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さて、ここまで議論してきました「エビデンス」。
では日本ではどのように運用されているのか・・・。
日本では、「ルール作りのため」、「ガイドライン作りのため」、「医療標準化のため」、「適正使用のため」・・・。などという美辞麗句は並びますが、少し意地の悪い言い方をすると、「医療のパターン化」な訳です。つまり、多少のあんぽんたんな医者でも「エビデンス」に基づく医療をやれば、大ざっぱには「外していない」医療行為ができること、また最大公約数の医師からは、「まあこんなもんだろう」という同意を取り付けやすい訳です。つまりこの日本においては、「結果が悪くても言い逃れを可能にする」ことを目的にしたシステムになってしまっているのです。
この意味から、エビデンスは、確かにリスクマネージの点から優れていると言えます。
しかし私のように少し古い時代の医学・医療を学んだ者にとって、もともと60%の患者しか対応できない(その2を参照)エビデンスの絶対視は、大いに「?(クエスチョン)」になります。
何故なら、一医師自己完結型で自らを律してきた、専門家を自負する私たちの感覚からは、「60%? そんなもん、別にスペシャリストであるプロの専門医がやんなくってもいいんじゃないの?? プロなら限りなく100%に近いレベルを目指すんじゃない?」となってしまうからです。
これが、Atsullow先生がおっしゃる「エビデンスより常識が大事なの!」という雄叫び(?・・・Atsullow先生、ごめんなさい!!)につながる訳です。
私は、現在の日本におけるエビデンスの運用(ハッキリ言うと「誤用」)は明らかに間違いであり、このまま間違った使用がなされると、今後少なくとも以下の3つの弊害が出てくると思っています。いや、これはかなりのレベルの確信です。
1)思考放棄の医者の大量生産
日本式EBM(これに基づくガイドライン作成)ではパターン化が主眼ですから、個々の症例の病態を素早く分析する習慣を付ける前に、パターンで処理する医者が増えてくるでしょう。これは以下の3)にも関係しますが、色々と試行錯誤の上、良かれと思ってエビデンス(日本では、=ガイドライン)を逸脱してやった診療行為が不成功に終わった場合、これが糾弾の対象になることは明らかです。従って、私が今の若い世代の医者であれば、「面倒なことはせずに、取りあえず一般的なことをやっとくか・・・」となるのは間違いありません。
医者はどんどん機械的になるでしょう。
2)新しい医療創成の足かせ
本来の意味で言うところのエビデンスは、あくまでのその時点でも医療技術・薬剤、また疾患の病態への理解をベースにしたものであり、決して完成品ではありません。しかし日本人はこれをア・プリオリに「エビデンス=ルール=ガイドライン=規則=法律、そして=憲法!」という硬直化した運用しか出来ないため、完全にマゾ化(?)してしまっています。
例えば「Aという癌にBという化学療法を実施すると、5年生存率は40%」というエビデンスに基づき、「Aという癌にはBという化学療法がファーストチョイス」というガイドラインが作成されます。もちろん「5年生存率は40%」は満足出来る数字ではないので、チャレンジ精神の旺盛な医師が、「これを70%にしたい!」という気持ちから、バツグンに効きそうな新しい免疫療法を開発するとします。抗がん剤は多くの場合患者の免疫能を落とすので、Bという化学療法抜きで新しい免疫療法の臨床試験を組む、ということになると、まず現在の日本の倫理委員会(IRB)は許さないでしょう。彼らの言い分は、「動物実験でいかに良いデータが出ていても、人では判らない。既に40%の効果があることにエビデンスのある治療法を止めてまで、臨床試験を行ってはならない。」ということになります。例えどんなに患者が希望していても関係ありません。
つまり不思議なことに、我が国におけるこのような議論では肝心の「患者の意見と希望」は全く不在です。治験大国であるアメリカを含め、私がいたイギリスでも、このようなIRBの横暴は聞いたことがありません。重要なことは、患者の希望と知り得る限りの予想される効果と危険性について正確な情報を与えた上で、患者と医師が納得して同意を得るインフォームド・コンセントです。これさえうまく言っているのであれば、欧米では例え実験的医療だとしても、IRBが「患者の意見と希望」を無視することは、少なくとも私の知る限りありません。仮にこれでトラブルが起こったとしても、それは薬剤治験では患者と製薬会社、臨床研究では患者と医師が「民事で」争うのが普通(原則)だと認識しています。
3)裁判において個々の医者を糾弾する根拠
これが最も深刻です。ガイドライン通り・型どおりのことをやってうまく行かなければ、エビデンスは良い言い訳になりますが、医師が十分に症例の病態を考察して、「よかれ」と思って逸脱してしまった診療行為が不成功になった場合、エビデンスを根拠にその医師が糾弾されることは間違いありません。裁判で参考人として呼ばれた別の医師が、「そのような治療法がよいとするエビデンスはありません」、なーんて言い出すことは、今後想定しておくべきです。
以上、色々と述べましたが、私の見解は、エビデンスが悪いのではなく、我が国におけるエビデンスの「使い方」が悪いのだ、ということです。
但し皮肉なことですが、これはどうも日本人の「Mっ気」のある特性に関係があるのかもしれません。
まだまだ続く!!
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コメント
コメント一覧
と同時に、かなり、“我が意を得たり”の部分があり、
うれしくなりました。
決して、EBMを無視するわけではありませんが...
私も、EBMに縛られた医者が多すぎると感じています。
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