日米の高血圧研究のエキスパートがRA系抑制薬をベースとした,より最適な治療法について話し合った座談会の記事で勉強しました。
大規模臨床試験の実施にまつわるエピソードも話題になっています。
最新のエビデンスから探る最適な降圧薬治療
ARB+Ca拮抗薬の併用療法, ARBの高用量投与で得られるベネフィットとは?
厳格な血圧管理のためには複数の降圧薬の併用が必要になることが多く,その基礎薬にレニン・アンジオテンシン(RA)系抑制薬が用いられる頻度は高い。
一方,最近報告された大規模臨床試験ACCOMPLISHからは,RA系抑制薬とCa拮抗薬との併用は利尿薬との併用と比べ,より優れた心血管系イベント抑制作用が得られることが示された。
では,RA系抑制薬単剤を高用量投与した場合はどうなのか。
出席者(発言順)
熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学教授
小川 久雄 氏(司会)
福岡大学名誉教授
荒川 規矩男 氏
Professor, SUNY Downstate College of Medicine, USA
Michael A. Weber 氏
熊本大学大学院医学薬学研究部生体機能薬理学教授
光山 勝慶 氏 日米の降圧薬治療の現状
―RA系抑制薬,Ca拮抗薬,利尿薬の使用頻度
小川
高血圧に起因する心血管系イベントを抑制するためには,各国の高血圧治療ガイドラインの定める降圧目標の達成が必要です。
その達成のために,現在,国内外でACE阻害薬やARBといったRA系抑制薬,Ca拮抗薬,利尿薬などが降圧薬として用いられています。
最適な降圧薬治療のために,これらをどのように使用したらよいかは議論の分かれるところです。
荒川先生,まず,わが国でよく使用されている降圧薬についてご紹介ください。荒川
わが国の高血圧治療ガイドライン(JSH 2004)が発表された当時,最も高頻度に使用されていた降圧薬はCa拮抗薬で,2番目がARBでした。
その後もARBの使用頻度は増え続けています。Weber
日本でCa拮抗薬が好まれてきたのはなぜですか。荒川
1972年に,わが国の研究者(金沢大学・村上ら)によってジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の降圧作用が,世界で初めて報告されています。
したがって,わが国の臨床医は早くからCa拮抗薬を降圧薬として認識していたという事情があります。Weber
日本では利尿薬は人気がないようですね。荒川
利尿薬は食塩摂取量の多い日本人に適した治療薬だと思いますし,私自身はARBに少量の利尿薬をよく併用しています。
ただ,一般的にはあまり使われていません。Weber
米国では合剤として広く用いられていますが,利尿薬単剤での使用率は低いですね。荒川
米国の高血圧治療ガイドライン(JNC 7)では,第一次薬として利尿薬が推奨されているので,よく使用されているのかと思っていました。Weber
JNC 7は推奨していますが,実際に利尿薬単剤を初期治療で使う医師はほとんどいません。荒川
しかし,米国での利尿薬使用率はかなり高いのではないですか。Weber
それはRA系抑制薬との併用で処方されることが多いためだと思います。 併用療法における心血管系イベント抑制作用の検討
小川
Weber先生は,高血圧治療の現場に大きなインパクトを与えた大規模臨床試験ACCOMPLISHの運営委員でもいらっしゃいます。
そこで,次はこの試験についてお話を伺いたいと思います。まず,
試験の概要をご紹介いただけますか。Weber
ACCOMPLISHは,ACE阻害薬をベースにした2つの併用療法を比較した試験で,目的は,ACE阻害薬(ベナゼプリル)とCa拮抗薬(アムロジピン)との併用は利尿薬〔ヒドロクロロチアジド(HCTZ)〕との併用に比べ,心血管系イベント抑制作用が勝っているかどうかを明らかにするというものです。
