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2008年6月14~19日,ドイツ・ベルリンで盛会のうちに幕を閉じたHypertension 2008。
欧州高血圧学会(ESH)と国際高血圧学会(ISH)の合同開催となった今学会は,世界各国から8,500人以上の参加者が集まった。
降圧目標の達成には効果増強,副作用減少の両面から積極的な併用療法を
降圧治療のエビデンスは絶え間なく登場し,どの薬剤の組み合わせがよいのか,高血圧患者の降圧目標値はどうあるべきか,初発予防,再発予防,サブグループによる解析が続々と出されている。
ALLHATで,降圧薬の単独治療の限界が示されて以来,現在は複数の降圧薬による併用療法の臨床試験が多く実施され,そうしたエビデンスが各種ガイドラインでも推奨されている。
週末セッション特集“Getting Patients to BP Goals: More Combo Therapy”(降圧目標を達成するには:もっと併用療法を)では,併用療法の重要性に関する多くの演題が取り上げられた。
ドイツ・フリードリッヒアレキサンダー大学のRoland E. Schmieder氏は降圧管理不良の高血圧患者のうち,3分の1が薬剤を増量されていない と指摘。
現在のガイドラインでは単剤で降圧目標を達成できない場合と心血管疾患のリスクが高い場合には併用療法が推奨されているとした。
また,併用療法においてどの薬剤を組み合わせるかについては,英国・ロンドン大学のNeil R. Poulter氏が最近の臨床試験の結果から,ACE阻害薬もしくはARBとCa拮抗薬の組み合わせを第一選択とするのが望ましい としている。
ドイツ・リューベック大学のHeribert Schunkert氏は,重症高血圧,左心肥大,収縮期高血圧や肥満など降圧困難な例にはARBとサイアザイド系利尿薬の併用を考慮すべきと述べている。
さらに,欧米では既に広く使用されている降圧薬の合剤に関するセッションでは,固定用量の合剤使用により高血圧に関連する死亡の減少,単剤に比べ収縮期血圧の降圧がより迅速に得られるほか,単剤の増量に比べ,より明らかな降圧が得られるといったことが紹介された。
エビデンスに追い付かない日常臨床―欧州では3分の2が未治療
しかし,現実には降圧目標を達成できている高血圧患者の割合は,決して高くないことが明らかにされている。
欧州においては高血圧患者の3分の2以上が降圧治療を受けておらず,治療を受けている人のうち,140/90mmHg未満を達成している人の割合は10%に満たないという。
“高血圧は修正可能なリスク” とも言われるが,なかなか理想と現実のギャップは埋まらないようだ。
降圧目標が達成できないのは医師のせい?
レクチャー“Is Physician's Inertia a Major Cause of Not Reaching Target Blood Pressure?”(目標血圧を達成できないのは医師の努力が足りないせい?)では,スペインの高血圧患者を対象とした臨床試験で主治医に取ったアンケート結果が紹介されている。
それによると,治療しているにもかかわらず降圧管理がうまくいかない原因について,医師たちはおもに次のような理由を挙げている。
最も回答頻度が高かったのは「生活習慣改善への意欲不足」(64.3%)で,「服薬コンプライアンスに問題」(38.2%),「選んだ薬剤の効果不足」(31.7%)が続いている。
一方で,興味深いことに,同じスペインからのデータにおいて,医師が高血圧患者に対して,薬剤の変更・追加や用量の調節などの治療方針を適宜変更している割合はわずか15.4%という数字も明らかになっており,こうした背景も血圧管理が改善しない状況に関連している可能性が指摘されている。
ノルウェー・オスロ大学のSverre E. Kjeldsen氏は, 大規模臨床試験での降圧目標達成率は日常臨床での20~30%に比べ,40~60%と2倍程度であるとしながらも,なぜ臨床試験の場においてさえも降圧目標が達成されないのかとの疑問を投げかけた。
同氏が調査研究者として携わったLIFE試験において,治療開始6か月時点で収縮期血圧の低下が停滞してしまった理由を調査したところ,収縮期血圧が140mmHgを超えたままにもかかわらず,初期治療からの投与薬剤の増量が行われていない症例が多数見つかったという。
似たような事例はほかにもあるようで,ASCOTやVALUEなどの例も紹介されている。
同氏は,この理由として「調査研究者の努力不足以外の何者でもない」と述べている。
また,こうした臨床試験上の問題を解決するために必要な方策として同氏らは,VALUE実施時,収縮期血圧が血圧管理の改善の要となることをもっと啓発する必要があると考えた。そして,収縮期血圧が目標値+10mmHgを超えるすべての症例のリストをつくり,試験コーディネーターに送り,経過報告を継続させることなどを提言している。
