戯れ言たれる侏儒
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特別企画
JIKEI  HEART Study
ARBバルサルタンのエビデンスをめぐって
~高血圧治療におけるARBの位置付け~
司会     東大 藤田敏郎先生
発言者  
             シャルグレンスカ大学 Bjorn Dahlof先生
        名大       室原豊明先生
             阪大     森下竜一先生
             慈恵医大  吉村道博先生

このスタディおよびバルサルタンの臨床試験については今までに取り上げさせていただきました。

JIKEI HEART Study
http://blog.m3.com/reed/20070822
JIKEI HEART Study(その2)
http://blog.m3.com/reed/20070910/JIKEI__HEART_Study_2_ バルサルタンのエビデンス その1(1/2)
http://blog.m3.com/reed/20080213/1
バルサルタンのエビデンス その2(2/2)
http://blog.m3.com/reed/20080214/1
進行中のバルサルタン臨床試験 その1(1/2)
http://blog.m3.com/reed/20080103/1
進行中のバルサルタン臨床試験 その2(2/2)
http://blog.m3.com/reed/20080104/1
JIKEI HEART Study ・ARBの位置づけhttp://blog.m3.com/reed/20080308/JIKEI_HEART_Study__ARB_

今回の企画は
脳卒中
心不全
狭心症
解離性大動脈瘤
高血圧
の5つの分野についてのディスカッションです。
いわばこのスタディの総まとめ的なものと考えられます。
今日は脳卒中と心不全について勉強しました。
明日は狭心症、解離性大動脈瘤、高血圧を取り上げる予定です。

<脳卒中>
脳卒中の成績をめぐって
まず満たすべきは厳格な降圧目標の達成
藤田 
では続いて,エンドポイントをめぐる話題に進みたいと思います。
日本人は欧米人よりも脳卒中の発症率が高いと言われていますが,そうしたなかでJIKEI HEART Studyにおいてバルサルタン群で脳卒中のリスクが40%有意に減少したという事実はきわめて重要です。

Dahlof 
脳卒中に対する私の最初のコメントは,血圧コントロールが脳卒中予防にとってきわめて重要であるということです。

藤田 
長い間,脳卒中予防の程度は降圧に依存すると言われていました。

Dahlof 
そうですね。
そして同等に降圧しても,バルサルタン投与で40%も有意に脳卒中リスクが減少したのですから,やはり降圧だけでなく+αの作用を持った降圧薬を選択すべきことがJIKEI HEART Studyで示されたと思います。
つまり,降圧目標まで到達することで,さらに上乗せされたベネフィットがバルサルタンによって得られたということです。

森下 
脳卒中のデータは,JIKEI HEART Studyで示された優れた成績のうちでも最も重要なものだと思いますが,バルサルタンが心房細動(AF)を予防して心臓由来の脳塞栓を減少させた可能性についてはどうなのでしょうか?

Dahlof 
AFに関しては,バルサルタンの予防効果についての解析が進んでいると思います。
一方,脳卒中イベントのほとんどは虚血性脳卒中であることがわかっていますが,AFと脳塞栓との関連を実証することは難しいかもしれません。

室原 
ハイリスク高血圧を対象とした大規模臨床試験VALUEのサブ解析では,バルサルタン群のほうが,新規および持続性AFが有意に減少したとの解析結果が得られています。Dahlof先生が試験統括責任者を務められた,左室肥大を伴うハイリスク高血圧患者を対象とした大規模臨床試験LIFEでも,ARB群でAFの新規発症が有意に減少していましたね。

Dahlof 
そうですね。
それに伴い,脳卒中も有意に減少したとの成績も得られています。

藤田 
JIKEI HEART StudyのAFサブ解析の結果が待たれます。

<脳卒中関連サイト>
ディオバンにより心血管イベント、脳卒中が約49%と減少
http://www.novartis.co.jp/news/2007/pdf/pr20070427.pdf

高血圧治療における臓器保護の重要性
http://www.med.hirosaki-u.ac.jp/~inter2/%8D%82%8C%8C%88%B3%82%CC%8E%A1%97%C3.htm

脳卒中におけるRA系抑制の重要性(その1)1/2
http://blog.m3.com/reed/20071114/1
脳卒中におけるRA系抑制の重要性(その2)2/2
http://blog.m3.com/reed/20071116/1

