戯れ言たれる侏儒
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抗血小板薬,抗凝固薬の休薬を考える―それは本当に必要か
眼科手術時の抗血栓療法
心筋梗塞や脳梗塞といった血栓性疾患のため,抗血栓療法を受ける高齢者が増加している。
当然,そうした患者が眼科手術を受けるケースも多く,その際に抗血栓療法を休薬するか継続するかが常に問題となる。
討論のなか,白内障手術時は抗血栓療法を継続することが眼科医には常識となっていること,一方,多くの循環器科医は休薬すべきと考えていること,すなわち白内障手術の出血リスクに対する認識の違いが明らかになった。
今後,眼科医と循環器科医が連携を図りつつ,ガイドライン作成や啓発活動を行うことの必要性が明確になった。

出席者(発言順)
吉富 文昭 氏 太宰府吉富眼科院長
江内田 寛 氏 国立病院機構九州医療セ ンター眼科科長
園田 康平 氏 九州大学病院眼科講師
司会
矢坂 正弘 氏 国立病院機構九州医療センター脳血管内科科長

 

休薬による脳梗塞発症;頻度は低いが重症に
矢坂 
日本では急速な高齢化に伴って,血栓性疾患が増えています。
そうした高齢者では,種々の疾患から観血的治療が必要となる例も多く,抗血栓療法の中止すなわち休薬の必要性が議論になります。
本日は,そのなかでも頻度の高い眼科手術時の対応について話し合っていきます。
 
抗血栓療法の中止を考える場合に問題となる脳梗塞は,3つのタイプに分かれます。
脳の細小動脈が詰まるラクナ梗塞,動脈硬化病変の不安定プラークが破れ血管を詰めるアテローム血栓性脳梗塞,塞栓源性心疾患に伴い形成された心内血栓が脳動脈を詰まらせて発症する心原性脳塞栓症です。
日本では近年,アテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症が増えています。
特に心原性脳塞栓症は脳梗塞の3割を占め,その6~7割が非弁膜性心房細動(NVAF)に由来します。

吉富 
心房細動を有する高齢者は,とても多いですね。

矢坂 
心房細動の有病率は65歳以上の5.9%と言われます。
野球の長嶋氏,サッカーのオシム氏も心房細動による心原性脳塞栓症と報道されました。
心原性脳塞栓症では血栓が太い脳血管を突然塞ぐため,大梗塞を起こします。
NVAF患者ではその予防にワルファリンが推奨されます。
ワルファリンはNVAF例の脳梗塞リスクを7割低下させるからです。
抗血小板薬は,非心原性脳梗塞やTIA(transient ischemic attack)の再発を22%,脳梗塞急性期の再発を11%減らすとの報告があり,脳・心血管疾患の再発予防に広く用いられています。

江内田 
抗血栓療法を受けている患者はどのくらいいるのでしょうか。

矢坂 
ワルファリンは100万人,アスピリンは300万人以上と言われています。
このワルファリンを抜歯や内視鏡検査などの際に休薬すると,約1%の頻度で血栓・塞栓症を起こすことが報告されています。
国立循環器病センターで行った調査でも,抗凝固療法中に脳梗塞を発症した23例中8例が休薬例で,うち4例は抜歯が契機でした。休薬の8例と非休薬の15例を比べると,休薬例は全例が心原性脳塞栓症で,要介護での退院率が71%,非休薬例の21%と比べると予後が悪いことが分かりました。

園田 
休薬後どのくらい経って,脳梗塞を起こすのでしょうか。

矢坂 
再開数日後の発症が多く,休薬直後でないため休薬を指示した医師が気づかない例もあります。一方
アスピリンを休薬すると,脳梗塞発症のオッズ比が3.4倍上昇します。つまり抗血小板薬,抗凝固薬を休薬すると脳梗塞発症リスクが上昇し,重症化する可能性があります。

白内障手術;技術革新で出血リスクは著明に低下
矢坂 
では,眼科手術時の出血にはどんなものがありますか。

吉富 
比較的多いのが前房出血ですね。
それから虹彩根部の太い血管を傷つけ,大出血を起こすことがあります。
経験の浅い眼科医が,ときにこうした出血を招きます。

園田 
頻度は低いが重篤な出血として上脈絡膜腔出血,いわゆる駆逐性出血があります。
脈絡膜には豊富な血流が集中し網膜などへ栄養を送っています。
眼球圧が高ければ脈絡膜からの出血は起きませんが,眼球圧が低下すると容易に内出血が起きます。
駆逐性出血を起こすと,失明につながりかねないので問題です。

矢坂 
切開創が大きいと,眼球圧が下がって駆逐性出血が起きるのですね。
白内障手術で,駆逐性出血の起きる頻度はどの程度でしょうか。

江内田 
Lingらのレトロスペクティブなケースコントロールスタディによると,0.04%,1万人中4人に比較的高度な駆逐性出血が起きました。
その危険因子を調べたところ,抗血栓薬を含む心血管系薬の服用も有意な危険因子ですが,緑内障の有無や手術手技の関与の方が強力でした。
 
Katzらは,2003年に約2万例の白内障手術症例を対象に検討を行っています。
それによると,24.2%が抗血小板薬を,4%が抗凝固薬を服用していました。
手術時に休薬したのは,それぞれ22.5%と28.3%です。そして,抗血栓療法にかかわらず出血頻度は非常に低く,継続群と休薬群に差はないと報告しています。
 
