戯れ言たれる侏儒
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< 腎障害を伴う高血圧の薬物治療 | メイン | APPROACH-J Study >

新着のメディカル・トリビューンの記事からです。
製薬メーカー主催の座談会では、かなりバイアスのかかった話になっていることがあります。
しかし、多いに役に立つ内容やきらりと光る一言も述べられており、このバイアスに注意さえすれば無料で勉強ができます。
今回のタイトルは、かなり大上段にかまえたものです。
それは、この記事の前書きに
「日本や欧米のガイドラインで,冠動脈疾患(CHD)患者さんの降圧療法にはACE阻害薬を第一選択薬とし,ARBはACE阻害薬の不耐応例と位置付けられている。
一方,日本人を対象にしたHIJ-CREATE試験では,ARBはACE阻害薬に優るとも劣らないことが示された。そこで,ARBがCHD既往高血圧症患者さんの第一選択薬に位置付けられるのかについて討論していただいた。 」
と書かれているように、あたかもガイドラインに挑戦するようなタイトルだからです。
どのような座談会の展開になるのか、出席した教授の中に、はたして御用学者はいないかという観点からの読み方も一興かと思ってとり上げました。

話は変わりますが、ある学術講演会の後の懇親会で、昔在局中に一緒だったある先生からこんな話を聞きました。
「ある教授が、講演や座談会で、年間給料より多い謝礼を貰っていて、教授会で自粛するように言われたらしい」。
その話を聞いたとき、何が問題なのかよくわかりませんでした。
先生方はどのように思われますか?
思い起こせば、「週刊朝日」でもそのようなことが一時期とりあげられていました。

Round Table Discussion 座談会
ARBをCHD既往高血圧症例の第一選択薬に位置付けられるのか?
The Heart Institute of Japan-Candesartan
Randomised trial for the Evaluation in Coronary Artery Disease
    
熊本大学大学院医学薬学研究部 生体機能薬理学 教授
 光山 勝慶 氏(司会) 
旭川医科大学第一内科 教授
 長谷部 直幸 氏
名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授
 室原 豊明 氏 
大阪大学大学院医学系 研究科臨床遺伝子治療学 教授
 森下 竜一 氏
群馬大学大学院医学系研究科 臓器病態内科学 教授
 倉林 正彦 氏(発言順)


ARBの動脈硬化への影響とそのメカニズム
光山(司会) 
わが国では,生活習慣の欧米化に伴い冠動脈疾患(CHD)が著しく増加しています。
近年,薬剤溶出ステント(DES)の登場によりステント内の再狭窄は減少しましたが,生命予後は改善できないことが報告されており,CHDの二次予防として薬物療法の重要性があらためて注目されています。
このようななか,昨年開催された第80回米国心臓協会学術集会(AHA2007)で,アムロジピンと同等の降圧が認められているカンデサルタンを用いて(図1),日本人CHD既往高血圧症患者さんを対象にしたHIJ-CREATEが発表になりました。


本日は,HIJ-CREATEの結果を踏まえて,CHD患者さんにおけるARBの位置付けについて議論したいと思います。

長谷部 
現在,CHD既往高血圧症患者さんの降圧療法にRA系抑制薬を用いることが一般的になっていますが,その背景には,数々の大規模臨床試験があります。
その歴史はACE阻害薬のSAVEから始まり,HOPE,EUROPA,PEACE,そしてARBのOPTIMAAL,VALIANTと続きます。
欧米ではCHD既往高血圧症患者さんの二次予防ガイドラインで,ACE阻害薬を第一選択薬としていますが,それはこれらのエビデンスに基づいています。

室原 
私は,ARBはACE阻害薬と同様にCHD既往高血圧症患者さんに有用だと考えています。
動脈硬化の進展に大きくかかわる炎症をいずれの薬剤も抑制するからです。
一方,PCI後の再狭窄の抑制は,動物実験ではARB,ACE阻害薬ともに報告されていますが,再狭窄に関連した成績が臨床で認められているのはARBのみです。
例えば,ARBのカンデサルタンを用いたOGAKI Studyでは,冠インターベンション(PCI)施行6か月以上経過後に有意狭窄がないことを確認した患者さんの心血管系イベント(CVD)の発症を有意に抑制しました。
血管内超音波(IVUS)を用いた検討でも,カンデサルタンを用いた降圧療法によりステント留置例の新生内膜の増殖を抑制することを認めています(図2)。


また,PCI後は,骨髄由来の平滑筋前駆細胞の沈着によるプラークの蓄積と不安定化が生じますが,カンデサルタンはそれらを抑制することが認められています。
日本人CHD既往高血圧症患者さんの再発抑制が証明されていることや平滑筋前駆細胞の沈着の抑制からもカンデサルタンに対する期待が高まります。

