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日常診療で、歯科から抜歯の際の抗血小板剤の中止依頼の照会状を携えて来院される患者さんに遭われることは多いことと思います。
中には相談なく勝手に中止されてしまうこともあります。
循環器専門医なら中止不要という知識はお持ちのことと思います。
確率は低いものの重篤な症状が中止によって惹起されることがあるとのことです。
歯科医の間ではこのことはどこまで知られているのでしょうか。
きょうは歯科の先生もまじえてのディスカッションを勉強しました。
特別企画
第1回
抗血小板薬,抗凝固薬の休薬を考える―それは本当に必要か
抜歯,歯周手術時の抗血栓療法
日本では高齢化の進行に伴い脳梗塞や心筋梗塞に代表される血栓性疾患が増加し,抗血小板薬や抗凝固薬を継続的に服用する患者も増えている。
現在,抗凝固薬ワルファリンを内服する人は100万人,抗血小板薬アスピリンは300万人に上るとも言われる。
こうした患者では,手術や抜歯などの観血的処置を行う際の休薬の可否,また再開のタイミングが大きな問題となる。
シリーズ「抗血小板薬,抗凝固薬の休薬を考える―それは本当に必要か」は,この問題に最新の答を提供することを目指して企画された。
第1回は,抜歯や歯周手術時の抗血栓療法について討論を行った。
抗血栓療法の中断はリスクが大きく,ほとんどの抜歯例ではワルファリンや抗血小板薬の休薬は不要であること,適切な局所止血処置が重要であることが明らかになった。
シリーズ構成
第1回:抜歯,歯周手術時
第2回:消化器内視鏡治療時
第3回:眼科手術時
第4回:整形外科・泌尿器科手術時
出席者(発言順)
矢郷 香 氏 慶應義塾大学病院歯科口腔外科
森本 佳成 氏 大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座講師
司会
矢坂 正弘 氏 国立病院機構九州医療センター脳血管内科科長
休薬に伴う血栓塞栓症再発;頻度は低いが症状は重篤
矢坂
よく知られているように脳梗塞はラクナ梗塞,アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症の主要 3 病型に分けられます。
ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞ではアスピリンなどの抗血小板薬,心原性脳塞栓症ではワルファリンの再発予防効果が確立しており,各種ガイドラインで推奨されています。
ところが,こうした抗血栓療法施行中に観血的治療を行う場合,出血性合併症をおそれ休薬する例が少なくありません。これは本当に必要なのでしょうか。
本シリーズでは,抗血栓療法中断のリスクとベネフィットを問い,各科の観血的手技に即して休薬の必要性や再開のタイミングといった問題を考えていきたいと思います。
第 1 回は,抜歯や歯周手術時の休薬をテーマに討論していきます。
抜歯時のワルファリン休薬は,血栓塞栓症のリスクを増加させると指摘されています。
米国のWahlの文献調査では,ワルファリンを中止した493例・542回の抜歯のうち,5 例(約 1 %)で血栓塞栓症が起こり,うち 4 例(80%)が死亡したとのことです。
国立循環器病センターでの検討ですが,抗凝固療法例で脳梗塞を発症した23例中,抗凝固薬を意図的に中止していた例が 8 例(うち 4 例は抜歯による)ありました。
中止例は退院時要介護(mRS:3 以上)が71%と,非中止例の21%に比べ予後が著明に悪くなっていました(表 1)。

抗血小板薬については,Maulazらがアスピリン療法中に脳梗塞/TIAを発症した群と非発症群を比較し,休薬例の割合は発症群4.2%,非発症群1.3%で,休薬の脳梗塞発症へのオッズ比は3.4と報告しています。
このように,ワルファリンとアスピリンのいずれにおいても,抜歯時の休薬によって起こる血栓塞栓症の頻度は1~4.2%程度と高くはないのですが,発症例は重篤な場合が少なくありません。
抗血栓薬服用患者は数百万人に上りますから,1 %でもかなりの発症数になります。
こうした点から,日本循環器学会の抗凝固・抗血小板療法ガイドラインでは「抜歯時には抗血栓薬の継続が望ましい」と明記されています。
日本の現状;ワルファリンも抗血小板薬も休薬例が半数超
矢坂
では,日本の現状はどうなのか。
矢郷先生は,抗血栓療法時の抜歯について調査をされましたね。
矢郷
抗血栓療法患者の抜歯がどう認識されているのか,医師
116人と歯科医師102人を対象に調査を行いました。
医師での調査では,抜歯時にワルファリンを中止・減量する医師が70%,抗血小板薬を中止する医師は86%に上りました(図 1)。

