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昨年のLancet誌に掲載された記事で勉強しました。
虚血プレコンディショニング(IPC)は1986年に提唱されたということで、20年以上前からの概念ということになります。
ここでは右側上腕を虚血状態にする"remote"なIPCを行っています。
術者に影響を与えることのない簡単な方法で、かつ片側の上腕だけという少ない虚血暴露のみで良好な心筋保護が得られたというものです。
PCIにも応用しようという考えは誰にも浮かぶアイデアですが、無効であると「解説」には書かれています。
冠動脈バイパス術施行患者の心筋障害に対するリモートプレコンディショニングは有益(無作為化対照試験)
Effect of remote ischaemic preconditioning on myocardial injury in patients undergoing coronary artery bypass graft surgery:a randomised controlled trial
背景
リモートプレコンディショニング(遠位虚血曝露;ある臓器の長時間の虚血イベントによる障害を防ぐため、遠隔臓器を虚血・再潅流状態に短時間曝露すること)が冠動脈バイパス術施行患者に有益かどうかはわかっていない。
リモートプレコンデイショニングがこれらの患者で心筋障害を減らすかどうかについて、無作為化単盲検化対照試験において検証した。
方法
待機的冠動脈バイパス術を受ける成人患者57人を麻酔導入後、リモートプレコンデイショニング群(n=27)もしくは対照群(n=30)に無作為に割り付けた。
リモートプレコンディショニングとして右側上肢に5分間の虚血曝露を3回実施した(上腕に自動加圧式カフを装着し、200mmHgまで加圧し5分間虚血、カフを減圧し5分間再灌流)。
血清卜ロポニンT値を術前、術後6,12,24,48,72時間目に測定した。
解析はintention-to-treatに基づいて行った。
結果
リモートプレコンディショニングにより、術後6,12,24,48時間すべてで血清トロポニンT値が有意に低下した(図)。
血清トロポニンT値の総曲線下面積は、対照群に比較してリモートプレコンディショニング群では43%減少した(P=0.005)。
結論
1カ所の3次医療施設で待機的冠動脈バイパス術を受けた成人患者において、上肢の一過性虚血によるリモートプレコンディショニングは有益な効果をもたらす可能性が示された。
中島千波 「晴和三春の瀧櫻」
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解説
大きな利点のある療法だがさらなる知見が必要
加賀重亜喜(助教).松本雅彦(教授)
山梨大学医学部第2外科
”虚血プレコンディショニング(IPC)”は1986年にMurryらが最初に提唱した概念であり、先行する短時間の心筋虚血によってその後に生じる致死的な虚血性心筋障害が抑制される現象である。
内因性心筋保護作用として重要と考えられており、G蛋白を介したアデノシン受容体やカ
リウム感受性ATP(KATP)チャネルの関与が示唆されている。
IPCの臨床応用は、開心術時の間欠的大動脈遮断法や体外循環を用いない冠動脈バイパス術(CABG)時の一時的冠動脈遮断法として一部で行われてきたが、動脈硬化が強い場合には、間欠的大動脈遮断に伴う脳合併症のリスク上昇やバイパス血管吻合前の一時的冠動脈遮断の手技が侵襲的であるという問題がある。
今回実施された”リモートプレコンディショニング”はPrzyklenkが1993年に最初に報告した手法である。
イヌの冠動脈左回旋枝でIPCを実施した後、左前下行枝を1時間虚血後に再灌流した結果、非虚血プレコンディショニング心筋である左前下行枝領域の梗塞範囲が、対照群に
比べ小さくなり、心筋保護効果が認められた。
その後の研究で、心臓以外の臓器・組織(腎、腸、骨格筋)に短時間の虚血・再灌流操作を繰り返した場合にも同様な効果が示されている。
臨床応用では、小児の開心術時に下肢に巻いた血圧測定用カフの加圧・減圧(下肢筋組織の虚血・再灌流)により心筋保護効果が示された。
効果発現機序としてアデノシン、ブラジキニンなどの体液物質や神経系を介したシグナル伝達の関与が示唆されているがいまだ明らかではない。
本研究は待機的CABG患者をリモートプレコンディショニング(RIPC)群と対照群に分け、術後のトロポニンT値を測定し効果を評価したものである。
除外基準は80歳以上、不安定狭心症、左主幹部病変、肝・腎・肺疾患、上肢の閉塞性動脈疾患合併例である。
RIPCは麻酔導入後、執刀前に行っている。
RIPCは上腕に巻いた血圧測定用カフの加圧・減圧という簡便かつ非侵襲的な方法で行っている。
執刀前にRIPC操作が終わっているため手術手順に影響を与えず、外科医にとって受け入れやすい方法といえる。
IPCに関する最初の報告から約20年たち、実験的・臨床的に膨大な研究成果が得られてきたにもかかわらず、いまだに臨床面での普及がみられていない。
その理由として以下があげられる;
①間欠的大動脈遮断法に伴う脳合併症のリスク
②IPC操作による手術時間の延長
③プレコンディショニング作用のある薬物・麻酔剤の存在(薬理的プレコンデイショニング)
④高齢者では効果が弱い
⑤信頼性の高い臨床研究による一貫したエビデンスの不足
⑥臨床的に最も有効なIPC方法が確立していない。
低リスクのCABG施行患者では、心筋障害の指標となる術後のトロポニンT値、CKMB値の上昇は軽微であることが多く、本研究でも同様であったが、術後のトロポニンT値は対照群に比べRIPC群で有意に低くRIPCの効果が明らかとなった。
一方、その他の指標の推移はどうなのだろうか?
CKMB値の記述はないが、有意差があったのだろうか?
術後急性期の血行動態・心機能や中期・遠隔期の心事象(イベント)への好影響はみられたのだろうか?
本研究におけるプレコンデイショニングの方法は本研究におけるプレコンディショニングの方法はきわめて簡便で非侵襲的であるという大きな利点がある。
しかし、同様のプレコンディショニング法がPCI(経皮的冠動脈形成術)症例で無効だったとの報告もある。
開心術時の標準的な心筋保護手段として本法が定着するためには、まだ多くの知見が必要であろう。
原著 Hausenloy DJ,et al. Lancet 2007; 370: 575-579.
和訳ならびに解説 MMJ vol.4 No.2 2008
他に
「井蛙内科/開業医診療録」
http://wellfrog.exblog.jp/
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
があります。
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