森下 
動脈硬化病変におけるRA系活性化は,健常人の血管と異なっています。
梗塞箇所などの炎症部位では,キマーゼの大きな産生源であるmast cellの発現が亢進し,ACEによらないアンジオテンシンII(A II)の産生が増加します。
したがって,動脈硬化病変が進めば進むほどACE阻害薬が効きにくい可能性が高いのです。
また,血管病変において平滑筋細胞の増殖を抑制したりNOの産生を亢進するなど,血管に対し保護的に働くA II type2(AT2)受容体は,動脈硬化が進行するほど発現が亢進します図3)。


このことからもAT1-Pathwayを抑制しAT2-Pathwayを活性化させるARBの有用性がうかがえます。
つまり,
高血圧症や糖尿病,脂質異常症の罹病期間が長い動脈硬化が進行している症例,あるいは脳・心血管系イベントの既往がある症例ではARBを選択する利点がたくさんあると思います。
 
血管だけでなく,膵臓のβ細胞でもAT2受容体の関与は大きいと思います。
高血糖により膵臓に酸化ストレスが加わると,膵臓においてもA II type1(AT1)受容体の発現が亢進します。
それにより線維化が進行すると,AT2受容体の発現が亢進することがわかっています。
このことからも膵臓への影響,血糖に対する影響もARBのほうが強いと考えられます。
しかし,糖尿病の新規発症を抑制した試験成績のあるARBもあれば,そのような試験成績のないARBがあることも事実です。
このことからもAT1受容体を強力に長時間ブロックすることが重要なのです。
HIJ-CREATEでは,標準治療群の71%にACE阻害薬が投与されていたにもかかわらず,カンデサルタンが糖尿病の新規発症を63%有意に抑制しました。
降圧薬は,骨格筋の血流改善を介してインスリン抵抗性を改善しますが,カンデサルタンは,インスリン分泌顆粒やミトコンドリアを正常化し,インスリン分泌も改善することが報告されています図4,5)。


CHD患者さんで一番問題になるのは,降圧療法中に糖尿病を発症すると,その糖尿病が次の病変を作ることです。

CHD患者さんの再発抑制のためには,ARBを用いた降圧療法が最適だと思います。

ARBの投与量と降圧目標
光山 
腎機能低下例では,全身のRA系が著しく活性化しているため,RA系抑制薬が大きなメリットをもたらします。
HIJ-CREATEでは,CKD症例のCVD発症をカンデサルタン群が21%有意に抑制しました。
詳細は発表されていませんが,標準治療群にACE阻害薬投与例が多く含まれていた可能性がありますが,この結果は何が影響したのでしょうか。

長谷部 
RA系抑制薬は,A II抑制により腎保護が期待できます。
しかし,CKDのように腎機能が障害されると,糸球体,尿細管等に腎保護的に作用するAT2受容体の発現が増強するので,その結果としてカンデサルタンが奏効した可能性があります。
また,ACE阻害薬はブラジキニン濃度を上昇させることが知られていますが,腎機能低下例では,ブラジキニンがメサンギウム細胞の増殖を促進するため,腎機能をさらに悪化させる可能性も指摘されています。
これは,CHD患者さんの腎機能と投与薬剤別に予後を検討したAPPROACH試験の結果からも指摘できます。
これらを総合的に考えると,特に腎機能が低下したCHD患者さんの降圧療法はARBを選択することは妥当であろうと思われます。

室原 
CASE-Jで,カンデサルタンはアムロジピンと同等の降圧を示したうえで,CKD症例の腎イベントを57%低下,特に高齢者やCHD等の既往例の腎機能低下を大きく抑制しました。さらに,有意ではありませんがCKD症例のCVD発症を22%抑制したことから,腎機能低下例であっても予後を改善することが期待されます。
末梢血管レベルでACEを介さないA IIもブロックする点で,ARBが優れているのでしょう。

倉林 
HIJ-CREATEでは,治療開始時から血圧が十分コントロールされていたこともあり,平均投与量が5mg/日と用量が非常に少なかったことも特徴だと思います。
腎機能改善作用は用量に依存し,一直線に尿蛋白が減少すると報告されています。
したがって,忍容性を確かめながら可能であれば,保険で認められた最大用量までARBを使い,それでも降圧が不十分なときに初めてCa拮抗薬を加えていく治療が大切だと思います。