同氏は「降圧目標達成に必要とされる薬剤の増量には“介入のための介入”が機能しなくてはならない―そして医師自身が血圧管理に積極的に取り組み,降圧目標未達成の原因として“医師側の努力不足”があることを認めなければならない」と述べている。
次回ISH開催国カナダの“高血圧大国”返上の模様も紹介
また,“It is working in Canada! Report on behalf of the Canadian Hypertension Education Program”(頑張っています! カナダにおける高血圧啓発プログラム(CHEP)レポート)では,次回のISH開催国カナダの高血圧治療の意外な惨状(?)が「ひどい降圧管理? カナダを責めないで」という見出しで紹介されている。
人口1,200万人を擁するカナダ有数の都市,オンタリオにおける高血圧患者の割合は1995年から2005年の間に60%も増加しているという。
一方,高血圧の実態と管理に関する同地域の調査からは,治療による降圧管理を受けている人の割合は1992年の12.1%から,2006年には65.7%と大幅に改善しているほか,高血圧を自覚している人は87%で,治療を受けている人は82%と,高血圧治療に対する状況がよくなっている。
この数字は他の国の同じ規模を有する地域に比べても飛び抜けて優れているという。
高い有症率にもかかわらず,介入の状況が改善している点について,記事ではCHEPによる啓発の効果があったと述べられている。
カナダ・カルガリー大学のNorm R. C. Campbell氏は,CHEPが成果を上げた秘訣として,この種の血圧管理の必要性に関する啓発プログラムの繰り返しの実施,内容に一貫性があり,かつシンプルであること,そして実行しやすいことを挙げている。
同プログラムの内容は,年間40の出版物に載せられるほか,ブックレットとして14万人のプライマリケア医や2万人を超える専門医に配られているほか,ホームページ上でも公開されているという。
このプログラムはオンタリオ以外の地域でも実施されているそうだが,依然として糖尿病の合併や未治療の高血圧によりカナダ全土の成人の3分の2が心血管疾患の高リスク群とされ,高血圧患者の4分の1以上が何の治療も受けていない。
同氏は,今学会で「高血圧そのものの予防が最も重要で,それによりカナダ国民の90%を状況改善に導くことが可能だ」とし,「CHEPはカナダの高血圧管理の状況に劇的な変化をもたらした。
他の国でもこのボランティアをベースにしたプログラムは適応可能だ」と述べた。
そして,次回バンクーバーで開催されるISH2010に,CHEPに関心のあるグループを招待するとしている。
これらのトピックスを含む期間中のハイライトニュースは,ESHホームページで読むことができる。
http://www.eshonline.org/education/congresses/2008/esh/index.php
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0806/080620.html
出典 MTpro 2008.6.20
版権 メディカル・トリビューン社
<コメント>
文中のinertiaという単語。
不学にして初めて見ました。
最初はラテン語かスペイン語が紛れ込んでいるのかとおもいましたが立派な英単語でした。
名詞 inertia(不活発、緩慢、ものぐさ、無力)
形容詞 inert,inertial
<番外編>
Journal Watch Online 2008.6.16
No. 08-0612-04
年齢を考慮して特定の降圧薬を選択する必要はない
No Need to Select Specific Antihypertensive Drugs According to Age
2008 June 12
いくつかのガイドラインでは、患者の年齢に基づいた降圧薬の選択を推奨している。
たとえば、若年患者では高齢者と比較しレニン濃度が高い傾向があることからアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬およびβブロッカーが、高齢患者では利尿薬が、最初の血圧降下薬として推奨されている。
しかしこれらの推奨を支持するエビデンスはほとんどない。
190,000人以上の患者を対象とする31個のプロスペクティブなランダム化試験のメタアナリシスが行われ、比較的若年の成年患者(65歳未満)と高齢患者(65歳以上)に対する、さまざまな降圧療法による心血管系イベント(脳卒中、冠動脈性心疾患および心不全)の相対リスク低減効果について比較検討した。
