戯れ言たれる侏儒
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先月末に福岡で行われた日循総会のステントに関する発表で勉強しました。

第72回日本循環器学会レポート(1)
2006年に欧州心臓病学会(ESC)で,ベアメタルステント(BMS)との比較で薬剤溶出性ステント(DES)の長期予後を疑問視する報告がなされ,話題になった。
その後,安全性を示す報告も多くなされてきたが,混乱の余波が続いている。

第72回日本循環器学会(3月28〜30日,福岡市)では,ステント留置後の再狭窄への影響を長期で検討したThe j-Cypher Registryや,DESに関連した報告が多くなされたので,概略を紹介する。

The j-Cypher Registryで示されたシロリムス溶出ステントの長期安全性
‐BMSと同等のステント血栓発生率
京都大学付属病院の木村剛氏と天理病院の中川義久氏は,日本のDES使用に関する大規模調査The j-Cypher Registryの最新情報を報告した。
The j-Cypher Registryは,2006年11月に登録を終えたが,最終的に36施設で1万2,824例のステント留置患者が対象となり,1年間の追跡を96%の患者〔BMS治療群1,456例,シロリムス溶出ステント(SES)治療群1万778例〕で終え,現在解析中である。

患者背景は以下の通りである。
平均年齢は68.4±10.3歳,80歳以上が13%であった。
75%を男性が占め,糖尿病合併が41%に認められた。透析患者は5%,推算糸球体濾過率(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満の腎不全で,かつ透析を受けていない例が5%あった。
脳卒中の既往が9%,末梢血管疾患合併が12%に認められた。急性冠症候群が25%,ST上昇型急性心筋梗塞の既往が10%に見られた。
多枝病変が55%,3枝病変が14%,左室駆出率40%以下が14%,心不全既往14%,経皮的冠動脈形成術(PCI)施行歴が46%,冠動脈バイパス術(CABG)施行歴が7%にあった。

病変については,慢性完全閉塞が9%,血管径2.5mm未満が30%,非保護下の左主幹動脈(LMCA)での発生は3%に認められた。

問題とされていたステント血栓発生率(3年後)は, BMS治療群で0.58%,SES治療群は0.85%と両群に有意差はなく,木村氏は「BMS,SESともに優れた成績と言えるだろう」と述べた。

 

海外の大規模臨床試験では,DES優位の報告も

米国のMarco A. Costa氏(University Hospitals-Case Medical Center)は,議論を呼んだESCにおけるCamenzindらの報告では,ステント留置後心筋梗塞の重大なリスクであるステント血栓症について,DES留置手技の適切さが考慮されていなかった点を指摘した。
実際,1年後の2007年には,ESCで発表を行ったグループから,DESの長期予後がBMSに比べ優れているとする正反対の報告がなされているという。

次に同氏は,DESとBMSを比較し2年以上の追跡を行った11の大規模臨床試験について紹介。
それらのすべての試験で,BMSに比べDESの予後が有意に劣るとするデータは認められなかった点を明らかにした。
これらのうち,9つの試験でDESが優れる傾向,6つの試験ではDESが有意に優れていることが示された。

透析患者ではSES留置後も死亡率は依然高い
土屋総合病院の豊福守氏は,透析患者におけるSES治療の長期予後について検討を行った。
2004年8月〜2006年11月に同院でPCIを行った患者を対象に
(1)BMS治療透析患者(125例),
(2)BMS治療非透析患者(998例),
(3)SES治療透析患者(88例),
(4)SES治療非透析患者(616例)
—の4群について観察した。

その結果,心血管死あるいは心筋梗塞発症率は透析患者,非透析患者とも,BMSとSESの両治療群で有意差がなかった。

また,透析患者の標的病変血行再建(TLR)の頻度は,BMS,SES両治療群間に有意差はなかった。
非透析患者では,BMS治療群に比べSES治療群が有意に低かった。

透析患者ではSES留置により,2年間の主要有害心血管イベント(TLRを含む)の発生は抑制されたが,同氏は「死亡率は依然高い状況である」と指摘した。

 

東京女子医科大学の鶴見由起夫氏は,まず慢性腎臓病(CKD)が
(1)心血管疾患の危険因子の1つであり,心血管疾患発症後には,その治療を困難にする可能性があること,
(2)PCIが成功しても腎不全患者の死亡率を高めるとする報告があること
—を紹介した。

次に,DES留置と腎機能を検討した多施設による前向きコホート研究HIJ-DESR(Heart Institute of Japan Drug Eluting Stent Registry)について,以下のように報告した。

同研究において,2004〜06年に,SES留置を行った冠疾患患者を対象に,eGFRによるイベント発生への影響を検討した。
対象患者は,eGFRのレベルにより
(1)30mL/分/1.73㎡未満(272例),
(2)30〜60mL/分/1.73㎡未満(1,241例),
(3)60〜90mL/分/1.73㎡未満(1,734例),
(4)90mL/分/1.73㎡以上(252例)
—の4群に層別化,さらに30mL分/1.73m2未満の群を透析群(154例),非透析群(118例)に分類した。
全群にSES留置後6〜9か月時点でアンギオグラフィーによる診断を行った。