私たちも,同様の印象を持っています。
白内障手術は侵襲がどんどん小さくなっていますから,駆逐性出血に限らず,出血リスクは抜歯や内視鏡検査に比べ,かなり低下していると言えるでしょう。

吉富 
白内障の切開創は,20年前は5~6mmでしたが,今や2mmまでになっています。
ですから私は,特発性血小板減少性紫斑病の患者でも,血小板数が1万/μLを切るような患者でも,普通に手術を行っています。

矢坂 
白内障は技術革新により短時間,低侵襲で手術できるため,抗血栓薬を中止する必要がないということですね。
園田先生,その他の眼科手術ではどうなのでしょうか。

園田 
緑内障手術,硝子体手術,角膜移植などでは,駆逐性出血のリスクは白内障手術に比べ高いです。 

江内田 
硝子体手術も,切開創1mm以下の低侵襲手術の時代になっています。
ただ硝子体手術や緑内障手術では,機器の出し入れや手術操作による圧変化が大きく,比較的高圧下で行う白内障手術に比べ術中の出血リスクは高いとの印象があります。

白内障手術時の抗血栓療法;むしろ眼科医が継続支持
矢坂 
こうした問題について,医師はどのような認識を持っているのでしょうか。
私たちは国立病院機構の眼科医45名と国立病院機構の脳卒中担当医26名,J-MUSIC(Japan Multicenter Stroke Investigator's Collaboration Study; 脳梗塞急性期医療の実態に関する研究)参加施設の脳卒中診療担当科長103名を対象に,眼科手術時の抗血栓療法についてアンケートを実施しました。
 
眼科医のワルファリン継続下白内障手術の支持率は87%,抗血小板薬継続の支持率は84%と,8?9割が抗血栓薬の継続を受け入れていました。
ところが脳卒中診療医の回答を見ると,脳卒中既往のあるNVAF例のワルファリン継続率は国立病院機構医師で22%に過ぎず,「中止して眼科医に紹介」が60%を占めました。J-MUSIC参加施設の医師(脳卒中専門医が多い)の継続率は48%と高く,休薬による脳梗塞再発を経験した医師が多いためと思われます。
 
これに対して,心臓に機械弁を入れていて脳卒中既往がある血栓・塞栓症リスクの非常に高い例でのワルファリン継続率は,国立病院機構医師,J-MUSIC医師でそれぞれ30%,51%とやや増加。
抗血小板療法の継続率は,それぞれ19%,57%と,やはり眼科医より低い値でした()。

 

吉富 
脳卒中診療医より眼科医の方が継続に積極的ということですか。

矢坂 
そうです。ある種の乖離というか,逆転現象ですね。

吉富 
実は,私は他科の先生から「眼科手術前には投薬を一時中止します」と書かれた手紙を受け取ることが多いのですが,毎日のように「いいえ,中止しなくて結構です」という返事を書いています。

矢坂 
そうなんですか。

江内田 
白内障手術が進歩し出血リスクも減った点を,他科では十分に理解していないのかもしれません。

矢坂 
白内障は患者数が多いので,内科や外科と眼科の間で認識の違いがあることは深刻な問題ですね。

園田 
緑内障や硝子体手術については,アンケートを取られましたか。

矢坂 
眼科医だけを対象に行いました。緑内障手術時の対応としては,ワルファリン,抗血小板薬とも継続を支持する回答は22%に留まりました。
硝子体手術に関しては,継続を支持する回答は両者とも14%と,休薬すべきとの意見が増えています。
白内障以外の眼科手術では,出血リスクが高いため,手技の出血リスクと塞栓症リスクを脳卒中診療医とよく話し合った上で,抗血栓療法の継続・休薬を決めていかないといけないということでしょうね。

出典 Medical Tribune 2008.9.11
版権 メディカル・トリビューン社

 

<自遊時間>
医師連盟といえば今や「全国医師連盟」を思い浮かべてしまいます。
私の心の中には「連盟」という言葉に対するアレルギー(はっきりいえば「拒否」)反応があります。
以前にもこのブログで取り上げましたが、常々「日本医師会」の政治団体である「医師連盟」に疑問を持ち、今年は会費(くわしくは寄付金)を拒否しました。
小心者の私にとっては精一杯の抵抗(行動)でした。
「日本医師会」からの退会を迫られるかも知れないという心配もありました。

この機会に、いろいろ「医師連盟」について調べようと思ったのですが意外と資料が見つかりません。
関連資料が少ないのはむしろ恣意的とも思えるものでした。

そんな中でいい資料がみつかりました。
なんと元N県医師会副会長が書かれた解説が、日本医事新報の時論に掲載されていたのです(日本医事新報 No.4302 2006.10.7p83〜84)。
期待して読みましたが、内容はあくまでも医師会側に立った無難な内容でした。
しかし、このブログで現在の医療施策に不満を書き綴ったり、選挙で野党に投票されておられる先生は、一度この時論を参考にされて「寄付の拒否」をされてはいかがかと思うのですが。
Actions speaks louder than words.
Deeds,not words.

<きょうの一曲> 卒業写真
徳永英明 卒業写真
http://jp.youtube.com/watch?v=enbZG9OMG4g&feature=related

 

読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
http://wellfrog2.exblog.jp/?2008.5.21
「井蛙内科/開業医診療録」~2008.5.21 
http://wellfrog.exblog.jp/ 
 があります。

 

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