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特別企画
心血管病を考慮した高血圧治療について
高血圧治療の目的は,降圧目標を達成することで心血管病の合併を予防することにある。
そして,降圧薬としてARBを選択することでその目的の実現が可能となることが,内外の大規模臨床試験の成績から示されている。
本座談会では,高血圧患者に対するARB投与による合併症予防の視点から,「心血管病を考慮した高血圧治療について」というテーマで循環器分野において日本を代表する専門家の間で討論していただいた。
堀内 正嗣 氏(司会)
愛媛大学大学院医学系研究科分子心血管生物・薬理学 教授
光山 勝慶 氏
熊本大学大学院医学薬学研究部生体機能薬理学 教授
松原 弘明 氏
京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学 教授
小室 一成 氏
千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学 教授
バルサルタンの強い降圧効果
堀内
本日は,高血圧患者に対してARBを使うことの意義について
話し合いたいと思います。
高血圧患者を治療する際には,合併して起きてくる種々の心血管病の予防が大切ですが,そのためにまず重要なのがしっかりとした降圧です。
ARBのなかでも,特にバルサルタンは強い降圧効果がいろいろな臨床試験で示されています。
例えば,軽症~中等症高血圧患者を対象に二重盲検クロスオーバー試験で各ARBの降圧効果を検討したところ,バルサルタン(80mg/日)群は,降圧効果が優れていました。
またこの検討では,特に投与2週間後におけるバルサルタン群の降圧効果の持続(18~24時間)が優れていたとのデータも得られています(Fogari R, et al: Cur Ther Res 63: 1-14, 2002)。
一方,わが国で実施された高血圧大規模臨床試験JIKEI HEART Studyでは,バルサルタン群で131/77mmHgまでの降圧に成功しています(表)。

光山
バルサルタンの強い降圧効果は,人種に関係がないと言われていますね。
堀内
そうですね。
アフリカ系米国人の高血圧患者を対象とした検討で,バルサルタンの優れた降圧効果が報告されており(Pool J, et al: ISH 2000 report),PDR(Physicians' Desk Reference)では,数あるARBのうちでもバルサルタンでは人種差・性差・年齢によらず降圧効果が得られることが書かれています。
光山
興味深いのは,アフリカ系米国人で降圧できたというその機序ですね。
バルサルタンは,近位尿細管でのNa再吸収抑制作用が強いと思われますから,そうした機序により食塩感受性高血圧の多いアフリカ系米国人にも有効だったのかもしれません。JIKEI HEART Studyでもバルサルタンは,ほとんど利尿薬の手助けなしに厳格な降圧を実現しました。
ほかのARBと比べてバルサルタンは,Na利尿作用がプラスαのかたちで降圧作用に関係している可能性があると思います。
堀内
松原先生は,バルサルタンの降圧作用についてどうお考えですか?
松原
JIKEI HEART Studyの試験開始時の血圧は139/81mmHgでした。この血圧値から始めて,131/77mmHgまで降圧できたことは注目に値します。
これまでの試験のなかで一番低い到達値が達成できたのは,バルサルタンの降圧作用が優れているためだと思います。
堀内
小室先生,いかがですか?
小室
バルサルタンには降圧効果だけでなく,レスポンダーレートが高いとの報告がありますね。
堀内
そうですね。
Ca拮抗薬との検討では有意差はないものの,バルサルタンで高い傾向があり(Corea L, et al: Clin Pharmacol Ther 60: 341-346, 1996)(図1),ほかのARBとの検討でもバルサルタンの高いレスポンダーレートが報告されています(Hender T, et al: Am J Hypertens 12: 414-417, 1999)。

小室
レスポンダーレートが高いということは,薬理学的にはどういったことを意味しているのですか?
