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< 高血圧患者に潜在する腎機能障害 | メイン | 頸動脈狭窄に対する治療選 >
私の外来で、いつも患者さんに見せるデータに久山町研究の結果があります。
(当院には福岡市出身の看護師がいます。彼女いわく、久山町は恐ろしいほどの田舎です。はたして本当なんでしょうか?)
検診時点での随時血圧で140mmHg以下を目指すと脳梗塞の発生率が下がる(それ以下ではあまり変わらない)というデータです。
最近のガイドラインでは、目標血圧値がさらに厳しくなって130mmHgとなってきています。
随時血圧でこの数値を目標とすると、降圧剤を服用中では家庭血圧が100mmHg以下となる場合が出てきます。
なかには低血圧症状を訴える方もみえます。
コンプライアンスを考えると現実的には外来では140mmHg以下と患者さんとの間で約束(?)をしています。
また最近、拡張期血圧は無視してよいという論文も出てきました。
Viewpoint:Systolic pressure is all that matters
The Lancet 2008; 371:2219-2221
また元文献を失念しましたが、過度の降圧は心臓によくないという論文もあります。
はたしてガイドラインの厳しい(?)数値目標設定はどこまでエビデンスがあるのでしょうか。
要するにガイドラインでそうなっているからということにも、疑念を持つ必要があるのではないか?
「プライマリケア医」の素朴な疑問です。
そもそも血圧値自体、測定した数だけあるものです。
そのことは残念ながら高血圧の専門家よりも、家庭血圧を実際に測定している患者さんが実感していることです。
血圧値を語る場合には、どのような血圧値で議論しているのか。
その点を明らかにする必要がありそうです。
この点は重要なことと思うのですが、しばしばネグレクトされていることでもあります。
座談会
血圧と脂質の厳格な管理の重要性
脳・心血管イベント抑制のためには,その主要な危険因子である高血圧と高脂血症を十分に管理することが重要である。しかし,最近,全国のプライマリケアの医師を対象に行った調査によると,高血圧,高脂血症ともにガイドラインの推奨する管理目標に達していない患者が多く,管理状態は決して十分とはいえない現状が明らかになった。
高血圧と高脂血症の管理が不十分な要因は何か,より厳格な管理を実現していくためにはどのような方策が可能か。
森下竜一氏(司会)
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授
北風政史氏
国立循環器病センター 心臓血管内科部長
松原弘明氏
京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器内科学教授
江頭健輔氏
九州大学大学院医学研究院 循環器内科学准教授
血圧および脂質の管理が不十分な実態が浮き彫りに
森下
平成17年の厚生労働省統計情報部「人口動態調査」によると,わが国の主要死因別に見た死亡率の年次推移において,脳血管疾患と心疾患を合わせた割合の高さが示されています。
脳・心血管イベント抑制に向けては,血圧と脂質の管理が重要であることはいうまでもないことですが,実際,それが十分に認識されていない現状が見受けられます。
2006年,全国のプライマリケアの医師500人を対象に,高血圧および高脂血症の治療実態に関するアンケート(J-GAP;Japan Guideline Assessment Panel)が行われており,両者の管理が不十分な実態が浮き彫りにされています。
薬物療法を3か月以上行っている高血圧または高脂血症の患者における,「高血圧治療ガイドライン2004(JSH2004)」「動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002(JSA2002)」に準じた管理目標の達成率や,治療に対する医師の満足度などが解析されました。
その結果,高血圧例の降圧目標達成率は32.9%で,糖尿病・腎障害合併例(降圧目標:130/80mmHg未満)では15.3%(図1),また高脂血症例の管理目標達成率は61.8%で,冠危険因子の数が多くなるほど,この達成率が低下する傾向が認められました。

一方,治療に対する医師の満足度ですが,高血圧例では,降圧目標を達成していないコントロール不良群でも「非常に満足」が15.2%,「まあ満足」が57.5%と,両者を合わせると72.7%が治療に満足している結果です(図2)。
