戯れ言たれる侏儒
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Upstream治療を提唱
心房リモデリングを防ぎ慢性化を予防
発生した不整脈に対する「downstream治療」に対し,不整脈の発生をもたらす病態そのものの進行を抑える治療戦略を「upstream治療」と言う。
熊谷教授は,AF慢性化の機序に基づき,より上流で慢性化予防を図るupstream治療を提唱している。
また,アブレーションにおいては,拡大肺静脈隔離術に工夫を加えた「Box隔離術」を考案し,治療成績の向上をもたらしている。

Box隔離術で成功率がさらに向上
AFに対するアブレーションの主流と言える拡大肺静脈隔離術の重篤な合併症,左房・食道瘻を予防するため,熊谷教授は「Box隔離術」を考案した(図3右)。
4本の肺静脈と左房後壁を囲い込み,左房後壁の線状焼灼は行わずに肺静脈前壁(図3左)および両上肺静脈間天井と両下肺静脈間底部を線状焼灼する方法だ。
焼灼のエンドポイントは左房後壁の電気的隔離で,この術式により,左房・食道瘻も見られず,
薬剤なしでの成功率が発作性91%,持続性73%,慢性46%,抗不整脈薬とのhybrid療法ではそれぞれ97%,90%,88%の成績が得られている。


 
同教授は「左房後壁を含め広く隔離できるため成功率が向上し,食道障害などの合併症を減らせることが利点」と述べる。
同教授によると,Box隔離術では再発が少ないため,再セッションの必要が少ない(<10%)という。

慢性化は心房筋のリモデリングによる
AFの発生には,心筋のストレッチや炎症,自律神経や甲状腺ホルモンなどが関係している。
特に,高血圧や心不全では左室拡張末期圧が上昇しているため,左房のストレッチと拡大が起こっているとされる。
心筋細胞レベルでは細胞外ストレッチを起こし,これにより伸展活性化チャネルが開き,Ca過負荷を来すとともに左房と肺静脈ではアンジオテンシンII(A II)を上昇させ,これがAT1受容体に結合,G蛋白を介してCa過負荷を来す。
Ca過負荷は異常自動能を引き起こすが,左房の肺静脈壁は薄いため,わずかな圧変化で異常自動能が亢進され,さらに肺静脈のストレッチも影響してAFが開始する,と熊谷教授は考えている。
 
ただ,こうした電気的リモデリングだけではAFは持続せず,一度起こっても停止する。
慢性化に至るには,心房筋の構造的リモデリングである間質の線維化による伝導障害が重要だ。
A IIが線維化を促進する酵素extracellular signal-regulated kinase(Erk)を活性化することにより,間質の線維化が起こり,細胞間の結合が壊れているため伝導時間が遅くなり,リエントリーが多数発生し,慢性化に至ると考えられている。

RA系抑制薬で慢性化を予防
こうした慢性化の機序から,熊谷教授は「高血圧や心機能が低下している患者では,A II受容体拮抗薬(ARB)やACE阻害薬を早めに投与してAFの発症を抑制し,慢性化を予防するのがupstream治療の概念(図4)」と説明する。


また,心房筋全体に線維化が広がるとアブレーション成功率は低下するため,アブレーション後も慢性化予防を念頭にRA系薬を投与するのは理にかなっており,特にARBはリバースリモデリング作用を有することを実験モデルで証明したことから,「AF発症後でもARBを投与する意義がある」と話す。
 
Upstream治療の基礎的エビデンスとして,同教授らはイヌAFモデルを用いて検討を行った。
高頻度ペーシングによりAFを誘発すると,対照群では次第に不応期が短縮したが,ARB/ACE阻害薬投与群ではいずれも不応期は短縮しなかった。
この機序として,ARB/ACE阻害薬は圧負荷の軽減およびCa2+過負荷の抑制により不応期短縮を予防したのではないかと推測される。
さらに,高頻度ペーシングを5週間施行したところ,ARBは伝導遅延とAFの持続時間を有意に抑制した。
5週後の病理所見では,線維化が有意に抑制されていた。このことから,短期の心房ペーシングでは不応期の短縮が,長期では間質の線維化による伝導障害がAFの発症または持続に関与することが示唆され,RA系の抑制は,短期的な電気的リモデリングを抑制するだけでなく,長期的な構造リモデリングに対しても抑制効果があると考えられた。
 
臨床のエビデンスとしては,心不全患者を対象とした大規模試験においてARB/ACE阻害薬は5年後のAF新規発症頻度を有意に減少させることが実証された。
さらに,左室肥大を伴う高血圧患者では,ARB群のほうがβ遮断薬群よりもAF新規発症率が有意に低いことが示されている。
また,7日以上の持続性AF患者を対象に,アミオダロン単独とアミオダロン+ARB併用を比較した臨床試験では,洞調律維持率がアミオダロン単独群よりもARB併用群で有意に高率であった。
このように,ARBはAFの新規発症を予防するだけでなく,持続したAFに対する除細動後の洞調律維持にも有効であることが実証されている。

アブレーションは今後さらに重要な治療選択肢に
AFの基本的な治療戦略として,リズムコントロールとレートコントロールがあるが,熊谷教授は「AF治療は症状を改善することが一番の目的。症状が強い発作性AFではリズムコントロールが望ましいが,心房筋のリモデリングを来して洞調律維持が困難な慢性AFでは一般的にレートコントロールが選択されている」と説明する。
実際に,日本人のAF患者を対象にしたJ-RHYTHM試験では,発作性ではリズムコントロールが優位であったが,慢性では差がなかったことが報告され,この結果は北米で実施されたAFFIRM試験でも同様であった。
慢性AFで全く症状がない高齢者にあえてアブレーションや抗不整脈薬を使う必要はないが,慢性AFでも左房径が50mm以内であれば十分洞調律が回復可能であり,また若年者ではAFによる将来の脳梗塞や心機能低下を避けるため,積極的にリズムコントロールを行っているという。
 
リズムコントロールの手段としては,抗不整脈薬とアブレーションがあるが,欧米では抗不整脈薬を1剤試みて効果がなければ,セカンドチョイスとしてガイドラインで推奨されている。
同教授は「発作性AFは今やアブレーションで治療可能であり,特に若年者ではアブレーションが第一選択になりうると考えている。慢性AFでも異常電位の好発部位がわかってきたことから,よほど長期持続したAFでなければ積極的にアブレーションで治療する流れにある」と話す。
 
今後の課題として,同教授はアブレーションにより脳梗塞を減らせるのか,予後を改善できるのかを多施設大規模臨床試験で証明する点を挙げている。
手技の難しさや合併症などの課題も残されているが,新たな機器の開発も進んでいることから,「さらに成功率,安全性が向上していくであろう」と,同教授は期待を寄せている。


出典 Medical Tribune 2008.12.25
版権 メディカル・トリビューン社

 

他に

ふくろう医者の診察室
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「井蛙内科/開業医診療録(3)」2008.12.11~
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