対象は心血管系リスクの高い高血圧患者約11,500例です。これらの患者をACE阻害薬+Ca拮抗薬群,またはACE阻害薬+利尿薬群に無作為に割り付けました。
降圧目標値は140/90 mmHg未満で,糖尿病や腎障害合併患者では130/80mmHg未満です。
投与法は,まず,最初の1か月が経過した時点で,ベナゼプリルを20mg/日から40mg/日に一律に増量しました。
これはRA系抑制薬から得られる心血管保護作用を両群で同等にするためです。
降圧目標値に達しない場合はさらに各併用薬の増量,他の降圧薬の追加と,降圧薬治療の強化を段階的に行いました。
そして平均39か月の追跡の結果,ACE阻害薬とCa拮抗薬との併用により,心血管系イベントが有意に20%抑制されることが明らかになりました。小川
ACCOMPLISHは,昨年,独立モニタリング委員会の勧告により,途中で試験を終了したと聞いています。
Weber先生,そのあたりの事情も少しお話しいただけますか。Weber
われわれはその勧告に対し,すぐに納得したわけではありません。
ACCOMPLISHの一次エンドポイントは6つの心血管系イベントの複合(心血管死+非致死性心筋梗塞+非致死性脳卒中+不安定狭心症による入院+冠動脈血行再建術+心肺停止からの蘇生)です。
しかし,ここに不安定狭心症を含んだことに対し,抗狭心症薬でもあるアムロジピンと併用するほうが,利尿薬と併用するより結果がよくて当然だろうという批判がありました。
そのため,独立モニタリング委員会から,両群間に十分な差が出たので試験を終了するよう勧告されたときも,一次エンドポイントだけでなく,ハードエンドポイント(心血管死+非致死性心筋梗塞+非致死性脳卒中)でも十分な差が認められなければ,試験を終了するつもりはありませんでした。
結局,どちらも同等のリスク低下が認められたということでしたので,われわれは試験終了に同意しました。小川
興味深いお話ですね。
ハードエンドポイントでも同等の有意なリスク低下が得られたということは,非常に意義のある結果だと思います。RA系抑制薬の最適な併用薬とは?
光山
ひとつ教えていただきたいのですが,ACCOMPLISHの一次エンドポイントに含まれる心血管系イベントに心不全が含まれていないのはなぜですか。Weber
その疑問を持たれるのは当然だと思います。
通常,こういった大規模臨床試験では心血管系イベントに関するエンドポイントに心不全を含めますが,われわれはあえて除外しました。
みなさんよくご存知の大規模臨床試験ALLHATでは,Ca拮抗薬により心不全の発症リスクが上昇しています。
しかし,この試験で行われた心不全の診断は十分に検証されたものではなく,浮腫を心不全としたケースも含まれている可能性が指摘されています。
このように心不全の診断は容易ではなく,エンドポイントとしての信頼性を確保することが難しいのです。
そこでわれわれは,心不全は安全性の評価項目に入れ,一次エンドポイントには含めませんでした。
結局,心不全の発症リスクは両群間で有意差は認められていません。荒川
そのほかの有害事象についてはどうでしたか。Weber
糖代謝関連の指標としてHbA1Cを測定しましたが,軽度上昇がみられたものの,上昇の程度に両群間で差はみられませんでした。小川
つまり,安全性に問題はなかったわけですね。Weber
はい。安全性に問題はなく,心血管系イベント抑制作用はRA系抑制薬とCa拮抗薬との併用のほうが優れていることが明らかになりました。
この試験結果によって,多くの方が初期治療からRA系抑制薬とCa拮抗薬の併用療法を行うことが有用だと認識してくださるのではないかと期待しています。ARBの高用量投与で得られるベネフィットとは?
