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第81回米国心臓協会学術集会(AHA 2008)のJPAD(Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis with Aspirin for Diabetes)試験の記事で勉強しました。
11月8日から5日間,世界各国から約2万3,000人を集め,米ルイジアナ州ニューオーリンズで開かれた今学会の焦点の1つは,心血管疾患の一次予防ということだったようです。
このJPAD試験の成績が発表されたLBCT(Late Breaking Clinical Trials)セッションで採用されたのはわずか16演題ということです。
4000演題を超える今期AHA学術集会のトップ0.4%として評価された発表です。
日本人糖尿病患者の動脈硬化性イベント一次予防
低用量アスピリンは20%リスク減少も有意差に至らず
わが国の163施設が参加,日本人糖尿病患者を対象に低用量アスピリンの動脈硬化性イベント一次予防効果を検討したJPAD試験の結果が,AHAで最も高い評価を受けるLate-Breaking Clinical Trialsセッションで発表された。
熊本大学大学院循環器病態学の小川久雄教授によると,アスピリン投与例では非投与例に比べ,1次評価項目の動脈硬化性イベント発生リスクが20%減少したが,有意差には至らなかったという。
65歳以上では有意なリスク減少
各種ガイドラインで,糖尿病患者の一次予防に低用量アスピリンが推奨されているが,根拠となるエビデンスは乏しい。
今回の対象は30~85歳の2型糖尿病患者で,心血管疾患,心房細動,重篤な胃・十二指腸潰瘍の既往,抗血小板薬・抗血栓薬の服用例を除外した2,539例を,
(1)アスピリン(A)群1,262例(81または100mg/日)
(2)非アスピリン(非A)群1,277例
― にランダムに割り付け,PROBE法により中央値で4.37年追跡した。
両群の背景因子に有意差はなく,平均年齢は65歳,男性が55%を占め, HbA1Cは7.0~7.1%であった。
その結果,1次評価項目の動脈硬化性イベント(突然死,冠動脈・脳血管・大動脈に起因する死亡,非致死性心筋梗塞,不安定狭心症,新規発症の労作性狭心症,非致死性脳梗塞・脳出血,一過性脳虚血発作または非致死性大動脈・末梢血管疾患)は,A群68例(13.6/1,000人・年),非A群86例(17.0/1,000人・年)に認められ,A群で20%のリスク減少を示したが,有意差には至らなかった(P= 0.16,図)。
しかし,2次評価項目では致死性冠動脈・脳血管イベントで90%,1次評価項目のサブグループ解析では65歳以上の高齢者で32%,それぞれ有意なリスク減少が判明した。
1次評価項目の各疾患や総死亡,その他のサブグループについてはアスピリンの有益性は見出せず,65歳未満群のハザード比は1.0であった。
こうした結果には,イベント発生率が当初の予想の3分の1と低かったことが影響しているという。
有害事象は,脳出血がA群6例,非A群7例,輸血を要する重篤な消化管出血はA群のみ4例に認められ,両者を併せた重篤な出血性イベントの発生は両群で有意差はなかった。
日本人で懸念された脳出血は,サブグループ解析から高齢者や高血圧合併例でも増加はなかった。
以上から,小川教授は「日本人糖尿病患者において,低用量アスピリンは脳出血のリスクを増大することはなく,1次評価項目では有意差に至らなかったものの,致死性冠動脈・脳血管イベントや,65歳以上では動脈硬化性イベントの抑制に有意な効果を示した」と結論した。
指定討論者でフロリダ大学(フロリダ州ゲインズビル)のMarian C. Limacher氏は,糖尿病患者の一次予防にアスピリン投与が普及している欧米で,ことに65歳未満の患者の日常臨床が変わる可能性を指摘。
「今回の結果は,今後ガイドラインの改訂においてレビューされるべきだ」とした。同試験は,発表と同時にJAMA電子版に掲載された。
出典 MTpro 2008.12.4
版権 メディカル・トリビューン社
<原著>
Low-Dose Aspirin for Primary Prevention of Atherosclerotic Events in Patients With Type 2 Diabetes
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/2008.623v1?etoc
(Conclusion :In this study of patients with type 2 diabetes, low-dose aspirin as primary prevention did not reduce the risk of cardiovascular events.)