光山 
降圧療法中であっても,外来血圧,家庭血圧ともコントロールできているのは,わずか20%でしかなく,その一方で十分量の投薬,多剤併用がなされていないと報告されています。
降圧目標を達成するためにもまずは十分量のARBを使う必要があるということですね。
しかし,CHD患者さんは血圧が低すぎるとかえってイベント発現率があがる「Jカーブ」が指摘され,どこまで血圧を下げるべきか議論されています。

長谷部 
確かにJカーブは存在します。
しかし,これは原因ではなく結果を表していると思います。

つまり,心機能の低下と動脈硬化の進展による低血圧状態の結果として悪化した予後を見ているのです。
収縮期血圧の低下はポンプ機能の低下,拡張期血圧の低下は動脈硬化の進展を反映しています。
すなわち,血圧低値を示す患者さんは,降圧の結果として低値に到達したのではなく,もともとイベント発生リスクの高い方が血圧低値なのです。
また,われわれの検討では高血圧症合併狭心症患者さんでは拡張期血圧が低いほど冠動脈病変は重症です。
その一方で,冠動脈疾患治療後の心臓死,心筋梗塞などの重篤なイベント発生は,拡張期血圧が低いほど低率でした。CHD患者さんであっても,血圧は下げられるところまできっちりと下げることが必要だと考えています。

CHD既往高血圧症治療におけるARBの位置付け
倉林 
DESの登場により再狭窄は減少しましたが,生命予後は改善しておらず,今後の課題です。
COURAGE試験では,狭心症患者さんにPCIを実施しなくても,最適な薬物療法により生命予後を改善することが報告され,薬物療法の重要性が示されました。
DESで再狭窄を予防し,薬物療法で新規病変を予防することが最適なCHD治療だと思います。
またCHD患者さんは,PCI施行時だけでなく,その後のフォローでも造影剤を使うため,特に腎機能を保持することが望まれます。
CASE-Jで,カンデサルタンはCHD既往高血圧症患者さんの腎機能低下を大きく抑制したことからも,CHD既往高血圧症患者さんにはARBをfirst choiceにすべきだと思います。

長谷部 
HIJ-CREATEの患者背景を見ると,PCIが83%,冠動脈バイパス術(CABG)12%と,冠血行再建術が95%も施行されています。
これは,これまでのRA系抑制薬の臨床試験と異なり,日本の冠動脈疾患治療の実態を反映しているものと言えます。今後の日常診療に,HIJ-CREATEという日本人のエビデンスが非常に参考になるでしょう。

室原 
今回のHIJ-CREATEでは,「ARBをCHD既往高血圧症例の第一選択薬に位置付けられる」ことが示され,むしろ長期的な臓器保護という立場からCHD患者さんの降圧療法にはカンデサルタンを使うのがよいと思います。
CHD患者さんの予後を考えると,糖尿病の新規発症を抑制すること,腎機能低下例で有用なことはきわめて大きな意義があり,将来予想される糖尿病やCKD患者数の増加を考えると,ARBによる降圧療法は非常に有用であると思います。

森下 
十分な臓器保護作用を得るためには,より強くA IIを抑える必要がありますが,ACE阻害薬は,日本人は咳が出やすいという理由から海外に比べて用量が非常に少なく,その量は1/3~1/4程度です。
したがって,日本の承認用量でACE阻害薬が海外の臨床試験と同じ効果が得られるかは疑問が残ります
投与量を考えてもARBが降圧薬のfirst choiceに適していると思います。

光山 
DESが登場してもCHD患者さんの長期予後に関してはまだ解決には至っていませんが,今日のディスカッションでARBは長期予後改善の点でも有用な治療法として十分期待できることがわかりました()。

 

出典 Medical Tribune 2008.7.24
版権 メディカル・トリビューン社

 

<コメント>
文中に
「PCI後の再狭窄の抑制は,動物実験ではARB,ACE阻害薬ともに報告されていますが,再狭窄に関連した成績が臨床で認められているのはARBのみです。」
とあります。
大規模臨床試験は現実的には、残念ながら製薬メーカーの資金的援助がされて行われているのが現状です。
高薬価のARBに対して、低薬価のACEIは大規模臨床試験が行いにくい事情が(国内では)あります。
さらには、相対的に旧世代に属するACEIで、同じような臨床試験が行われているかどうかが問題だと思われます。
両者で再狭窄に関連した試験が行われており、ACEIではnegative、ARBではpositiveという結果が出て初めてARBの優位性が証明されるはずです。
もしACEIでこのような試験が行われていなければ欠席裁判ということになります。
実際にはどうなんでしょうか?
 

明日から少し夏休みをとらせていただきます。

 

読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
http://wellfrog2.exblog.jp/?2008.5.21
「井蛙内科/開業医診療録」~2008.5.21 
http://wellfrog.exblog.jp/ 
 があります。

 

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