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おばあちゃんでなくてお母ちゃん
一年ぶりで小さな男の子を連れたあるご婦人に会いました。一年前にお孫さんのことで相談を受けたご婦人です。一年以上前、息子さんのお嫁さんが交通事故で死亡して、幼稚園に通う男の子が残されました。それ以後ご婦人は母親代わりに家事洗濯、男の子の面倒を見続けてきていました。
けれど男の子は何か少しでも嫌なことがあるとすぐに「おかあちゃ~ん」と言って泣き出しました。幼稚園ではよく喧嘩をして、母親代わりにご婦人は呼び出されて困っていました。男の子はご婦人の靴や身の回りのものを隠したりしたことがあり、ご婦人は男の子を育てる自信をなくしていました。どうにかして男の子を育てられないか相談しに来院されました。
相談を受けた私は、ご婦人にご自分の一生を犠牲にしても祖母を止めて母親になりきれるかどうかを尋ねました。するとご婦人は自分の命を掛けてでもこの男の子を守り育てたいと答えました。そこで私がご婦人に御願いしたことは、ご自分の実の息子を育てるときのことを思い出して、男の子の母親になりきって欲しいと言うことでした。男の子と生活しているときには、自分のことを「おばあちゃん」と呼ばないで「母さん」と呼ぶようにしなさいと言うことでした。男の子にもご婦人のことを呼ぶときには「おばあちゃん」と呼ばせないで、「母ちゃん」と呼ばせるようにしなさいと言うことでした。
それから一年たって男の子とそのご婦人に再会したときには、二人はどこから見ても親子でした。ご婦人が高齢になって生まれた子供を育てている姿でした。男の子はご婦人を母親として信頼しきっていました。ご婦人は、男の子が自分を祖母でなく、母親と認識したとき本当に良い関係に変わって、それまでの子育ての問題点が殆ど全て無くなったと言いました。
社会性を学ぶ機会
核家族化、少子化、地域社会の崩壊等から、異年齢の子どもと交わる機会も減り、集団で遊ぶ体験すら乏しくなった現代の子ども達は「社会性を学ぶ機会が少なくなった」と主張する人があります。確かに学校や塾に縛られている子ども達は社会性を学ぶ機会が少ないです。しかし不登校の子ども達は親から不登校が認められて、家の中でエネルギーを十分に貯めたら、不登校の子ども達は学校に戻る前に社会のいろいろな組織や催し物に自分の意志で参加して、そこにいる大人達と上手に交われるようになります。大人社会の中で生きるすべを学んでいきます。強く生きる生き方を学んでいきます。大人社会で必要な社会性、ソーシャルスキルを身につけます。
同年齢の子どもの集団(学校や塾、習い事を含めて)だけに加わっている子ども達は同年齢の子どもの集団の中での生き方を経験していきます。子ども同士の間のソーシャルスキルを学習します。それは決して子どもが大人社会の中に出ていって役立つ経験ではありません。今から50年以上前の子どもの集団と違って、現在の子ども集団の中にあるものは競争であり、競争に勝つことが優先されています。その結果としていじめる子ども、いじめられる子どもが出てきます。現在の子ども集団は、例外もあるでしょうが、多くの場合昔のように自然を相手に子ども達なりに子ども同士が助け合い協力し合って、楽しみ成長していく子ども社会でないです。
現在の子ども社会は大人に支配された集団であり、そこには子どもらしさを発揮する余地は殆どありません。子どもらしさと指摘されているといわれている場合でも、多くの場合関係する大人が指示して与えていて、子ども独自のものではないです。子ども達は大人に支配された集団で楽しそうに過ごしていても、心の奥底では葛藤状態にあります。その結果弱い立場にある子どもをいじめることになります。強い立場にある子どもに対してすら、いじめる側の子ども達は集団を組んでいじめをしてしまいます。
現実の子ども社会を利用して伸びていく子どもは、子ども社会を利用して伸びて行けばよいです。その場合も決して社会性を学んだわけではないです。子ども同士の競争に勝った子どもというだけです。社会性を学んでいないばかりか、他の子どもをけ落とす方法しか学んでいませんから、自分が競争に負けたときにはその挫折感はとても大きいです。心に大きな傷を受けてしまいます。競争に勝ち続けてきた子どもが他の子どもにけ落とされたときには、け落とされたときの回復法を知りませんから、自分の力で窮地から抜け出すことができません。心の傷の疼きに一生苦しむことになります。
現在の子ども社会で心の傷を受けてその子どもの将来を失うぐらいなら、早めに子ども社会から逃げ出したほうが良いです。子ども社会での経験がないか少ない状態でも、十分に子どもは成長できます。その子どもなりに十分のエネルギーを持って大人社会と関わることで、大人になったときに必要な社会性を十分に得られます。それは子ども社会の中で生活していては決して得られないものです。子ども社会の経験を省略しても、子どもは十分に成長して大人になり社会に出て行けます。