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< 網膜色素変性ってどんな病気?(1) | メイン | 日本人科学者の病い〜ヒトES細胞の議論 >
(つづき)
この「網膜色素変性」、医者でも眼科医でなければ、余り馴染みがない疾患だと思う(かく言う私も、以前はよく知らなかった)。
この疾患は周辺から徐々に視野が失われていく。概ね40〜50歳で日常生活に支障を来すレベルにゆっくりと進行するが、もっと早く進む場合もある。
原因は遺伝性であり、ある種の統計では3000-5000名に一人が罹患するという。遺伝性疾患としては相当に頻度が高い。厚生労働省が「難治性疾患」に指定しているかなりやっかいな病気である。
現在のところ、色々と試みられているものの、治療は全くなし。生活指導をしながら、対処療法をしていくしかない。真綿で絞められていくように次第に視力を失っていく不安におびえている患者さんの心を考えると、本当に胸が痛くなる。
そこで「何とかしなければ!」と立ち上がる眼科医が出てきた。現鹿児島大学教授の坂本泰二先生、坂本先生の母教室の九大眼科教授石橋達朗先生、そしてその教室の池田康博先生、宮崎勝徳先生らである。
坂本先生は九大在任中、まず網膜色素変性専門外来を立ち上げ、患者さんの訴えを聞きつつ、臨床的なデータを蓄積することを始めた。現在、坂本先生が鹿児島大学へ赴任されたため池田先生・宮崎先生が後を継いでいるが、既に150名余りの患者さんがこの専門外来に定期的に通院しており、膨大な臨床データがデータベース化されている。
http://www.eye.med.kyushu-u.ac.jp/foreign.html
この病気は遺伝性疾患であることから、根本治療を考えるならば遺伝子治療しかない。しかしやっかいなことに、この病気の原因となる遺伝子は一つではなく、これまでの報告を合わせると40遺伝子以上ある。しかもこれらで説明できる網膜色素変性はまだ10%程度しかない。従って、一つ一つの遺伝子を相手にしていては、とてもではないがこちらの準備が間に合わない上に、90%は全く治療できないことになる。
そこで、まだ池田先生が大学院生の頃、私と作戦を練った。それが神経保護遺伝子(ここではPEDFという遺伝子)による遺伝子治療だ。この病気は40〜50歳から生活に支障が出てくるので、比較的早い時期に神経保護を始め、進行スピードを2倍以上遅くすることができれば、患者さんが生きている間は失明しなくて済む。つまり実を取る作戦に出たわけだ。
この治療では、世界で初めてサル由来レンチウイルスベクターというものを眼科疾患へ使うということもあり、以後、何度も何度も動物実験を繰り返し、また長期(既に2年経過)にわたる安全性試験を行い、「これはいける!」と確信を得た上で、臨床研究の実施申請を九大倫理委員会に出した。現在遺伝子治療の専門委員会で慎重な審議をして頂いており、遅くとも夏前には判断を頂けるのではないかと期待している。既に半年は過ぎているので、最終的には1年近く掛かるかもしれない。
しかしこれはまだ一里塚であり、その後は厚生科学審議会での審議が待っている。欧米では1年程度を見込めばよいが、日本では2〜3年は覚悟しなければならないだろう。
この研究プロジェクトでは、ベクターのGMP生産(ヒトに投与する遺伝子医薬品および試験薬の純度の基準に従った生産)と安全性試験が必要だが、これにはとにかくお金が掛かる。
ということで、今回厚生労働科学研究費を申請したのだが、結果は残念ながら不採択。
金策に時間が掛かるかもしれないので、ややスピードが落ちる可能性もあるが、期待を込めて待っている患者さんがいると思うと、我々もめげてもいられない。
網膜色素変性は難治性疾患なので、ちゃんと申請すれば医療費は無料になるが、「申請には色々と条件があり、治療法もないのに病院に行くことを要求され、さらに病院で無料にしてもらうためには、以前と比較して現在では非常に面倒な書類を沢山必要とします。従って、九大の再来でフォローしている網膜色素変性の患者さんの中で、実際に難治性疾患の手続きをなさっている方は半分くらいでしょうか。」、というのは、九大眼科の池田先生の談。
医療費抑制政策の波は、こんなところにも押し寄せていた。
私は政策についてうんぬんする立場の人間ではないが、もう少し「やさしい医療」をできる社会にはならないのか。
今回、研究費不採択に際し、私が何となく思ったことです。
ではまた。
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