戯れ言たれる侏儒
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< 重症急性心不全のICU管理 | メイン | Brugada症候群の心電図診断 その2... >

以前にも書かせていただきましたが、数十年前に循環器科の医師を目指した時に森 博愛先生の書かれた心電図のテキストを繰り返し読みました。                  教授を退官されて随分月日が経つものと思われますが、数年前に以下に紹介する総説を書いておみえになります。        学問に対する情熱にはただただ感服します。 

ご存知の方も多いでしょうが、奇しくも今月末の第72回日循総会(福岡市)でJosep Brugada先生がUpdate in Brugada syndromeというテーマで特別講演されます(3月29日11:10-11:55)。

Brugada症候群の心電図診断 その1(1/3)
徳島大学名誉教授 森 博愛先生

はじめに
従来、心臓病を指摘されたことがない健康な青壮年男性が、夜中に大きいうなり声を発して急死する例があり、わが国では「ポックリ病」としてかなり以前から知られていた。
その頻度は東京都で年間100例に達する。
この「ポックリ病」と同様の病気がフィリピン、タイなどの東南アジア諸国にもあることが知られており、タイでは「lai tai(睡眠中の急死)」、フィリピンでは「bangungut(うなり声に続く睡眠中の急死)」と呼ばれ、その頻度は10万人の住民中26~38人くらいといわれている。

この「ポックリ病」の本態については、冠動脈攣縮、胸腺リンパ体質、内分泌・自律神経系異常、心臓刺激伝導系異常などの諸説が提唱されたが、いずれの説も決定的な支持を得るに至らなかった。

1992年、Brugadaらは右側胸部誘導心電図が右脚ブロッ
ク様所見(R’波)と著明なのST上昇を示す例があり、このような例はしばしば夜間に心室細動発作を起こして急死することを発表した。
彼らはこれが一つの独立した疾患単位であり、特発性心室細動の重要な基質(基礎病態)であるとし、これがいわゆる「ポックリ病」と同一疾患であることを指摘して広く世界的に注目を集め、現在、一般にBrugada症候群(以下、本症
候群と略)と呼ばれている。

本症候群の中に遺伝傾向が強い例があることは、Brugadaらの最初の報告にも指摘されているが、1998年、Chenらにより心筋細胞膜のNaチャネルをコードする遺伝子SCN5Aに異常がある例があることが発見され、本症候群は先天性QT延長症候群とともにイオンチャネルを構成する分子の異常が致死的不整脈(遺伝性不整脈)を惹起するとし、いわゆるイオンチャネル病の代表的疾患の一つとして臨床的にもきわめて重要なことが明らかとなった。


1. Brugada症候群の特徴的心電図所見
Brugadaらはその最初の論文において、本症候群の心電図所見の特徴は次の3所見であることを指摘した。
①右脚ブロック、
②右側胸部誘導のST上昇、
③正常QTc間隔。

本症候群の中には、実際右脚ブロック、左脚前枝ブロックなどの心室内伝導障害を伴う例もあるが、ほとんどの例で右脚ブロックのR’様にみえる所見は、実はJ波の顕著化によるものであるから、右脚ブロックという表現は適切でなく、「右脚ブロック様所見」または「J波の顕著化」と記載するのが妥当であると考えられる。

しかし、本症候群と進行性心室内伝導障(Lenegre病)とは類縁関係にあり、ともに遺伝子のSCN5Aの変異により生じるため、本症候群は完全右脚ブロック、左脚前枝ブロック、第一度房室ブロックなどの伝導障害をしばしば合併する。
しかし、このような場合も右脚ブロックや左脚前枝ブロック
所見が重要なのではなく、J波の顕著化とST上昇が重要な所見である。
 
J波はOsborn波、イプシロン波などとも呼ばれ、低体温時
などにQRS波とST起市始部との間に出現する陽性波で、従来、臨床心電学ではあまり関心が払われてこなかった。
その成因は、心内膜・心外膜下筋層細胞の活動電位波形の相違によることが近年明らかにされてきた。
一般に、心外膜下筋層細胞活動電流のうち、外向き電流(Tto,IKATP)の増加、あるいは内向き電流(ICA-L,INa)の減少は、J波の顕著化の方向に働く。
Brugadaらは正常QTc間隔を本症候群の心電図所見の特徴の一つとして挙げているが、最初の報告にもH-V時間延長例が含まれている。
QT間隔延長を特徴とする先天性QT延長症候群は本症候
群と類縁関係にあり、その一型であるLQT3(先天性QT延長症候群Ⅲ型)は本症候群と同様に遺伝子SCN5A変異により生じる。
そのため、本症候群でQTc間隔延長を示す例は多くあり、正常QTc間隔を本症候群の特徴的所見とすることは適当でない。
したがって、本症候群の特徴的心電図所見は以下のごとく表現される。
①右側胸部誘導における著明なST上昇、および
②J波の顕著化による右脚ブロック様所見(右側胸部誘導のR波様所見)。
図1

2. coved typeとsaddle-back type
本症候群のST上昇には、coved typeとsaddle-back type
の2型がある。
(図2)


(1)coved type
covedという言葉は、「峡谷のような」という意味で、著しく上
昇したいST前半部があたかも谷底に切れ込むように急峻に下降して陰性T波に移行する所見をいう。
この所見は本症候群の代表的な所見で、心室細動などの重篤な心室性不整脈を誘発する危険が高い所見である。
(2)saddle-back type 
上昇した右側胸部誘導ののST部の波形が、あたかも馬の鞍のように中央が少し陥凹した形を示す。
coved typeは特異的な心電図波形を示すために心電図診断を誤るおそれは少ないが、saddle-back typeは、しばしば不完全右脚ブロックやnormal variantと誤られる。
図3

 

中略  

健診、人間ドックなどで発見されるBrugada型心電図の多くはsaddle-back型で、この波形はcoved型に比べて心室細動などの悪性不整脈に進展する危険は低い。
しかし、後述するように、Brugada型心電図波形は経時的に著しく変動し、ある時点でcoved型であった例が、他の時点ではsaddle-back型に変化したり、また逆の場合もあるた
め、経過を追って心電図を観察することが必要である。
同一例の同一時点における心電図でもV1、V2がcoved型で、V3がsaddle-back型を示すような場合もある。

出典 日本医事新報 No.4223 2005.4.21
版権 日本医事新報社

引用文献を調べられる際には原著を参照ください。

Channelopathy
http://blog.m3.com/reed/20070916/Channelopathy
Brugada症候群の治療
http://blog.m3.com/reed/20071102/Brugada_

 

他に
「井蛙内科/開業医診療録」 
http://wellfrog.exblog.jp/ 
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)                があります。

 

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