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iPS細胞狂騒曲(?)

よね様 / 2008.01.24 11:33 / 推薦数 : 4

今年初めての投稿です。
たまにおいでになる方、済みません!!

さて、本日はちまたを賑わしている誘導型万能細胞(iPS細胞)について、私見を記しておきます。

この細胞、2006年にマウスでの成功以来、私も大変注目しておりましたが、昨年暮れのヒトでの成功で、一気に火が付きました。
私はマウスとヒトでは、初期化のメカニズムはかなり違うだろうと思っていましたが、同様の方法での成功はむしろびっくりです。
私と同世代でもある山中先生には慎んで敬意の念を表しますと共に、我が国のリーダーとして、そして同世代のヒーローとして、益々研究の成功をお祈りしています。

さて既に報道がなされているように、ES細胞における倫理的問題がクリアーされることは極めて大切であり、この細胞がそのブレークスルーになることは論を待ちません。
しかも我が国としては異例でありますが、文科省がこの研究の体制整備のために即座に反応し、巨額の研究費を付けたことは注目に値します。

私も他の研究者と同様、この細胞に関する海外(特にアメリカ)との熾烈な開発競争において日本が勝利することを祈って止まないのですが、冷静に考えると、こと「実用化(臨床応用)」については、このままの状態では基礎研究で勝利しても実用化では後塵を拝する結果になるのは目に見えています。従って、今の時点において周到な準備が必要です。

先に3つの重要なポイントを記しておきます。
1.iPSの実用化研究は、我が国の規制上は再生医療に加えて遺伝子治療であること。
2.iPSの臨床応用の規制当局は、文科省ではなく厚労省(+環境省)であること。
3.開発するべき企業が、基本的に新しい技術に対して及び腰であること。
以下に、その重要なポイントを解説します。

これは敬愛する森下先生が既にブログで解説していらっしゃいますが、ベクターを用いて細胞の遺伝子を改変し、その細胞を生体に戻すことは、我が国の規制上は遺伝子治療になります。実際、iPS細胞はベクターを用いて4つの遺伝子を導入し体細胞を初期化する訳ですから、これは遺伝子治療です。

第一に、遺伝子治療に関する規制として、我が国では厚生科学審議会での審議に加え、カルタヘナ議定書に基づく生物多様性評価(環境省の管轄)の審議が必要です。

現在の遺伝子治療臨床研究の審議では、外国で既に実施されているものと同様のプロトコールであれば比較的早く審議される場合がありますが、世界で初めての計画の場合、これまでの厚労省の実績では2〜4年ほど掛かります(理由は・・・、よく判りません!)。しかも省庁での審議の前に、各医療機関IRB(倫理委員会)での審議が必要です。従って、計画書を提出しても、審議だけで平気で3〜5年経過しなければ、実際に患者さんへ還元できないのです。その間、研究者は厚労省からの質疑に対応し続けることが要求されます。

アメリカはカルタヘナ議定書を批准していませんので、生物多様性評価の議論がありません。またアメリカでも審議プロセスは同様なのですが、IRB-RAC/NIH-FDAの流れは、遺伝子治療でも1年〜1年半です。
私がいた英国では、基本的に半年。

従って、まずスピードで負けることになります。

第二に、日本の薬事法の問題があります。
これはポイント3に関わってくることですが、企業が治験として計画しない限り、臨床研究〜先進医療(あるいは自由診療)などの枠組みでやらなければなりませんが、その場合は実施する各医療機関が、たいそうお金が掛かる「カルタヘナ関連法」に準じた「細胞プロセシングシステム」をそれぞれ独自に準備しなければなりません。
これは薬事法の縛りによるものです(例外は外国で生産し、輸入すること。この場合は「輸入薬」扱いになるので、薬事法の縛りは受けない)。

ところがアメリカは遺伝子治療の時に、既に面白い試みを実施した経験があります。
まず米国内に政府主導でナショナルベクターコアファシリティーを数カ所(確か3箇所程度だったと記憶しています)作り、国内医療機関が依頼することで目的のベクターを生産してもらい、これを臨床研究に使用しました。この気軽さのためアメリカでは爆発的に臨床研究が進んだことが周知の通りです。
従って、米国が今後どう動くか判りませんが、先導する企業が現れるか、あるいは「ナショナルiPS細胞コアファシリティー」のようなものが出来るかもしれません。

一方で、日本は薬事法の縛りのために、ベクター生産を行うGMP施設が複数出来たにも関わらず、多施設へのサプライは出来ず、結果として開店休業になっているファシリティーが多いのです。


以上が、iPS細胞を実用化しようとした際の問題点であり、どう考えても現行システムではアメリカに勝てそうにありません。

従ってこれを解決するには、
1)審議プロセスを大幅にショートカットできる新しい規制をiPSのみを対象に創設する。あるいは、遺伝子治療の規制ごと刷新する。
2)薬事法を改正する。
3)iPSならびにそれから誘導される治療用細胞のGMP生産施設を、政府主導で作る。これには薬事法を適応しないようにする。
などの措置が必要でしょう。

そしてこれらは研究者側の問題ではなく、文科省・厚労省、そして政府の問題です。決して山中教授に無駄な負担をさせるべきではなく、立法・行政レベルで対応するべきです。

世界と闘えるだけのポテンシャルを持つ技術を手にし、初めて日本の底力が試されます。
山中教授の言う「オールジャパン体制」とは、研究者だけでなく、立法・行政・企業で進むべきでしょう。

山中教授の素晴らしい研究をきっかけに、日本のリジッドな規制システムが大きく改善されることを祈って止みません。

では、また!
今年も宜しくお願いします。

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