小川
では次に,RA系抑制薬とCa拮抗薬の個々の特徴について伺いたいと思います。
まず,RA系抑制薬ですが,ACCOMPLISHでは降圧薬から得られる心血管保護作用を両群で同等にするために,ACE阻害薬の増量は全例に実施されたとのことでした。
光山先生,RA系抑制薬の増量に伴い,心血管保護作用も高まると考えてよろしいのでしょうか。光山
その点については,ARBの増量により心血管保護作用が高まることを示した実験結果がありますのでご紹介します。
まず心肥大に対する作用ですが,脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP)による検討から,オルメサルタン(オルメテックR)の投与量増加に伴う心肥大抑制作用の増強が確認されました(図1左)。
また,ラット頸動脈のバルーン傷害による血管内膜肥厚モデルを用いた検討からは,オルメサルタンの投与で血管内膜肥厚は著明に抑制され,さらに投与量増加による抑制作用の増強も認められています(図1右)。
小川
ARBの高用量投与は,特にどのような患者にメリットがあるとお考えですか。光山
ARBにはインスリン抵抗性の改善や糖尿病の新規発症抑制,さらに蛋白尿改善や腎不全への進展抑制作用などが認められています。
したがってARBの高用量投与は,糖尿病,あるいは腎障害を合併する高血圧患者に対し,より大きな効果が期待できると考えられます。
Ca拮抗薬の降圧以外のベネフィットとは?
小川
次に,Ca拮抗薬の降圧効果以外のベネフィットについてお聞きしたいと思います。
Ca拮抗薬は脳循環や冠動脈循環に好影響を与えるだけでなく,心肥大抑制作用があることも確認されていますが,一方で心拍数を増加するという問題がありますね。光山
一般にジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は降圧により反射性に交感神経系を亢進するため,心拍数の増加を来すと考えられますが,アゼルニジピン(カルブロックR)は,高血圧患者を対象とした臨床試験で,心拍数を逆に抑制することが確認されています。Weber
それはどのような機序によるのでしょうか。光山
詳細な機序はまだわかっていません。
アゼルニジピンは交感神経系の活動を直接抑制することが示唆されていますから,それも一因ではあると思います。荒川
心拍数の上昇は心血管系イベントのリスクファクターのひとつですから,心拍数を抑制するアゼルニジピンは,イベント抑制の面からも期待が持てそうですね。光山
私もそう思います。
われわれが行った動物実験では,アゼルニジピンは降圧効果とは関係なく,心肥大や心筋の線維化,炎症などに対する抑制作用が強いことが認められています。
またこの作用は,酸化ストレスの低下が関与している可能性も示唆されました。
こういったことから,アゼルニジピンにはARBに似た心血管保護作用があるのではないかと考えています。
ARB高用量投与とARB+Ca拮抗薬併用の比較試験がわが国で進行中
小川
そうなると次に,RA系抑制薬の高用量投与とRA系抑制薬+Ca拮抗薬併用のどちらがより有用かという問題が出てきます。
この点を検討するために,現在,わが国ではOSCAR Studyという臨床試験が進行しています。
その概要を,試験の代表を務めていらっしゃる荒川先生,ご説明いただけますか。荒川
OSCAR Studyでは,オルメサルタンの高用量投与とオルメサルタン+Ca拮抗薬(アムロジピンまたはアゼルニジピン)併用のどちらが心血管系イベントの抑制作用に優れているかを比較検討しています。
対象は心血管系リスクが高く,オルメサルタンの標準量(20mg/日)投与で降圧目標の140/90mmHgに達しなかった65~84歳の高血圧患者です(図2)。
登録は既に締め切りましたが,約1,200例の患者が試験に導入されています。
オルメサルタンは降圧効果の強いARBですから(図3),その高用量投与とCa拮抗薬との併用の比較試験は,意味があると考えています。
Weber
非常に興味深いですね。Ca拮抗薬にはアムロジピンかアゼルニジピンのどちらかを使用するということですが,両者の割合はどのくらいですか。荒川
ほぼ半々になっています。光山
Weber先生はこの試験結果をどのように予測されますか。Weber
私は,ARBの高用量投与よりCa拮抗薬と併用したほうがよい結果が得られるような気がします。荒川
以前,ある医師から,ARBの高用量投与よりCa拮抗薬との併用のほうがよい結果が出るのは当然なのに,なぜ試験を行う必要があるのかと聞かれたことがあります。
それに対しては,想像だけでなくエビデンスとして証明することが重要だからだと答えたのですが,やはり臨床試験を実施する意義はそこにあるのだと思います。小川
その通りですね。光山
蛋白尿や糖尿病を合併した高血圧では,ARBの高用量投与のほうがよい結果が出る可能性もあります。