<関連サイト>
JPAD研究が熊日で紹介されました
http://jinnouchihp.blog121.fc2.com/blog-entry-43.html
(新聞の切り抜きが掲載されています。その記事では「糖尿病患者に対する低用量アスピリンの一次予防の有用性を初めて評価できた」と紹介しています)
日本人の糖尿病患者にアスピリンの一次予防効果はあるか
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/kitazawa/200811/508575_2.html
■臨床医学領域では、主要学術誌に掲載される論文の著者に占める日本人の割合が著しく低くなっています。
New England Journal of Medicine誌、Lancet 誌、JAMA誌の主要3誌に2003年から2007年に発表された論文の著者の国籍を調べたところ、1位は米国で2677本、2位は英国で873本、日本は(ぐっと少なく)74本で18位だったそうです(詳しくはこちら)。
今回の論文は、これら主要学術誌に掲載された、数少ない日本発の臨床医学系論文です。
■【診療上の疑問・課題:明確】
今回のP(patient)I(intervention)C(comparison)O(outcome)は、
P: 2型糖尿病で、年齢は30~85歳、虚血性心疾患や脳卒中など動脈硬化性疾患の既往のない男女2539人
I:低用量アスピリン(81mg/日または100mg/日)
C:低用量アスピリンなし、ただし、主治医判断でアスピリンまたは他の抗血小板/塞栓療法を行ってもよい
O:追跡期間中に起こった動脈硬化性複合イベント(突然死、冠動脈/脳血管/大動脈が原因の死亡、非致死性急性心筋梗塞、不安定狭心症、新たに起こった労作性狭心症、非致死性脳卒中、一過性脳虚血発作、非致死性大動脈/末梢血管疾患)の発生と整理できました。
■【研究デザイン:多施設共同ランダム化比較試験】
日本国内の163施設が参加した、多施設共同ランダム化比較試験(RCT)です。
■【割り付け:乱数表による割り付け。封筒法を使用】
事務局が、乱数表を用いてどちらの群に割り付けるかを記した紙を封筒に入れて封をし、各施設に配布しました。
そのため、各施設で患者を割り付ける際に、恣意的な割り付けが起こる可能性(医師が、希望する割り付け群を記した封筒が出てくるまで封筒を破り続けるなど)がないとは言えません。
■【盲検化:オープンラベル、PROBE法を採用】
オープンラベル、つまり、医師も患者も、患者(自分)がどちらの群に割り付けられたかを知っていました。
プラセボを使用しなかったのは、日常診療における試験では薬事法上、プラセボを使用できない(プラセボが承認されていないという理由で)
からだそうです。
そのため、アスピリン群に割り付けられた人が「予防のためにアスピリンという薬を飲んでいるのだから、少しぐらい不摂生しても大丈夫」と過信したり、コントロール群に割り付けられた人が「将来、心筋梗塞や脳卒中にならないように、食事や運動に気をつけよう」と生活態度を見直したりしたかもしれません。
ただし、アウトカムはブラインド化された第三者が評価していたとのことなので、この試験は、プラバスタチンによる一次予防効果を検討したMEGAスタディーと同じ、PROBE(prospective, randomized, open-label, controlled trial with blinded end-point assessment)法といえます。
■【追跡:追跡不能は10%未満。ITT解析された】
2539人が、低用量アスピリン群1262人とコントロール群1277人にランダムに割り付けられました。
低用量アスピリン群97人(97/1262=7.7%)、コントロール群96人(96/1277=8.1%)が追跡不能でした。追跡期間の中央値は4.37年でした。
主要評価項目の解析は、ランダム化された全員を対象に、割り付け群に沿って(intention-to-treat)行われました。
さらに、性別(男性/女性)、年齢(65歳以上/65歳未満)、高血圧の有無、脂質異常症の有無、喫煙の有無――でサブグループ解析を行いました。
■【介入以外の治療:糖尿病、高血圧、脂質異常症の治療は両群で同等】
高血圧や脂質異常症を合併している人の割合や、糖尿病、高血圧、脂質異常症に対する治療薬の種類は、両群で似通っていました。
現在喫煙している人、過去に喫煙していた人の割合は、いずれも低用量アスピリン群の方がやや上回っていました(アスピリン群:現在23%過去43%、コントロール群:現在19%過去38%)。
■【サンプルサイズ:設定根拠を明記、必要数に達していた】