その理由は,「歯科医師が出血で困ると思う」が最も多く,次が「歯科医師の指示で」でした。
半面,医師の10%が抜歯のためワルファリンを中止した結果,脳梗塞などを起こした例を経験していました。
そして,61%の医師は,ワルファリン継続下で抜歯する歯科医師がいることを知らないと答えました。
ほとんどの医師は,歯科医師がワルファリン継続下で抜歯可能と判断すればその指示に従うということですので,歯科の側からのアピールが求められていると言えます。
歯科医における調査では,医師から抗血栓療法を理由に抜歯を禁止された患者に遭遇したことがある人が66%に見られました。
これは,休薬なしで抜歯が可能との認識が,医師側でも弱いことを示しています。
また,休薬の判断を医師に一任する歯科医師が多く見られました。
また,ワルファリンの至適治療域について尋ねたところ,INR:1.6~2.5とした医師が大半ですが,抜歯時の望ましいINR値に関しては1.5以下と回答した医師が79%を占めました。
すなわち,かなりの医師がINR:1.6以上では抜歯時の止血が困難と考えているわけです。
一方,歯科医師でINRを知っていると回答したのは23%に過ぎず,医師との連携に支障を来すと思われました。
矢坂
私たちも同様の調査を行いました。
対象はJ-MUSIC*参加施設の医師(主に脳卒中専門医),国立病院機構の医師と歯科医師です。
抗凝固療法の継続率は,J-MUSIC医師58%,国立病院機構医師35%,同歯科医師53%。抗血小板療法の継続率は,それぞれ69%,38%,60%でした(図 2)。

医師も歯科医師も,抗血栓薬継続下の抜歯に対する認識はまだ低く,脳卒中専門医でも十分でない,という結果だと言えるでしょう。
*脳梗塞急性期医療の実態に関する研究
欧米の認識;抗血栓療法は大多数の例では中止してはならない
矢坂
次に,抗血栓療法継続下の抜歯は本当に可能なのか,その根拠についてうかがいます。
森本
最近,この問題に関係する 2 つの論文が発表されました。
1 つは, Perryらが Br Dent J に発表したもので,抗凝固薬服用患者が抜歯などの処置を受けるときの管理ガイドラインです。
INR:2~ 4 の治療域にあれば重篤な出血のリスクは非常に小さく,逆に休薬により血栓症リスクが増大することを踏まえ,「外来の歯科外科処置を行う大多数の患者では抗凝固薬を中止してはならない」と述べています。
また,INRが治療域で安定している患者では,感染性心内膜炎の予防のため抗菌薬を 1回投与しても,抗凝固薬を調整する必要はないとのことです。
出血リスクを小さくする方法としては,酸化セルロースまたはゼラチンスポンジ+縫合の併用,5 %トラネキサム酸による洗口を推奨しています。
もう 1 つはAframianらによるメタ解析で,内容はよく似ています。
ワルファリン服用例でINRが治療域にあれば,1 本の単純抜歯では休薬してはならないこと,トラネキサム酸溶液による洗口などが有効であること,歯科処置のために低用量アスピリン(100mg/日以下)を中止すべきではないことが,いずれもハイレベルのエビデンスとして示されています(表 2)。

これらの文献から,欧米での休薬問題の最新の考え方がうかがえます。
抗血栓療法継続下の抜歯が可能かというより,抜歯に際しては基本的に休薬してはならない,というのが主流になっているのです。
Medical Tribune 2008.3.6
版権 メディカル・トリビューン社
他に
「井蛙内科/開業医診療録」
http://wellfrog.exblog.jp/
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
があります。
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