図4)。
 
ただし,CHARM-Preservedでは,心不全増悪による入院はARB群で有意に抑制されており,患者背景で補正すると1次評価項目についても14%の減少(P=0.051)で,一定の改善があったとの見方もある。
これに対して,最新のI-PRESERVEでは1次評価項目のハザード比は0.95(P=0.35)だった。
 
その理由として筒井教授,山本特任教授は,
(1)両群の背景因子の相違(I-PRESERVEで高齢,女性が多い,高血圧合併率が高い,NYHA III度が多い,CHARM-PreservedでNYHA II度が多い)
(2)I-PRESERVEではベースラインでACE阻害薬25%,抗アルドステロン薬スピロノラクトン15%,β遮断薬59%と他薬の服用率が高く,追跡中も増加し,ARBの効果が出にくくなった
―などを挙げる。

RA系の関与は収縮不全より低い可能性も
加えて筒井教授は, HFPEFには腎機能障害や貧血の合併が多いが,I-PRESERVEではそうした例が除外されている点や,心不全は呈しているが,左室肥大の合併は約30%であり,心筋細胞の肥大や間質の線維化など,RA系抑制薬が奏効する基盤となる心筋のリモデリングがあまり重篤でなかった可能性を指摘し,「HFPEFの病態は収縮不全ほど単純ではなく,腎機能,貧血,加齢自体などが病態に密接に関係している可能性もあり,臨床症状の発現にはRA系があまり関与していないのかもしれない」と見ている。
 
山本特任教授は,NYHAの重症度の違いから,より軽症の段階から治療を開始すれば効果がある可能性や,CHARMでもEF低下例では明確な有意差が認められたことから,やはり収縮不全に比べてHFPEFではRA系の関与が低い可能性は否めないと推察する。

β遮断薬有用性に関する結論はJ-DHFの結果待ち
今年1月,OPTIMIZE-HFの登録例のうち,β遮断薬の適格例だが未使用の対象について,退院時にβ遮断薬を新規投与されていたか否かで予後を比較するサブスタディの結果が報告された〔J Am Coll Cardiol 2009; 53(2): 184〕。
結果は,背景因子で補正後,収縮不全患者ではβ遮断薬投与群で死亡23%,再入院11%,死亡+再入院13%とそれぞれ有意なリスク減少を示したのに対して,EF 40%以上のHFPEFではβ遮断薬による死亡,再入院,死亡+再入院の有意な減少は認められなかった。
 
しかし,
(1)ADHEREでは逆にβ遮断薬を使用していないことが予後悪化と関係するとの結果が出ている
(2)動物実験や臨床成績から,β遮断薬には拡張機能そのものに対するダイレクトな改善作用が示唆される
(3)動物実験では山本特任教授らや,東京農業大学のグループからも拡張不全モデルでβ遮断薬の生命予後改善が報告されている
―などの事実から,「前向きの臨床試験であるJ-DHF(主任研究者:大阪府立成人病センター・堀正二総長)の結果を待たないと確定的な結論は出せない」と山本特任教授は言う。
 
一方,現在,米国立衛生研究所(NIH)の支援のもとHFPEFを対象に抗アルドステロン薬エプレレノンの有効性を検討するTOPCATが進行中だが,筒井教授がHFPEFに対する有効性を検証する必要があると見るのが,Ca拮抗薬だ。非虚血性心不全患者に対するアムロジピンの予後改善効果を検討したPRAISE II 試験では,総死亡の有意な改善は得られなかったが,安定狭心症患者を対象に,標準治療への1日1回型ニフェジピンGITS製剤の上乗せによる予後改善効果を検討したACTION試験では,1次評価項目である主要心血管イベントの有意な抑制効果は認められなかったものの,同薬により心不全の新規発症リスクが29%有意に抑制された。
 
この成績を踏まえ,同教授は「日本人HFPEF患者を対象にRA系抑制薬は使用するという前提で,可能性の残るCa拮抗薬の併用効果を検討する臨床試験を企画したい」と展望を語る。

130/80mmHg未満目指す例多い
では,具体的にどのようにHFPEF患者の治療を進めればよいのか。生命予後を改善する治療が確立されていない現状では,HFPEFの治療は,高血圧や虚血性心疾患などの基礎疾患の治療,増悪因子である頻拍の改善,そして体液貯留のコントロールなどにとどまっているという。
 
筒井教授は,HFPEFでは基礎疾患として高血圧を伴う例が多いことから,血圧コントロールを第1のポイントとして挙げる。
1月に改訂された高血圧治療ガイドライン(JSH2009)では,若年者・中年者の降圧目標は130/85mmHg未満,高齢者でも140/90mmHg未満としている。HFPEFに対するガイドラインはないが,CKDや糖尿病の合併率が高く,また基礎疾患としてインターベンション治療によって梗塞サイズが大きくなくEFが保持された心筋梗塞後の患者の合併も少なくないことから,より厳格な130/80mmHg未満を目指すべきケースが多い。
厳格な降圧が達成できるACE阻害薬またはARBなどRA系抑制薬と少量利尿薬の併用は,合剤,単剤併用を問わずよい選択肢だ。
CKDや糖尿病合併例が多いことからも,RA系抑制薬の適応となる例は多いという。
 
山本特任教授も「降圧は絶対目標であり,ARB,スピロノラクトン,ACE阻害薬,β遮断薬などを用いて降圧を図ることが大切」と指摘する。
ちなみに,高血圧患者を対象としたALLHATのサブ解析では,利尿薬クロルタリドンがACE阻害薬リシノプリルよりHFPEFの新規発症を26%抑制したことが明らかになっている。
HFPEF新規発症の予防のためにも,高血圧治療の意義は大きい。

求められる円滑な病診連携
HFPEFにおいても,臓器うっ血や末梢の浮腫などの症状が取れて安定すれば,専門医から実地医家にバトンタッチとなり,円滑な病診連携は欠かせない。
 
うっ血のコントロールにおけるループ利尿薬の用量調節(漫然と常用量を継続することは避け,症状が取れてきたら減量,または連日投与を避けるなど)や血圧コントロールをはじめ,高齢で高血圧,心房細動などの合併率の高いHFPEF患者に対しては,きめ細かな対応が求められる。

「その意味から,HFPEF患者は収縮不全による心不全患者以上に,実地医家の先生方による診療に適している」と筒井教授。
逆に,ACE阻害薬,ARBやβ遮断薬を最大量まで増量する,あるいは心房細動例でワルファリンの維持量を決定するところまでは循環器専門医に依頼し,その後は実地医家がきめ細かく対応するといった連携も必要であるという。
 
同教授は「心不全症状や所見を呈し,EF低下の所見がなく,心拡大が認められない例では,まずHFPEFの可能性を疑い,BNPを測定したり,エコーを照会したりして診断を付け,きちんとした治療に乗せていくことが大切だ」と話している。

出典 Medical Tribune 2009.3.26 (一部改変)
版権 メディカル・トリビューン社

他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
「井蛙内科/開業医診療録(3)」2008.12.11~
http://wellfrog3.exblog.jp/
「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21~2008.12.10
http://wellfrog2.exblog.jp/
「井蛙内科/開業医診療録」 ~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/ 
があります。


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