日本で実施された疫学研究を参考に、サンプルサイズを設定しました。
昔の調査に比べてイベント発生率が全般に低下していることから、予想イベント数を25%割り引いて計算しました。
■試験の参加者数は、必要数に達していました。
■【結果:イベント発生率に両群間で有意差なし】
今回の試験では、コントロール群でもアスピリンなどを服用することが許されていましたが、実際にアスピリンを飲んだのは6人(0.5%)、アスピリン以外の抗血小板薬を飲んだのは3人(0.2%)だけでした。
一方、アスピリン群のうち123人(10%)が、途中でアスピリンの服用をやめていました。
しかし、これらの人も、最初に割り付けられた群の通りに解析されています(これがITT解析の意味)。
■追跡期間中に、アスピリン群で68人(68/1262=5.4%)、コントロール群で86人(86/1277=6.7%)にイベントが発生しました。
Cox比例ハザードモデルを使用して求めたハザード比は0.80(95%信頼区間0.58-1.10、p=0.16)で、両群間に有意な差はみられませんでした。
■複合イベントを構成する個々の要素をみたところ、非致死性心筋梗塞(ハザード比1.34)、安定狭心症(ハザード比1.10)に関しては、むしろアスピリン群の方が多かったのですが、有意な差には至りませんでした(ハザード比の95%信頼区間の下限が1未満)。
その他はアスピリン群の方が少なかったのですが、両群間で有意な差が見られたのは、心臓および脳血管疾患による死亡(ハザード比0.10、95%CI 0.01-0.79、p=0.0037)のみでした。
■【臨床への適用:適用できると思われる】
この試験は日本の臨床現場で行われたことから、結果は日常診療に適用できると思われます。
■【その他の検討項目:65歳以上に限れば予防効果あり】
サブグループ解析の結果、65歳以上だけに限った場合に、ハザード比が0.68(95%信頼区間0.46-0.99、p=0.047)となり、ぎりぎりで有意に達しました。
ただ、高齢者では、消化管出血などアスピリンの副作用も気になります。
■二次評価項目のうち、致死性心筋梗塞と致死性脳卒中の合計を求めたところ、アスピリン群1人(脳卒中)、コントロール群10人(5人が心筋梗塞、5人が脳卒中)に起こり、ハザード比は0.10(95%信頼区間0.01-0.79、p=0.0037)で、アスピリン群で有意に少ないという結果でした
。
一方、死亡(死因を問わず)は、アスピリン群34人、コントロール群38人に起こり、ハザード比は0.90(95%信頼区間0.57-1.14、p=0.67)で有意な差は見られませんでした。
■追跡期間中に見られた有害事象に関しては、やはりアスピリン群で出血、および潰瘍などの消化管症状が多く見られました。
脳出血および重症の消化管出血は、アスピリン群10人、コントロール群7人に起こりました。
■【診療への影響:イベント数は当初予想の3分の1だった】
今回の試験で発生したイベント数は、久山町研究や舟形町研究といった疫学研究を基に予想されたイベント数の3分の1で、予想を大きく下回りました。
エディトリアルでも、信頼できる推定値を引き出すためには、より大きなサンプルサイズで、より長期間観察することが必要と指摘していました。
■今回のJPAD 試験ではアスピリンの一次予防効果は証明されませんでしたが、昔に比べて動脈硬化性イベントが減ったのであれば、それは治療の進歩であり、喜ぶべきことだと思いました。
■【著者の利益相反:あり】
この試験は厚生労働省の研究費で行われました。
筆頭著者である小川氏をはじめとする3人の著者は、過去5年間に、多数の企業、財団、学会など(製薬企業だけでも30社以上)から研究費や講演料を受け取っていました。
<2009.6.19追加>
糖尿病患者の心血管イベント抑制wp目指した治療戦略と我が国のエビデンスの構築
https://med.astellas.jp/jp/index2.cfm?TICKET_D=7WgiZgqbDTVQuN91&PATH=%2Fmed%2Fjp%2Fpr%5Fmagazine%2Fsquare%2Fpdf%2F026%5F14%2Epdf&TICKET_C=7WgiZ
<きょうの格言>
われわれの人生は織り糸で織られているが、良い糸も悪い糸も混じっている。(シェークスピア)
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
「井蛙内科/開業医診療録(2)」2008.5.21~
http://wellfrog2.exblog.jp/
「井蛙内科/開業医診療録」 ~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/
があります。