小川
そうですね。
OSCAR Studyの結果が出るのを楽しみに待ちたいと思います。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41410141&year=2008 <関連サイト>
ACCOMPLISH
http://www.ebm-library.jp/circ/doc/html/acc2008/ACCOMPLISH.html
高リスク高血圧症例では,降圧目標値がより低くということが常識になり,併用療法,あるいは合剤の時代になってきている。本試験はACE阻害薬の併用薬としてCa拮抗薬を用いた方が降圧利尿薬よりも心血管合併症予防に優れるという仮説を証明するために行われた試験である。したがってACE阻害薬を中心に併用を組み立てた場合ということが前提である。
これまでのいくつかの臨床試験は,ACE阻害薬やARBなどのRA系抑制薬が心血管合併症を抑制しうるだけの降圧効果を発揮するためには,降圧利尿薬あるいは他の降圧薬の併用が必要であることを示してきた。ACE阻害薬ではPROGRESS試験がそうであるし,最近のVALUEやCASE-JではARB に降圧利尿薬を併用してCa拮抗薬に近い降圧効果を発揮することが示されている。したがってACE阻害薬とCa拮抗薬の併用の方が,ACE阻害薬と降圧利尿薬の併用よりも優れるという今回のACCOMPLISHの結果は予想された通りといえよう。降圧度の差がそのまま心血管イベント発症率の差になっているのも,臓器保護は厳格な降圧こそ重要という考え方を支持する結果といえる。本試験の対象は,降圧薬治療(78%がACE阻害薬またはARB)を処方されているにもかかわらず収縮期血圧が160mmHg未満に下降しない症例が対象であることから,第一選択薬としてRA系抑制薬を用いた場合ということが前提となっている。実際には,単独で十分な降圧効果を発揮しうるCa拮抗薬を第一選択薬として用いる場合の方が効率とコストの面からも実際的である。副作用などの詳細は発表では明らかになっていないので,さらなるコメントは論文化されてから行いたい。
(以上、桑島先生のコメントです) <コメント>
相変わらずのはっきりした物言いのコメントです。
私はいつも桑島先生のコメントを楽しみにし、大規模臨床試験の評価のいわばバイブルにしています。
製薬メーカーの講演会や座談会にあまり登場しないのも何だかわかる気がします。
呼ばれないのか、断ってみえるのかは知りませんが。 <きょうの一曲> “La boheme”
Charles Aznavour-La bohème
http://jp.youtube.com/watch?v=oMOsXXJw7pA&feature=relatedCharles Aznavour ( La boheme)
http://jp.youtube.com/watch?v=u5zfkOvuXJY&feature=related
La Bohème
http://jp.youtube.com/watch?v=nZvehG_Lgls&feature=relatedLa Bohème - Charles Aznavour
http://jp.youtube.com/watch?v=oMOsXXJw7pA&feature=relatedCharles Aznavour - La boheme (English Subtitles)
http://jp.youtube.com/watch?v=neazIF9vDIU&feature=related
CHARLES AZNAVOUR - LA BOHEMIA (Espanol)
http://jp.youtube.com/watch?v=CyF9W-OovnY&feature=related
'La bohème'- A Tribute to Grace Kelly.
http://jp.youtube.com/watch?v=9JlxCKcqxzA&feature=related
Projet de français : Charles Aznavour, La Bohème
http://jp.youtube.com/watch?v=XF40m0rT_Y0&feature=related 読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy(一般の方または患者さん向き)
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
http://wellfrog2.exblog.jp/?2008.5.21~
「井蛙内科/開業医診療録」~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/
があります。