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きょうは「心不全の発症メカニズム」というテーマを勉強しました。
メカニズムを解明することは、当然治療薬の開発にも結びつくことなのでこの分野の研究の進展に期待したいところです。
ご覧になられた先生も多いと思いますが、つい先日の新聞にも、国内での心臓移植の症例数が思ったほど増えていないという記事が紹介されていました。
心臓移植数(1980-2007)[欧米・日本]
http://www.medi-net.or.jp/tcnet/DATA/heart.html
(新聞記事ではありませんが)
千葉大学大学院医学研究院
循環病態医科学 東口治弘、小室一成
心不全の発症機序
虚血性心疾患、高血圧性心疾患、弁膜症や心筋旗など、あらゆる心疾患の最終像である心不全は、心筋の収縮と弛緩の障害により全身の各臓器に必要量の酸素が供給できない状態である。
米国では毎年50万人が新たに心不全と診断され、日本においても生活習慣の欧米化や高齢化に伴い、心不全患者は
確実に増加している。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬やβ遮断薬の導入により心不全の予後は改善したが、重症の心不全に対しては現在の薬物治療では限界がある。
重症の心不全に対する最も有効な治療法は心移植であるが、ドナーの絶対的な不足によりすべての患者がその恩恵に与れる治療法ではない。
今後新たな治療法の開発のためには心不全の病態解明は必須であると考えられる。
心肥大と心不全
心肥大は高血圧などにより増加した左室壁へのストレスを正常化し、左室機能を保持するための適応反応である。
しかし、圧負荷が持続すると適応反応は破綻し心機能は低下し、心不全へと進行する。
心肥大が心不全発症の独立した危険因子であることは周知の事実であるが、心肥大から心不全に至る機序については不明な点が多い。
最近、我々の研究室ではこの機序についての新しい知見を得たので紹介する(文献1)
弓部大動脈を縮窄し(TACモデル)、持続的な圧負荷モデルを作成した。
TAC作成後14日までは左室壁厚は次第に増加し心機能も保持された(代償期)が、TAC作成14日目以降はさらなる壁厚の増加を認めず、28日目には心機能は低下した(非代償期)(図1A)。

圧負荷により一つ一つの心筋細胞が肥大するため、肥大心では相対的な心筋虚血状態となる。
代償期には活性化されたhypoxia-inducible factor-1(HIF-1)が、血管新生因子であるvascular endothelial growth actor (VEGF) やangiopoietin-1を誘導し血管数を増加させ(図1B,1C)、心筋虚血を軽減した。
これが肥大心の代償期にみられる心機能保持の機序の一つであると考えられる(図1D)。
一方、非代償期にはHIF-1やVEGFは減少し血管数も減少した(図1B,C)。
非代償期にHIF-1-VEGFの活性化が低下する機序として、がん抑制遺伝子であるp53に注目した。
がんなどにおいては持続する低酸素によりp53が誘導されることが知られているが、肥大心においてもTAC後14日目以降p53は著明に増加した(図1C)。
培養心筋細胞を用いた実験でp53がHIF-lを分解することもわかった。
以上の結果より、持続する圧負荷により誘導されたp53が
HIF-1を分解し血管新生を障害するため、心筋細胞が持続的な虚血状態となり心機能が低下すると考えられた。
これが肥大心から心不全へ移行する一つの機序であると考えられる(図1D)。
拡張型心筋症
拡張型心筋症は予後不良の疾患であり、現在でも10年生存率は50%程度である。
日本でも1997年に「臓器移植に関する法律」が施行され、1999年から2005年までに27人に心臓移植が実施された。
しかし、日本では絶対的なドナー不足のため心臓移植の恩恵に与れる患者数は限られているといわざるを得ず、そのため拡張型心筋症の生命予後を改善する新たな治療法の確立が切望されている。
拡張型心筋症の原因として、感染、アルコール、自己免疫や薬剤が知られていたが、多くが原因不明の特発性のものであった。
しかし、近年分子生物学的手法の発達に伴い、特発性の原因の一部に遺伝子変異があることが明らかとなり、現在では拡張型心筋症の約30%は遺伝子変異によると考えられている。
これまでにアクチン、ミオシン、トロポニンやジストロフィンなどに遺伝子変異がみつかっているが、そのような遺伝子変異によりなぜ左室内腔が拡大し、収縮が低下するのかについては不明である。
遺伝子変異から拡張型心筋症の表現系(左室内腔の拡大や心収縮力の低下)に至る機序が明らかにならない理由の一つに、適切な拡張型心筋症モデルマウスが存在しなかったことがあげられる。
そこで、まず我々は拡張型心筋症モデルマウスを作成することとした。
ヒト拡張型心筋症の原因遺伝子変異としてすでに報告されている心筋型α-アクチン変異を用いた(文献2)。
この遺伝子変異を心臓特異的に過剰発現した遺伝子改変マウスを作成した。
遺伝子改変マウスでは約60%が1年以内に死亡した。
2ヵ月齢より左室内腔は次第に増加し、左室収縮力も次第に低下した(図2)。

ヒトと同じ遺伝子変異を持ち、かつヒト拡張型心筋症と非常に類似した表現系を示すこのモデルマウスは、ヒトの拡張型心筋症の発症機序を解明する上で非常に有用であると考える。
この拡張型心筋症モデルマウスでは野生型マウスと比較し、CaMKⅡδが活性化されていた。
CaMKⅡδの心筋特異的過剰発現マウスでは拡張型心筋
症様の表現系を示すことが報告されている(文献3,4)。
変異型アクチン遺伝子過剰発現マウスにCaMKⅡδの阻害薬であるKN-93を投与すると、心内腔の拡大と心収縮力の低下が改善した。
以上の結果より、遺伝子変異による拡張型心筋症発症にはCaMKⅡδが重要な役割を担っていると考えられ、今後この分子が拡張型心筋症の新たな治療ターゲットになる可能性が示唆された。
おわりに
本稿では我々が最近明らかにした心肥大から心不全へ至る機序と拡張型心筋症における遺伝子変異から心機能低下に至る機序に関して紹介した。
心不全の病態解明はいまだ十分とはいえず、今後新たな心不全治療法の開発には、さらなる心不全の病態解明が必須
であると考える。
出典 Medical View Point 2008.1.10
循環器研究最前線
オルガネラ発信のアポトーシス
―肥大心から不全心への進展における小胞体ストレスの役割―
http://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/126/6/126_385/_article/-char/ja
CHOPを介する小胞体ストレスシグナル活性化により心筋アポトーシスが誘導され,肥大心から不全心への進展に関与する可能性が示された.