光山
1つは肝臓での代謝におけるP450の関与の有無の問題があると思います。
バルサルタンはP450の代謝を受けませんから,それがレスポンダーレートの高さに関係している可能性があります。
堀内
バルサルタンはそれ自身が活性体なので代謝の影響を受けにくいため,効果も出やすいのではないかと思います。
また,バルサルタンのレスポンダーレートの高さには,AT1受容体選択性の高さとAT2受容体刺激作用のdual effectsが関与しているのではないかと思います(図2)。

光山
AT2受容体刺激は先ほど話題になったバルサルタンの利尿作用にも関与しているのでしょうね。
堀内
そうですね。Gasparoらは,バルサルタンの利尿作用にAT2受容体刺激が関与している可能性があると報告しています。
光山
ARBの場合,組織結合性の強さも問題ですね。
堀内
活性体であるバルサルタンは組織まで十分に浸透するため,組織との親和性も高いという特徴もあると思います。
Cardiovascular ContinuumにおけるARB投与の意義
堀内
JIKEI HEART Studyでは,バルサルタン群で従来降圧治療強化群よりも,プライマリーエンドポイントが39%有意に減少し,脳卒中,入院を要する心不全や狭心症,解離性大動脈瘤などもおのおの有意に減少しました。
松原
その事実から,バルサルタンには降圧に付加されるような臓器保護作用があるように思います。
堀内
そうですね。JIKEI HEART Studyの対象は,Cardiovascular Continuum(心血管イベントの連続性)を広く網羅していました。そうした対象でJIKEI HEART Studyにおいてバルサルタンがエビデンスを示したことは大変重要であると思います。
ここで小室先生,Cardiovascular ContinuumにおけるARB投与の意義についてお話しいただけますか?
小室 Cardiovascular Continuum は,Eugene Braunwald先生とVictor J.Dzau先生が一緒に作成した概念で,高血圧や糖尿病などのリスクファクターから動脈硬化が進行し,心肥大や血管障害などを経て心筋梗塞を発症し,リモデリングが起きて心不全に至るという一連のイベントの連鎖です。
そのすべての過程にアンジオテンシンII(AII)が深く関与していることがわかっていましたが,JIKEI HEART Studyの成績からそれが日本人でも当てはまることが明らかになりました(図3)。

堀内
基礎研究の進歩などから得られたデータも踏まえて,2006年にはCardiovascular Continuumの新コンセプトがつくられましたね。
小室
Cardiovascular Continuumの流れから言っても,高血圧から最終的には心不全に至るわけですが,最近われわれは,高血圧性心肥大から心不全に至る機序に癌抑制因子であるP53が深く関与していることを報告しました(Sano M, et al: Nature 446: 444-448, 2007)。
心臓におけるp53の発現にはAIIが関与している可能性もあるので,ARBによる心肥大の退縮や心不全への進展抑制には,p53の発現抑制による血管新生抑制の解除が関係している可能性があります。
堀内
Natureに発表された小室先生の論文は非常にエポックメーキングなものだと思います。
期待高まるKYOTO HEART Study
堀内
次にわが国で進行中のバルサルタン大規模臨床試験の1つ,KYOTO HEART Studyについて松原先生からご紹介願います。
松原
KYOTO HEART Studyの対象は,糖尿病,喫煙習慣,脂質代謝異常,肥満,虚血性心疾患などの心血管疾患リスクファクターを1つ以上有するハイリスク高血圧患者です。
これらの対象をバルサルタンadd-on群と従来治療群に無作為に割り付けて3年間追跡します。
investigatorとして参加しているのは,京都府立医科大学と関連病院の31施設の循環器専門医です。
試験デザインはPROBE法を用いています。対象は8つの割り付け因子を使って最小化法(minimization)で無作為に割り付けました。
一次エンドポイントは心血管イベント,二次エンドポイントは総死亡,心機能悪化,不整脈,糖尿病出現・悪化などです。全例に心エコーを実施していることが大きな特徴と言えます。
バルサルタンは80mg/日から開始して,160mg/日,他剤併用と段階的に進めます。
従来治療群はARB以外の降圧薬を使用します(flexible dose)。
目標降圧値は140/90mmHg未満ですが,糖尿病や腎疾患合併例では130/80mmHg未満としています。
堀内
現在はどういった状況ですか?
松原
2004年1月から登録を開始しまして,試験開始時の血圧は158/88mmHgでしたが,現時点では129/72mmHgまで到達しています。
これはJIKEI HEART Studyを上回る到達血圧値です。
現在,運営委員会をはじめ,エンドポイント委員会,安全性勧告委員会なども積極的にKYOTO HEART Studyに取り組んでいるところです。
ARBによるRA系ブロックの意義
堀内
ARBを使ってレニンアンジオテンシン(RA)系をブロックすることの意義について,光山先生は薬理学のお立場からどうお考えですか?
