戯れ言たれる侏儒
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昨日の続きです。

ARBによる血管保護について
堀内 
続いてバルサルタンによる血管保護の問題に移りたいと思います。
森下先生、よろしくお願い致します。

森下 
我が国において望月正武先生らが実施された大規模臨床試験JIKEI  HEART Studyでは、バルサルタン群で解離性大動脈瘤のリスクが81%有意に減少しました
(Mochizuki S et al. Lancet 2007;369:1431-1439)。
この成績は、我々の実験結果を裏付けるものとなりました。

堀内
その実験結果についてご紹介願います。

森下
ウイスターラットを使った腹部大動脈瘤モデル(elastase
infused model ) を作成して検討したところ、同モデルでは高血圧が転写因子NFκBやetsの増加を介して腹部大動
脈瘤を進展・増悪に関与していることが分かりました(Shiraya
S et al. Hypertension 2006; 48:628-636)。
さらに同モデルを使った検討では、血圧に影奪を及ぼさない投与量のバルサルタンが、非投与の場合に比べて有意に腹部大動脈瘤のサイズを減少させました。
その作用機序には、バルサルタンの持つMMP(matrix metalloproteinase)やNFκBなどの発現抑制効果が関与するとのデータも得ています。

Dzau
しかし腹部大動脈瘤と解離性大動脈瘤では病因がかなり違うのではないでしょうか。

森下
大動脈瘤は最終的に解離に到ると考えられます。

Dzau
マウスによる検討で、ARBがマルファン症候群の大動脈瘤を予防したことも報告されていますね(Habashi
JP et al. Science 2006; 312:117-121)。
 
森下
ARBは腹部大動脈瘤と解離性大動脈瘤の両方に関与しているNFκBの優れた阻害薬だと思います。
我々は、NFκBが脳動脈瘤形成に関与しているとの成績も報告しました(Aoki et al. Circulation 2007;116:2830-2840)。

Dzau
それは非常に興味ある報告です。

堀内
JIKEI  HEART Studyで得られた解離性大動脈瘤の成績は、従来治療(Ca拮抗薬、ACE阻害薬、β遮断薬など)にARBを加えて得られたものでした。
解離性大動脈瘤の薬剤選択に関して、Dzau先生はどうお考えですか?

Dzau
解離性大動脈瘤の治療には、従来からβ遮断薬が使われてきました。
しかしその後、ACE 阻害薬の登場に伴い次第にACE 阻害薬の単独使用も行われるようになりました。
しかし、JIKEI  HEART Studyでは臨床におけるARB追加の有用性が示され、基礎研究でもマルファン症候群における大動脈瘤予防のデータが示されたわけですから、解離性大動脈瘤に対するβ遮断薬 + RA系阻害薬併用の有用性を基礎研究から裏付ける作業が必要とされています。
 

ARBの糖尿病新規発症抑制作用をめぐって
堀内 
大規模臨床試験においてバルサルタンが糖尿病新規発症を抑制するとの報告が相次いでいます。
これは肥満、インスリン抵抗性あるいはこれらと関連したメタボリック・シンドロームにおけるAT1受容体ブロックの重要性を示していると思いますが、伊藤先生、バルサルタンの持つ糖尿病新規発症抑制作用に関してお話しいただけますか。

伊藤
これまでのRA系阻害薬による糖尿病新規発症抑制の成績は、すべてサブ解析のデータです。
しかし現在、耐糖能異常症例にバルサルタンを使った大規模臨床試験NAVIGATORが進行中です。
NAVIGATORでは心血管疾患既往または危険因子を有する耐糖能異常の約1万例を対象に、バルサルタンと速効型インスリン分泌促進薬ナテグリニド(2×2形式)による糖尿病進展抑制効果や心血管イベント抑制効果をプロスペクテイブに比較検討しています。両薬剤ともに食後高血糖を抑制すると思います。
しかし、バルサルタンはインスリンを低下させるのに対して、ナテグリニドはインスリン分泌を促進させます。
NAVIGATORではこうした作用機序の異なる薬剤が使われているので、糖尿病新規発症に関与する病態の違いを知ることもできるのではないかと期待しています。
     
Dzau
ナテグリニドの作用時間は短いので、血中インスリンを上昇させないことも考えられるのではないでしょうか。
       
伊藤
ナテグリニドは膵β細胞を刺激するためその機能を弱める可能性が考えられます。
ARBのように膵β細胞保護作用はありません。
これまでのサブ解析でARBが糖尿病の新規発症を抑制した
機序には、血流改善によるインスリンのデリバリー改善だけでなくARBの持つ膵β細胞保護作用(インスリン分泌の改善:膵リモデリング)が関与しているのかも知れません。
非常に興味のある点です。
 
Dzau
アンジオテンシンⅡ(AⅡ)が脂肪細胞の分化を抑制して脂肪細胞を大型化させ、悪影響を及ぼすという仮説(Sharma AM Hypertension 2002;40:609-611)をどう思いますか?

伊藤
Dzau先生らはバルサルタンを使って、間葉幹細胞のAT2受容体が脂肪細胞の分化を抑制することを報告なさいましたが(Matsushita K et al. Hypertension2006;
48:1095-1102)、脂肪細胞の分化についてはAT1受容体
を介する作用も考えられ、話は非常に複雑です。
いずれにせよSharmaの仮説は、臨床的には明確な結論がまだ得られていないと思います。
 
RA系研究の今後の課題(ARBの新しい可能性)
堀内
では最後にRA系研究の今後の課題について話し合いたいと思います。
Dzau先生、いかがでしょうか?

