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ところで、告知ができやすくなった一番の理由は、「モデル」の存在です。
病名を告知したときに、患者さんが知りたいのは、
「治るのか」「治らないのか」
「治らないなら、どうすればよいのか」
「治らないなら、社会制度などはどうなっているのか」
「治らないから、将来、どうなっていくのか」
等です。
精神科の疾患は、長期間、じっくりと付き合って行かないと行けない場合が少なくありません。統合失調症であれば、長期にわたって投薬が必要な上に、本来の思考力や集中力などが低下することにより、今までと同じレベルの仕事や生活を維持することが難しくなる人も少なくありません。
そんな時、「社会・地域で生活しているモデル」があると言うのが重要です。
私が医者になった頃に、本人や家族から、具体的に病気の人は、どういう生活をしておられるんですか・・、と尋ねられても、多くの人は、長期に入院していたり、行き場所が余り無く家に引きこもっていたりと言うことが多く、なかなか、話をするのが難しかったですね。
それが、10数年くらい前から、
「統合失調症の人はどういう生活をしておられるんですか」
と、尋ねられても、
「作業所や病院のデイ・ケアに通っている人もいますよ」
「結婚して子育てをしている人もいますよ。保健所や市町村の保健師さんや病院のスタッフが相談にのってくれますよ」
「働いている人もいます。障害者職業センターを利用したり、ハローワークの特別援助部門を利用する人もいます」
「障害年金をもらいながら、働いている人もいます」・・・・・と、いろいろと具体的な話ができるようになりました。
一番手っ取り早いのは、作業所やデイ・ケアに行って、当事者に直接聞いてもらうのが良いです。
告知にとって重要なのは、その疾患や障害を持った人が、地域の中で元気に生活できる社会ができていくことですね。
精神科の告知が、これまで、充分にできて来なかった理由はいろいろありました。
精神科の場合は、必ずしも本人が積極的に受診されるとは限りません。自分自身は、病気であるという意識が無いまま、しぶしぶ家族などに連れて来られ受診される場合には、なかなか、統合失調症と説明すると、その病名を否定してそれ以降来院されないと言うこともあります。そのため、最初の段階で、統合失調症の診断名を伝えて無いと言う場合がありました。
一方で、こういうことはしない、診断をつけた以上は、告知するという医師もおられます。もっとも、これらの背景には、まだまだ、精神疾患に対する社会的な理解が十分に成されていないことによることがあります。
また、統合失調症の人の場合、必ずしも最初から統合失調症と診断がされるとは限らず、当初は、神経症やうつ病が疑われ、途中から、統合失調症に診断が変わる場合などには、充分に告知がされにくい時もあります。
これらの経過をふまえながらも、ここ数年は、統合失調症の告知が行われるようになってきました。
私が医者になった頃、統合失調症の多くの人は、病名告知(当時は、精神分裂病)を受けることは少なく、一方で、障害年金を受けるときなどに、自分の診断書を見て、「自分は精神分裂病だったのか」と知る人も少なくありませんでした。
しかし、ここ数年、統合失調症の方に、病名を告知することが多くなってきています。その理由の一つは、それまでの「精神分裂病」の病名が、「統合失調症」に変更されたと言うことです。やはり、「精神」が「分裂」と言う言葉は、より社会的な偏見を感じさせる部分があり、「統合失調症」という病名の方が、話す側の気持ちも、受ける側の気持ちも、随分とやりやすくなったような感じがあります。
※平成14年8月に開催された日本精神神経学会総会で「精神分裂病」の病名は正式に「統合失調症」に変更されました。
しかし、ふりかえってみると、「統合失調症」に変更される、すでに数年前から、直接、病名告知(当時は、「精神分裂病」)が行われるようになってきています。
このあたり、埼玉県の「やどかりの里」や北海道の「べてるの家」は、その先駆的な活動を見せてくれています。
10年ほど前に、私の県内の小規模作業所(精神障害)に通う通所者を対象に、やどかりの里のメンバーと、県内の作業所に通うメンバー数名がパネラーになって、病気や生活のことについてのシンポジウム(研修会)を開いたことがあります。参加者は、ほとんどが通所者約100名、その時、やどかりの里のメンバーが、「私は、皆さんと同じ、精神分裂病です!」と会場に訴えても、さほど、会場の通所者も驚くことなく、賑やかなパネルディスカッションになったことがあります。
この頃から、当事者や家族向けの統合失調症に関する本が多く出版されるようになり、当事者や家族自身も、病気に対して勉強できる機会が増えてきました。
医療現場における告知には、様々な問題があります。精神科でも、統合失調症の告知から、最近では、アスペルガー症候群について、本人や家族への告知をどうするかという課題があります。
昨今の社会情勢の中で、分かって言いながら告知をしなかったとなると、あとあと、社会責任を問われることもあり、仮に、本人の(精神科であれば)治療上の問題や病状悪化の恐れがあるなどの理由で告知をしなかった場合であっても、その旨、きちっと診療録に記載されていないと、問題となることも考えられます。
そのような状況が、告知の問題を進めていると言うことも有りますが、それ以外にも、告知には、いろいろな問題があります。
ちょっと、この連休の間に、告知の問題&アスペルガー症候群の告知をどうしているかを、書いてみたいと思います。
ところで、私が医者になった20数年前は、統合失調症だけでなく、うつ病すら、社会的認知を受けていませんでした。そのため、会社を休むなどの診断書を書くとき、今であれば、それ程迷うことなく、「うつ病」「抑うつ状態」と書いたりしますが、当時は、
「心身症」 「神経衰弱」 「心因反応」 「自律神経失調症」
と言う、正解では無いが、間違いでは無いと言うような、病名をよく書いていました。仮に、「うつ病」とか書いて、それを理由に会社を辞めされたれたなどと言われると、大事ですからね。
では、本人に対する告知はどうなっているのでしょう。当時から、うつ病の場合は、本人にも家族にもうつ病ですと告知はしていましたが、統合失調症(当時は、精神分裂病)の場合は、あまり本人への告知をすることは少なかったと思います。