光山
ARBはACE阻害薬とは違って,RA系カスケードの最後の部分であるAT1受容体をターゲットとして遮断します。
ですから,キマーゼ系などのAII生成の別経路(非ACE経路)の存在を考慮せずに使えるわけです。
そういうことで世に出るときの期待は大きいものがありました。
そして今や,JIKEI HEART Studyを含めた多くの大規模臨床試験でその期待が正しかったことが立証されました。
RA系ブロックということでは,将来,わが国でもレニン阻害薬が使えるようになると思います。
現在,特に腎障害合併高血圧などではARBとACE阻害薬併用も行われていますが,将来はARBとレニン阻害薬の併用の問題も話題になるでしょうね。
バルサルタンのdrug effectをめぐって
堀内
最後に高血圧治療におけるバルサルタンの位置付けをめぐって,皆さんから一言ずつお願いします。
小室
バルサルタンの特徴は,やはりエビデンスがあるということです。
日本人においてもJIKEI HEART Studyでエビデンスが得られています。
イベント抑制,すなわち臓器保護がしっかりできるというエビデンスがこれだけあるのは,バルサルタンだけです。
ですからこのエビデンスはバルサルタンに特有のdrug effectの可能性があると思います。
松原
そうですね。
JIKEI HEART Studyにおいてバルサルタンで得られたエビデンスは,まさにdrug effectだと感じています。
光山
各種ARBで薬剤の特徴に違いがありますから,得られた良好なデータが単純にclass effectだと言える根拠はないと思います。
一方,臨床試験Val-PRESTにおいてステント留置後症例でバルサルタンがプラセボよりも再狭窄を有意に抑えたというデータ(Peters S, et al: J Invasive Cardiol 13: 93-97, 2001),あるいは慢性心不全を対象とした大規模臨床試験Val-HeFTにおいて,バルサルタンがプラセボよりもアルドステロンの再上昇を有意に抑制したというデータ(Cohn JN, et al: Circulation 108: 1306-1309, 2003)などは,特にほかのARBでは報告されていないデータです。
これらの試験を含めた臨床データとAT1受容体の選択性が高いなどのバルサルタンの薬理学的特徴を併せ考えると,やはりバルサルタンで得られたエビデンスはバルサルタン独自のdrug effectが関与した可能性は否定できないと考えます。
堀内
バルサルタンで蓄積された基礎と臨床のデータは,バルサルタンのdrug effectの可能性を非常に強く示唆していると思います。
出典 Medical Tribune 2008.5.22
版権 メディカル・トリビューン社
<まとめとコメント>
■ ARBの降圧効果に人種差の有無がある?
さらに人種差以外に性差、年齢差の話が出ています。・・・ARBによって異なるということを初めてしりました。
■ 「レスポンダーレート」・・・要するにどんなタイプの高血圧患者にも降圧効果が大きいということなんでしょうか。
■ 「AT2受容体刺激作用のdual effects」・・・このAT2受容体刺激作用はどこまで臨床上意味があるのかまだはっきりわかっていないと思います。
間違っていたらごめんなさい。
ある講演会で阪大のM教授は「AT2受容体刺激作用」をしきりに強調してみえました。
■ JIKEI HEART Studyは他のARBと比較したものではないこと、さらにACEIとの併用が極端に多かったことを考慮すべきです。
■ 「JIKEI HEART Studyの試験開始時の血圧は139/81mmHgでした。この血圧値から始めて,131/77mmHgまで降圧できたことは注目に値します。」・・・治験をやられた先生は、データを記入の際には低い値の血圧をピックアップすることはご存知のはずです。Lancetとの査読のやりとりで血圧の測定法についてとりあげられて苦労したという話は元M教授が座談会で話してみえました。
■ Eugene Braunwald先生とVictor J.Dzau先生・・・
名前だけでひれ伏してしまいます。
■ 「Cardiovascular Continuumの流れから言っても,高血圧から最終的には心不全に至るわけですが,最近われわれは,高血圧性心肥大から心不全に至る機序に癌抑制因子であるP53が深く関与していることを報告しました(Sano M, et al: Nature 446: 444-448, 2007)。
心臓におけるp53の発現にはAIIが関与している可能性もあるので,ARBによる心肥大の退縮や心不全への進展抑制には,p53の発現抑制による血管新生抑制の解除が関係している可能性があります。」 ・・・今日の話の「肝」と思われます。
■ 前半はみんなでバルサルタンをヨイショという感じで少し蕁麻疹がでました。
しかしさすがにプロ。
後半のアカデミックな盛り上げ方はさすがです。
class effectではなく「drug effect」という締めくくりもすごいです。
読んでいただいてありがとうございます。
コメントお待ちしています。
他に
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
「井蛙内科/開業医診療録(2)」
http://wellfrog2.exblog.jp/
2008.5.21~
「井蛙内科/開業医診療録」
http://wellfrog.exblog.jp/
~2008.5.21
があります。
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