Dzau
本日話題になったマルファン症候群や解離性大動脈瘤におけるRA系の役割やARBの占める位置については、さらに研究が進むでしょう。
メタボリック・シンドロームでも同様のことが言えると思います。
また、ARBの脳卒中予防と関連して、脳梗塞サイズ縮小、認知機能改善や痴呆予防などの問題も将来の課題として残されています。
そして、それらの機序として、やはりARBの持つAT2受容体刺激の意義を確かめなくてはなりません。
私は特に間葉幹細胞におけるAT2受容体の機能に興味があります。

伊藤
代謝の分野では、現在、脂肪細胞が話題ですが、多くの研究者が神経系を介したinterもtissuecommunication
の代謝における意義に興味を示しています。AⅡは神経系
にも影響を与えるので、inter - tissue communicationのAⅡによる制御は重要と思われます。

森下
我々は最近、アミロイドβを脳質内に注入して作成したアルツハイマー病のマウスモデルの認知機能障害が、
ARB投与で改善されることを報告しました。
一方、やはりアルツハイマー病のマウスモデルを使った検討で、種々の降圧薬の中でも唯一バルサルタンだけが脳のβアミロイド蛋白値を低下させると同時に、空間学習能力を改善させたとの報告が出ました(図5)。

 

 


今後、臨床で検証していく必要があると思います。
さらに、AT1受容体ノックアウトマウス(卵巣を摘出した閉経後モデル)を使った我々の基礎研究から、ARBが破骨細胞の活性化を抑制するとのデ一夕が得られています(Shimizu H et al. FASEB J 2008; Feb6:18256306(P,SE,B,D))。
これはARBによるRA系抑制が、骨粗しょう症に有用であることを示唆するデータだと思います。

Dzau
いずれもARBの今後の可能性を考える上で、興味深いですね。
スタチンのようにARBにも多彩なpleiotropic effectsがあるように思います。
今後、基礎研究の成果を臨床試験で裏付けることが大切です。

楽木
RA系に関しては、プロレニン受容体、ACE2、Ang-(1-7)なども話題になっており、研究面でも新しい展開が期待できます。

Dzau
RA系研究にはまだ多くの可能性が残されていると思います。
RA系に対する興味は尽きることがありません。

堀内
本日はDzauを囲んで有意義な時間を過ごすことができました。
Dzau先生、”Dzauラボ”の皆さん、ありがとうございました。

Dzau
私は皆さんのようなスタッフを持ったことを非常に誇りに思っています。
ありがとう。

出典 Nikkei Medical 2008.7
版権 日経BP社

 

 

<関連サイト>
心腎連関 その1(1/2)
http://blog.m3.com/reed/20080320/1
ARBによるCV Continuum阻止の試み
http://blog.m3.com/reed/20080716/1
オルメサルタンのRA系抑制の新展開
http://blog.m3.com/reed/20080609/_RA_
心血管病を考慮した高血圧治療
http://blog.m3.com/reed/20080531/1
組織レニン
http://blog.m3.com/reed/20070914/1
(Dzau先生に関するエピソードも紹介しています)

<コメント>
最後のくだり(師弟愛)は感動すら覚えます。

Dzau先生は、たしかデューク大学におみえになると聞いています。

先日帰ってきましたが、医学部6年生のわが子が、短期留学先の選定で留学前に迷っていました。
候補はペンシルバニア大学、デューク大学、ジョンズホプキンス大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校など。
いずれも錚々たる大学です。
ちょうど、Dzau先生がデューク大学にみえるということを知ったので(http://blog.m3.com/reed/20070914/1)、生の姿がみえるということで勧めたことを思い出しました。
(結局はジョンズホプキンス大学に留学しました)

話がちょっととびます。
大腸がんの進行度分類にデューク分類というのがあります。
きょうのきょうまでデューク大学の分類と思っていました。
本当はデュ-クス博士が論文に発表したもので、ただしくはデュ-クス分類というようです。

とても恥ずかしい気持ちです。何故なら留学前のわが子にとくとくとデューク大学とデューク分類について話していたからです。

ジョンズホプキンス大学といえば何といってもウイリアム・オスラー博士でしょうが、日本人とのかかわりでいえば、私は故佐川喜一先生(元Johns Hopkins大学教授、Authur C Guytonの後継者として循環生理学を発展させた日本人)、国立循環器病センター研究所長 菅 弘之先生、九州大学 砂川 賢二先生の熱い師弟愛を思い出さずにはいられません。
ちょうどきょうのDzau先生達のような。

<参考>

ガイトン臨床生理学
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2000dir/n2380dir/n2380_07.htm
“やまもも”言いたい放題(「濃い人間関係」)
http://www5b.biglobe.ne.jp/~yamamomo/kaihobox/kaiho012.html
ポストゲノム研究におけるフィジオーム-(統合生理学)研究の必要性
http://wwwsoc.nii.ac.jp/psj/opn/65-4-1.html
九州大学 砂川 賢二
http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K002448/index.html

 

読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き) 
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
http://wellfrog2.exblog.jp/?2008.5.21
「井蛙内科/開業医診療録」~2008.5.21 
http://wellfrog.exblog.jp/ 
があります。 

 

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