その結果,施設内死亡率は
(1)群,(2)群で有意に高く,その2群間では後者でより高かった。
また,(1)群の死亡率は,非透析患者に比べ透析患者でSES留置9か月後までは有意に低いが,その後,両者の差はほぼなくなった。
1年後の主要有害心血管イベント発生率と死亡率は,透析患者で有意に高かった。

以上の成績から,同氏は「DES留置後では,腎臓病末期ばかりでなくCKD初期の段階でも,臨床的アウトカムの悪化があることが示された」と述べた。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0804/080401.html
出典 MTpro
版権 メディカル・トリビューン社

 

<関連サイト>
シロリムス溶出ステントは他のステントよりも臨床的に優れる
シロリムス溶出ステントが,ベアメタルステントやパクリタキセル溶出ステントよりも臨床的に優れていることを示す国際共同研究グループのメタ解析結果が,Lancetの 2007年9 月15日号に発表された。
2 種類の薬剤溶出性ステントとベアメタルステントの安全性と有効性を比較したこのメタ解析には,2007年 3 月までに報告された薬剤溶出性ステント対ベアメタルステント,シロリムス溶出ステント対パクリタキセル溶出ステントのランダム化比較試験38件(患者数計 1 万8,023例)が含まれた。追跡期間は最長 4 年であった。
死亡率は 3 つのステントで差はなかった。
心筋梗塞のリスクが最も低かったのはシロリムス溶出ステントであった。
追跡期間中のステント血栓症の発生に有意差はなかったが,遅発性ステント血栓症のリスクはパクリタキセル溶出ステントが他のステントと比べ約 2 倍高かった。        ベアメタルステントと比較した責任病変血行再建術の減少は,シロリムス溶出ステントのほうがパクリタキセル溶出ステントよりも有意に大きかった。
原著 Stettler C, et al. Lancet 2007; 370: 937-948.
出典 Medical Tribune 2007.10.4
版権 メディカル・トリビューン社

(一部改変)

 

第15回日本心血管インターベンション学会
薬剤溶出ステント巡りディベート
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の最大のネックであった再狭窄を激減させた薬剤溶出性ステント(DES)だが,新たな課題として「
遅発性ステント血栓症(遅発性血栓症)」の問題が浮かび上がってきた。
福岡市で開かれた第15回日本心血管インターベンション学会(会長=福岡和白病院ハートセンター・斉藤太郎センター長)のシンポジウム「Horizon of DES and its limitations」では,DESの適応や限界を巡って,倉敷中央病院(岡山県)循環器内科の井上勝美部長と京都大学大学院循環器内科学の木村剛助教授が,ディベート形式で発表に当たった。

遅発性血栓症のリスクを念頭に置くべき
井上部長は「遅発性血栓症発症のリスクは未知数で常にあり,DESの選択的適応が適切」との立場から,シロリムス溶出ステント(SES)やベアメタルステント(BMS)留置後に死亡した剖検例の病理組織学的検討をもとに見解を述べた。
対象病変は,SES群が留置1.5〜11.5か月後の11病変,BMS群が留置 2 日〜11.5か月後の30病変。
同部長によると,
ステント留置後の修復反応としての内皮再生・新生内膜形成の過程は,DESとBMSで明らかに異なるという。
BMS群では留置12日後の剖検例では新生内膜の形成は不十分だが,留置1.5か月後の剖検例では,ステント留置部全体にわたって平滑筋細胞と細胞外基質の増殖による完全な新生内膜形成が認められた。
留置 4 か月後の剖検例では,ステント留置部に平滑筋細胞増殖による高度の新生内膜形成が認められ,内腔表面は完全に内皮細胞の被覆を受けていた。
これに対してSES群では,留置1.5か月後においてもステント留置部は薄い膜状構造物に局所的に覆われているのみで,組織学的には著明なフィブリン沈着のみが観察され,平滑筋細胞や内皮細胞による修復反応は認められなかった。
留置2.5か月後の剖検例においても,平滑筋細胞と内皮細胞による修復反応は軽度で,フィブリン沈着が主体であり,さらにステントストラット周囲にリンパ球,マクロファージなどの浸潤が認められた。
またSES群において,留置ステントが冠動脈の内膜肥厚の乏しい部位にかかり,ストラットが中膜に接触した部分では,中膜の平滑筋細胞群の著明な脱落・消失が認められた。
このことから,シロリムスの新生内膜形成に対する細胞増殖抑制効果は,単に平滑筋細胞の細胞周期を停止させるだけでなく,局所の細胞毒性も有する可能性があり,その後の冠動脈瘤発現などの危険性が示唆されるという。
留置11.5か月後,抗血小板療法中断後に遅発性血栓症を生じて死亡したSES留置例では,左冠動脈のSES近位側に完全閉塞が認められた。
同症例の組織学的検索では,SES近位部に内皮細胞再生はほとんど認められず,SES近位部にフィブリン成分の豊富な壁在性血栓の形成が観察された。             
また,同症例では同時にBMSを留置していたが,BMS留置部分は対照的に平滑筋細胞や細胞外基質の増殖により厚い新生内膜に覆われ,内腔表面は再生された内皮細胞で完全に被覆されていたという。
これらの成績から,同部長は「SES留置部では,フィブリン沈着と内皮の再生不良が認められ,治癒過程が長期に遅延し,このため血栓症のリスクが絶えず続く。さらには留置後晩期のステント圧着不良や冠動脈瘤発現の可能性もある」と結論した。