降圧薬をプラセボ群と比較、またはより強化した降圧療法をそれより強度の低い降圧療法とを比較した試験では、2群間に年齢による相対リスク低減に有意な差は認められなかった。
異なるクラスの降圧薬を比較した試験でも同様の結果が得られた。最後に、降圧の単位ごとでも、得られたリスク低減効果に2群間の差はなかった。
コメント:若年高血圧患者および高齢高血圧患者の両方に、血圧コントロールによる効果が認められた。しかしこの研究では、年齢を考慮した特定の降圧薬の選択的使用を推奨するエビデンスは得られなかった。
Paul S. Mueller, MD, MPH, FACP
Published in Journal Watch General Medicine June 12, 2008
Citation(s):
Turnball F et al. for the Blood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration. Effects of different regimens to lower blood pressure on major cardiovascular events in older and younger adults: Meta-analysis of randomised trials. BMJ 2008 May 17; 336:1121.
Original article (Subscription may be required)
http://www.bmj.com/cgi/content/full/336/7653/1121?linkType=FULL&journalCode=bmj&resid=336/7653/1121
Medline abstract (Free)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18480116?dopt=Abstract
<コメント1>
この論文をどのように解釈すればいいのでしょうか。
比較的若年の成年患者(65歳未満)と高齢患者(65歳以上)の分け方の妥当性もよくわかりませんが、高齢者高血圧患者の治療に問題提起をしています。
<コメント2>
高血圧の治療は循環器科の専門の先生が行っているとは限りません。
むしろそうでないほうが多いのではないでしょうか。
循環器の医師は高血圧の治療の専門家と思っていますが、高血圧の専門家は意外と少ないものです。
私自身、大学時代に高血圧に関連した研究を行っていたので日本高血圧学会の立ち上げ(第1回は横浜の金子好宏教授)の時に会員になりました。
(研究が終わってからは退会)
学会員だからといって専門家とはいえませんが、現在この学会の会員はどのくらいいるのでしょうか。
地方によっては、高血圧の研究を行っている医学部がないという場合もあるでしょう。
何が言いたいかというと、循環器専門医だからといって高血圧治療のエキスパートとは限らないということ、だからこそ謙虚な気持ちを持つことが必要だろうということです。
きょうの論文では目標血圧達成の動機付けを患者にきちんと行うべし、と解釈しました。
幸い、開業医の診察机はマイデスクです。
私の机の上にはiMacが置いてあります。
説明の時間がきちんととれないことがつらいところですが5分診療するとして、説明用に仕込んだパワーポイントで適正血圧の意味するところを説明しています。
久山町のデータなんかは説得力もあり、患者の食いつき方も実感します。
他には業者のパンフやラミネートした説明書を使っています。
雑談用の日本地図や世界地図、拡大鏡も必須アイテムとして引き出しに忍ばせています。
マイデスクで診察できること、冬は足元に小さいオイルヒーターを忍ばせることができること、好きなBGMを流すことが出来ること、好きな絵を診察室に掛けれること、好みの素敵なナースを自分で選べること(時節柄これは無理)。
どんな大学教授でも病院部長でもできないぜいたくです(?)
。
開業医は、病院での長期投薬による高血圧管理よりアドバンテージがあるはずです。
こまめな治療ができるからです。
それでも患者は大病院へ。
<追加>
NSTEMI、STEMIという分け方
http://blog.m3.com/reed/20070904/NSTEMI_STEMI_
に論文紹介の追加を行いました。
読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
http://wellfrog2.exblog.jp/
2008.5.21~ 「井蛙内科/開業医診療録」
http://wellfrog.exblog.jp/
~2008.5.21
があります。
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