ACE阻害薬,ARBの血圧依存・非依存効果
Blood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration:BPLTTC
http://www.ebm-library.jp/circ/analysis/01-01.html
今回の解析ではRA系抑制薬であるACE阻害薬とARBの降圧を超えた臓器保護効果に関する分析に焦点をおいている。
脳卒中に関しては,どちらの薬剤も降圧に依存した予防効果を示しているが,冠動脈疾患に関しては,ACE阻害薬が降圧を超えた予防効果を示した(-9%,95%信頼区間3-14%)のに対して,ARBでは降圧を超えた予防効果を示さなかった。両薬剤間の降圧を超えた冠動脈予防効果の違いには有意差が認められた(p=0.002)という結果である。

<心不全>
心不全の成績をめぐって
日本人でも欧米人と同様のエビデンスが
藤田 
次に心不全の成績に焦点を当てたいと思います。
JIKEI HEART Studyではバルサルタン群で入院を要する心不全のリスクが47%有意に減少したことについて,室原先生,コメントをお願いします。

室原 
既に海外で実施されたVal-HeFTやCHARM-Addedなどの大規模臨床試験において,ARBによるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の遮断が,ACE阻害薬投与中の心不全患者の予後を改善するとのエビデンスが得られています。JIKEI HEART Studyにおける心不全の成績は,海外で得られていたエビデンスが日本人でも立証されたということだと思います。
そして忘れてはならないことは,ARBはACE阻害薬に上乗せしても,こうしたエビデンスを示しているということです。

藤田 
JIKEI HEART StudyではACE阻害薬はどの位使われていたのですか?

Dahlof 
試験開始時には全体で35%に使われていましたが,試験終了時におけるACE阻害薬はやはりバルサルタン群で減少,従来降圧治療強化群では増加していました。

吉村 
心不全にはレニン・アンジオテンシンに加えて,アルドステロンの関与も大きいと考えています。
バルサルタンがアルドステロン濃度を低下させることで,心不全予防によい影響を与えた可能性も考えられます。

<心不全関連サイト>
慢性心不全の病態と新しい治療戦略
http://www.m-junkanki.com/lectures/0407chf/Ex-chf1.htm
最近、すでに薬物(ACE阻害薬を含む)によって加療されている中等症以上の慢性心不全患者を対象にARBの上乗せ効果をみた大規模臨床試験が行われた(Val-HeFT)。約2年間の観察の結果、総死亡率では両群間で有意差は見られなかったが、総死亡率と心不全の悪化による入院を合わせた総合的評価で、偽薬群に比べて、ARB群(valsartan)で有意な減少(13.2%減少,p=0.009)が認められた。

ARB(valsartan)の効果が最も顕著であったのは、ACE阻害薬、β受容体遮断薬とも投与されていない患者であった。
ACE阻害薬(+)かつβ受容体遮断薬(-)群、逆のACE阻害薬(-)かつβ受容体遮断薬(+)群でもARB(valsartan)の上乗せ効果がある傾向がみられた。
逆に、ACE阻害薬とβ受容体遮断薬の両剤が投与されている患者では、有用性が認められなかった。
 
なぜACE阻害薬(+)、β受容体遮断薬(+)の患者群で、ARB(valsartan)の上乗せで良くない結果となったかの理由は明らかではない。
慢性心不全患者の治療において、異常に亢進した神経体液因子であっても、その多くを同時に強力に抑制することが返って良くない可能性がある。

心不全治療
http://www.gik.gr.jp/~skj/lecture/okamoto03.php3
ARBの微小血管に対する作用は、糖尿病性網膜症や悪性腫瘍では良い方向へ作動しますが、心筋症では悪化する方向に作動すると考えられます。
また、心筋梗塞後には血管新生が重要な自己による心筋障害の修復機序ですので、ARBの使用には注意が必要と考えられます。
しかし、ACE阻害薬とARBを併用するとこうした欠点が打ち消され、さらに改善が期待されます。
そこで、プラセボ・エナラプリル・エナラプリル+バルサルタンの3群で比較すると、予想通り、併用群では、収縮力も2倍半くらい増加し、左室拡張末期径が現象、線維化の程度も減少し、拡張機能も改善しました。
ですから、ACE阻害薬もARBも同じくレニン・アンジオテンシン系を抑制する薬剤ですが、両者には作用に差が認められ、
キマーゼ等を介するAⅡ産生系抑制にはARBが効果的、ブラジキニン、NOの作用を引き出し、微小血管構築保持にはACE阻害薬が効果的と両者にはそれぞれ利点があるので、併用がより有用ではないかと考えられます。