(マウスのTACモデルで、不全心における小胞体ストレスの役割について検討した研究です)
低酸素応答によるHIF-1活性化調節機構
http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/molbiol/hypoxia/main.html
ハイポキシアで誘導されるタンパク質や酵素は多いのですがその例として、赤血球増殖因子であるエリスロポエチン(EPO)、血管内皮細胞増殖因子であるVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)やその受容体、血管に働くエンドセリン-1、プラスミノーゲンノ活性化因子阻害因子-1、誘導型一酸化窒素合成酵素、PDGF-B、鉄代謝に関与するトランスフェリンとその受容体、セルロプラスミン、ヘムオキシゲナーゼ-1、カテコールアミン生合成の律速段階を触媒するチロシン水酸化酵素、グルコースを細胞に輸入するグルコース輸送体GLUT1、解糖の酵素であるホスホフルクトキナーゼ、アルドラーゼA、エノラーゼなどがあります
細胞の「エネルギー工場」と癌の関連を解明(英国)
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/952/952-11.pdf
血管新生研究の歴史
http://www.lifescience.co.jp/cr/zadankai/0004/1.htm
血管内皮増殖因子VEGF の機能解析と
病的血管新生の解明
http://www.jsps.go.jp/j-rftf/projectpdf/l/00l01305.pdf
p53とは
http://www.mbl.co.jp/diagnostic/products/p53.html
p53は全長393アミノ酸からなり、N末端ドメイン、コアドメイン、C末端ドメインの3つの領域から構成されています。コアドメインはDNA結合に関与する領域で、がんに認められる変異のほとんどがこの領域に集中しています。様々な腫瘍で見られる抗p53抗体の抗原エピトープ部位はN末あるいはC末に存在する少数のペプチド配列のサブセットに限定されています。
抗p53抗体~魔法のがん検査ではありませんが
http://blogs.yahoo.co.jp/rijichonikki/38158159.html
筋ジストロフィーと糖鎖、ジストロフィン
http://www.rinshoken.or.jp/benefit/20040127.htm
<番外編 3音>
第3音は、拡張早期に心室が急速に血液で充たされるために生じた低周波性過剰心音である。このため1音と2音 のほかに、もう一つ心音が加わったことによる特有な三拍子を呈する(奔馬調 gallop rhythm)。
Relationship Between Accurate Auscultation of a Clinically Useful Third Heart Sound and Level of Experience
http://archinte.ama-assn.org/cgi/content/abstract/166/6/617?etoc
Background; Poor performance by physicians-in-training and interobserver variability between physicians have diminished clinicians' confidence in the value of the third heart sound (S3).
(3音も聴取は医師間に差がある)
Conclusions; The S3 auscultated by more experienced physicians demonstrated fair agreement with phonocardiographic findings. Although correlations were superior for phonocardiography, the associations between the S3 and abnormal markers of left ventricular function improved with each level of auscultator experience.
(医師の熟練度とともに聴取能力は上昇するが心音図にはかなわない)
3音と4音
http://www.nurs.or.jp/~academy/igaku/s1/s11153.htm
(シュミレーションした心音を聴取することができます)
研修医(1年次)向けEvidence?based?Medicine 講習会資料集
http://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/kenshu-gl/pdf/5/shiryo_11.pdf#search='3音%20%20心不全'
#呼吸困難を訴えて救急外来に来た患者で、心音で3音のギャロップリズムを聴取した場合(あるいは、頸動脈怒張を認めた場合)、心不全であると考えて良いか。また、聴取した医師が、研修医か、レジデントか、専門医かで信頼度は変わるか。(現在の研修医はここまでトレーニングしているかと思うと日本の医療の未来は明るいと思われます。ただし医療行政は最悪です。何とかならないものでしょうか。現場を知らない役人の暴走は誰にも止めれません。せめて彼らにm3を覗いて欲しいものです。)
他に
「井蛙内科/開業医診療録」
http://wellfrog.exblog.jp/
ふくろう医者の診察室
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
があります。
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