高脂血症例でも,管理目標を達成していないコントロール不良群で「非常に満足」が9.9%,「まあ満足」が49.8%となり,両者を合わせると59.7%が治療に満足していることが示されました。
降圧目標はあくまでも“目標”であり,さらなる厳格な管理が望まれる
森下
このアンケートの結果を見て,先生方はどのような感想を持たれますか。まず,高血圧の治療実態の結果について伺いたいと思います。
北風
発症者のうち,治療を受けている患者さんの割合が1/2,さらに,治療を受けている患者のうち,血圧がコントロールされている患者の割合が1/2であるという,いわゆる1/2と1/2の法則ということが昔からいわれてきました。
せっかく高血圧治療ガイドラインなどが作成されても,治療実態は大きく改善されていないことが示され,ややがっかりします。さらに啓発していく必要がありますね。
松原
降圧目標の達成率が全体で32.9%と低いことはもちろん,降圧目標が達成されていないにもかかわらず,満足している医師の割合が多いことにも驚きます。
糖尿病や腎障害などの合併症があっても,収縮期血圧が140mmHg程度になると,それ以下には降圧せず,満足している医師が非常に多いのではないでしょうか。
合併症によっては,140mmHgよりもさらに低い降圧目標を設定し,厳格に管理していくというガイドラインの趣旨が,まだまだ浸透していないように思います。
江頭
私も,新しいガイドラインがまだ周知されていなく,以前のガイドラインに沿って治療しているプライマリケアの医師が多いと思います。
多くの紹介患者さんでガイドラインの目標が達成されていません。
降圧は,それ自体が目的ではなく,降圧によって脳・心血管イベントの発症を未然に防ぐことが目的であるということを,再度,認識してもらう必要があります。
また,その目的達成のためには,最低限,ガイドラインにある降圧目標まで下げ,それで満足してよいというものではないことも,もっとアピールする必要があるでしょう。
森下
日本のプライマリケアの医師のなかには,未だに過度の降圧による脳卒中の誘発を過剰に心配している医師もいるようです。
収縮期が130mmHg程度になると,とたんに降圧の手を緩めてしまう。
脳・心血管イベントの抑制という観点から,さらに降圧してよいのだということを,もっと徹底させなければいけません。
それと,早期に降圧を図ることが重要だということも,啓発していく必要があると思います。
では,高脂血症の治療実態についてはいかがでしょうか。
松原
管理目標値をLDL-コレステロール(LDL-C)ではなく,総コレステロール(TC)で判断している医師が多いように思います。JSA2002では原則としてLDL-Cで評価し,TCは参考にすると記載されているのですが,実態は異なっているようです。
北風
TCは220mg/dL未満が正常というのが浸透していますからね。
森下
私は,高血圧に比べると高脂血症の治療意義は理解されていないと思っていましたから,管理目標達成率が高血圧より高かったというのは,やや意外です。
松原
高血圧の場合,十分な降圧のためには2剤以上の併用を必要とするケースがほとんどです。
これに対して高脂血症は,スタチン系薬1剤で改善できる場合が多い。
2剤よりは単剤使用のほうがコンプライアンスは良好ですから,あるいはそれが影響しているのかもしれません。
江頭
高コレステロール血症の場合は,脂質低下作用の強いスタチン系薬を使えば,管理目標を達成することはそれほど困難ではないと思います。
にもかかわらず,特に冠危険因子の数が多い群で達成率が低下しているのは危惧すべきです。
北風
日本人医師の特徴として,安全性を重んじる気持ちが強いあまり,積極的な治療ができていないことが,スタチン系薬の使用法についてもうかがわれますね。
江頭
高血圧と高コレステロール血症の患者さんは,ほかにも糖尿病などを合併していることが多いわけです。
現状では,糖尿病の管理は高血圧や高脂血症より困難だと思われますから,薬物療法で比較的管理しやすい高血圧と高コレステロール血症には万全に対処したいところですね。
より厳格な管理の重要性を啓発することが必要
森下
高血圧と高脂血症の管理をより厳格に行うためには,どのような手立てが考えられるでしょう。まず,高血圧からいかがですか。
松原