過大評価されるDESによる遅発性血栓症
一方,木村助教授は「DESにおけるステント血栓症は,重大な問題ではない」との立場から解説。
「DESによる遅発性血栓症の懸念は過大評価されている」と指摘した。

同助教授は,シロリムス溶出ステント(SES)の安全性と有効性を明らかにするため,現在わが国で進行中のj-CYPHERの中間解析(9,421例)と,欧州で実施されたe-CYPHER を比較した。
それによると,j- CYPHERで80歳以上の高齢者,PCI既往例,糖尿病合併(43%対29%),病変数・ステント数が有意に多く,血管径2.5mm未満(31%対 8 %)の病変が多いなど,背景因子に相違があるものの, j-CYPHERでのステント血栓症発症率は30日以内が0.39%, 1 年後が0.19%(181〜365日の発症なし),全体で0.58%であり,e-CYPHERでは順に0.69%,0.19%,0.87%だった。
したがって,Milan,Rotterdamなど他の大規模登録研究の報告を併せても,遅発性血栓症発症率は0.19〜0.5%と低かった。
j-CYPHERではステント血栓症の大多数は 1 〜 2 か月以内に発症しており,DES留置における安全性の改善には,早期ステント血栓症を標的とすべきことがうかがわれた。
多変量解析の結果では,30日後のステント血栓症の予知因子としては,分岐部病変のための 2 ステント留置(オッズ比1.97),緊急PCI(同1.87),回旋動脈入口部(同2.2),糖尿病合併(同1.45)が有意であった。
ところで,チエノピリジン系抗血小板薬の至適投与期間については未確立である。                      j-CYPHERの 3 か月〜 1 年後までの有害事象発生率を,1 年以内に同薬中断を予定していた群(平均投与期間15672日)と 1 年間実施群で比較すると,ステント血栓症の発症率は順に 0 %対0.2%で有意差はなかったのに対し,死亡率は1.5%対3.4%と後者で有意(P=0.007)に高率だった。
同助教授は「DESは既に複雑な冠動脈疾患の治療において著しい改善を達成しており,非現実的な遅発性血栓症の安全性懸念のために,BMSに戻ることはできない」と強調した。

〜シロリムス溶出ステント〜
小血管でも1年後のMACEを抑制
シロリムス溶出ステント(SES)の適応は,対象血管径2.7mm未満の小血管にまで拡大してきている。
名古屋第二赤十字病院循環器センター内科の鈴木博彦氏らは,小血管に対するSES留置例の急性期および長期予後をベアメタルステント(BMS)使用当時の治療成績と比較。
SESにより再狭窄率,標的病変再血行再建(TLR)率が著明に低下し,1 年後の主要有害心血管イベント(MACE)が有意に減少することを明らかにした。

 

女性,透析合併例,急性冠症候群では有意差認めず
対象は,SES群が2004年 6 月〜05年 5 月に直径2.5mmのSESを留置した181例,BMS群が2003年 6 月〜04年 5 月に3.0mm未満のBMSを留置した127例。
SES群で左前下行枝が有意に多かった(48.3%対34.4%,P<0.01)点を除くと,両群の対象・病変部の背景因子に有意差はなかった。
手技および定量的冠動脈造影(QCA)の結果については,両群の手技成功率に有意差はなかった。
SES群が留置 8 か月後,BMS群が同 6 か月後という相違はあるものの,追跡冠動脈造影での再狭窄率はSES群7.2%対BMS群29.1%(P<0.01),TLRが3.9%対10.2%(P=0.03),TLRと標的血管血行再建(TVR)率,心筋梗塞を合わせた標的血管不全(TVF)率が7.2%対18.1%(P<0.01)と,それぞれSES群で有意な低下を示した。
両群の 1 年後の臨床的MACEは2.8%対8.7%(P=0.02),手技的MACE(TLR,TVR)は7.2%対17.3%(P<0.01)と,SES群で有意な低下を示した。
ただし,内訳を見ると,TVR,心不全による入院,死亡については両群に有意差はなかった。
ロジスティック回帰モデルによる 1 年後の臨床的MACEのサブグループ別解析では,女性,透析合併例,急性冠症候群においてSESによる有意な抑制は認められなかった。
以上から,鈴木氏は「小血管においてもSESにより再狭窄抑制と,ほとんどの患者でMACEの有意な抑制が得られた」と結論した。

第15回日本心血管インターベンション学会
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?id=M3931221&year=2006&type=article

Medical Tribune 2006.8.3

版権 メディカル・トリビューン社

 

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