米国心不全学会(HFSA)実地ガイドライン
http://www.lifescience.jp/ebm/sa/2000/0008/index2_4.htm
勧告1.
ARBでなく,ACE阻害薬が依然として心不全におけるレニン-アンジオテンシン系を抑制するための第一選択薬であり,心不全症状の有無を問わず左室収縮機能障害を有する患者に対する基本的治療薬と考えられる(エビデンス力=A)。
勧告2.
左室機能障害による心不全患者にはACE阻害薬を使用するように最大限の努力をするべきである。
ACE阻害薬に対して明らかに忍容性のない患者に対しては,ヒドララジンと硝酸イソソルビド(Hyd-ISDN)の併用療法(エビデンス力=B)またはARB(エビデンス力=C)による治療を考慮する。

治療上の未解決の問題
(ACE阻害薬とARBの併用療法)
心不全患者においてACE阻害薬とARBを併用することの有用性に大きな関心が高まってきた。
初期の報告では,いずれの単独投与よりも併用療法でより強い血管拡張と,血圧低下が生じることが示された。
ACE阻害薬にロサルタンを併用した場合は,ACE阻害薬単独に比し,運動耐容能により大きな改善がみられた。

RESOLVD試験の予備データでは,併用療法によって心室の拡張と神経体液系の活性は著明に改善したが,他のエンドポイントには明確な変化がみられなかったことが報告された。
現在,複数の臨床試験で,レニン-アンジオテンシン系をさらに完全に遮断した場合の安全性と有効性が検討されている。
Val-HeFT試験は,ACE阻害薬とバサルタンの併用が収縮機能障害により心不全を来した患者の罹病率および死亡率に及ぼす影響を検討する大規模臨床試験である。
CHARM試験の目的の一つは,ACE阻害薬が投与されている症候性の収縮機能障害患者でカンデサルタンの併用効果を検討するものである。
RESOLVD試験の予備データでは,β遮断薬との併用療法のほうがさらに有効性が高いことが示された。
今後,Val-HeFTおよびCHARM試験でβ遮断薬の投与を受けた患者の結果から,この治療法に関するさらに詳細な情報が得られるであろう。

併用療法は,重症高血圧または他の血管収縮に対する治療法として理に適ったものではあるが,現在の段階では,ACE阻害薬単独療法より明らかに有効であるという証拠がないため,日常的な治療法としては推奨できない。
 
拡張性心不全とARB
http://www.midoriku.aichi.med.or.jp/29kenkyu254.html
DHF(拡張性心不全)治療に関するエビデンスの集積は未だ不十分であるが、少数例を対象とした研究においてアンジオテンシン受容体拮抗薬であるロサルタン、カンデサルタン投与が運動負荷時の高血圧反応の抑制、運動耐容能の改善、生活の質の向上をもたらすことが示されている。
また、カンデサルタンの心不全予後改善効果に関する大規模臨床試験CHARM研究において、同薬がDHF(この場合左室駆出率>40%)における「心血管死または心不全による入院」を抑制する強い傾向(P=0.051)を有し、「心不全による入院」を有意に減少させた(P=0.017)ことは、DHFの治療における有用な情報である。
これらのエビデンスを参考にするならば、DHF患者には十分な利尿薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が投薬されるべきであろう(すべての心不全に関する大規模臨床試験では十分量の利尿薬がほぼ全対象に投与されている)。
また、
DHFの素地となる高血圧の治療にも利尿薬、ARBが推奨されており、日常臨床において高血圧患者、心不全患者(SHF、DHFにかかわらず)に利尿薬、ARBを投薬することはエビデンスを踏まえたモダンな治療法と言える。

Medical Tribune 2008.3.6
版権 メデュカル・トリビューン社

 

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