早朝の血圧コントロールが不良のケースが多いので,私は,それを下げることを1つの治療目標にしています。具体的には,アムロジピンなどの長時間作用型Ca拮抗薬を第1選択とし,それで効果不十分のときにアンジオテンシン II 受容体拮抗薬(ARB)などを併用するようにしています。
森下
長時間作用型Ca拮抗薬は24時間,安定した降圧効果が得られるという特性があり(図3),このことが脳・心血管イベントの抑制に有用なことは,VALUEやASCOT-BPLAなどで証明されています。

江頭
投与の時間帯ですが,私は夕方 -1回,降圧薬と一緒に,必要ならスタチン系薬やアスピリンなども服用するように指導しています。
そのほうがコンプラインスがよいからです。
北風
私も,夕方1回投与を奨めることが多いですね。
森下
降圧目標に達したからといって,それで満足するのではなく,さらに積極的に降圧する必要があるということを,医師や患者さんにどのようにしてアピールしていけばよいでしょう。
北風
降圧治療や脂質低下治療の効果は,例えば抗生物質や解熱剤の効果のように,患者さんにすぐ実感してもらえるというものではありません。
この点が,高血圧や高脂血症の治療に当たる医師のつらいところです。
根気よく,その有用性をアピールしていくしか方法はないのではないでしょうか。
脳・心血管イベントの主要な危険因子をいつくか挙げて,リスクがいくつ重複したら10?20年後のイベント発症率はこれくらいだが,高血圧や高脂血症などのリスクを1つなくすと,イベント発症率はこれくらいまで低下する―といったようなことを,わかりやすい図にまとめて患者さんに提示するというのは,効果があると思います。
江頭
私は,高血圧の患者さんには,原則として血圧測定は自身でしていただくように指導しています。
血圧管理は患者さん自ら行うもの,という自覚を持ってもらうことが,治療に対するモチベーションを高める意味できわめて重要です。
森下
長時間作用型Ca拮抗薬は降圧効果に優れるのはもちろん,その他の作用も報告されていますね。
松原
CAMELOTやそのサブ解析のNORMALIZEによって,血圧コントロールに優れるアムロジピンが冠血流量を増加させ,心筋保護的に作用することがわかっています。
北風
これらの試験で,アムロジピンはACE阻害薬と比較して心血管イベント抑制に有用性が高い可能性が示されました。
降圧効果だけではないアムロジピンの多面的作用が期待されます。
森下
脂質管理については一時,マスコミによって,コレステロールを下げ過ぎてはいけない,ということが報道されました。
先生方は,あの報道による悪影響を感じていますか。
北風
特に女性は脂質を下げ過ぎてはいけない,という報道だったと思いますが,幸い,患者さんたちへの悪影響はそれほどなかったように思います。
いまは患者さん自身で,いろいろな情報を集めて取捨選択し,勉強しようという気運が出てきています。
ですから,一部のマスコミの誤った報道で大騒ぎするということは少なくなったように思います。
江頭
患者さんに正しい情報をお伝えするという意味でも,医師側が直接主催する,例えば種々の疾患に関する市民公開講座といったものが,もっとあってよいかもしれません。
プライマリケアの医師への講習会も重要ですが,あるいは患者さんへの直接的な情報発信はもっと重要かもしれません。
森下
先ほど先生方が指摘されたように,現在では高血圧にしても高脂血症にしても,治療をしっかり行えば良好なコントロール状態を達成することは,それほど困難ではありません。
ただ,現実にそれを阻んでいるのは,良好なコントロール状態を達成することの重要性に対する理解不足だと思われます。
脳・心血管イベントとの相関は明らかなので,今後は,この点の是正に向け,私たち専門医がもっと努力する必要があることを確認して,この座談会を終わりたいと思います。
出典 Medical Tribune 2008.6.7
版権 メディカル・トリビューン社
<関連ブログ>
循環器あれこれ 2008.6.20 http://blog.m3.com/reed/20080620/1
(降圧目標は130/80mmHg未満)
読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
http://wellfrog2.exblog.jp/?2008.5.21~
「井蛙内科/開業医診療録」~2008.5.21
http://wellfrog.exblog.jp/
があります。
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