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休みの日に職場で仕事をして夜十時に帰宅すると、今夜のニュースはタミフル一色。緊急安全性情報により、10代のインフルエンザ患者へのタミフル投与が原則的に禁止された。
私は元外科医だが今は研究で大学にいるため、医療現場へはほとんど出ることもないが、現場の先生たちは、さぞ困惑しているだろう。
異常行動なる現象で子どもを亡くされた方、また子どもがケガを負ったという方に、まずはおくやみを申し上げたい。
一方で我々は科学者・医学者なのであるから、科学的な観点から、今回のタミフル騒動について一定の考えを持っておく必要がある。
今日は今回の件を報道するマスコミについて、私なりの考えを・・・。
ニュースを見ている限り、マスコミの論調は、あたかも「薬害」のような言い方。従って「またか・・・」というのが率直な印象。イレッサの時も同様であるが、日本のマスコミは医療が「リスク・ベネフィット」であるということを、理解していない。従って、それを国民に理解させようともしない。つまり医療行為を行えば、必ず一定頻度で副作用・合併症で苦しむ患者さんがいるということを国民に伝えることができない。手術をすれば合併症が一定頻度で発生する。キレのよい薬であればあるほど、副作用も一定頻度で間違いなく起こるのだ。薬は水や小麦粉ではないのだ(もっとも、小麦粉はアレルギーの原因にもなるが・・・)。
このようなマスコミにより、国民はミスリードされる。「手術の名医」として紹介するとき、その名医がやった手術で発生した合併症の数と質を明確にしようともしない。薬もまた同様であり、副作用へスポットを当てるのであれば、また同時にその薬がこれまで人類へ貢献してきた治療成績についても、スポットを当てるべきなのである。
このような非科学的なマスコミにミスリードされた国民は、あたかも薬は「コンビニで手に入る手軽さで、しかも余り高くなく、飲めば病気は消えて無くなり、一切副作用はなし!」などと勝手に暗黙の内に思いこんでしまうのだ。
一度欧米に住んで頂くと理解出来ると思うが、欧米では患者さんは本、インターネット、口コミなどによりあらゆる情報を集め、少しでも自分に合った治療をやってくれる病院を見つけ、その病院近くのホテルに滞在し、例え治験であってもその危険性を充分に医師や医療スタッフから説明を受けて、そしてようやく治療が開始される。しかも通常の医療行為の場合は高額である。自分の命は自分でまもる。これが徹底している。即ち、患者自らが人格として成熟しており、決して他人のせいにはしない。欧米で訴訟が多いのは、不満たらたらという訳ではなく、「私が受けた説明内容と現実に起きたことが違う」ことに対して訴訟をするのだ。しかも医療訴訟は刑事ではなく原則民事裁判であり、これにも多額の費用が掛かる。
なんちゃって外科医であった私も10年くらい前まで救急の現場によく出入りしていた。もちろん、命に関わる重大な外傷などを手早く処置し、患者さんをrescue出来た時、そしてご本人やご家族に感謝された時には、「医者になって本当によかった」と思えた。しかしこれは実に数十例に1例程度であり、多くの場合は、救急病院をコンビニとして見ている患者さんが多く、全くもって閉口する場合が多かった。真夜中に他の患者さんへ救急蘇生している最中でも、「オレは熱があるんだ! ここは救急病院じゃないのか?なんで待たせるんだ!!訴えてやるぞ(刑事裁判ならお金もかかんないぞ)!」など平気でクレームを付ける輩が多い。一体、救急病院をなんだと思ってやがるんだ?と、はらわたが煮えくりかえる思いを何度もしたことを覚えている。
要するに、この国では、医療・病院はコンビニと思われているのだ。
「良くなって当たり前。お金は払いたくないし、待つのもイヤだ。24時間最高レベルの医療が格安料金で提供されるべき。薬の副作用なんてあってはならない。何か起こしやがったら、訴えてやる!医者も製薬会社もだ!そうしたらお前は罪人だ(なぜか、日本の医療訴訟は刑事裁判が多い)!オレは金を払ってるんだ(格安だけどね)!」
これが今日、医療現場で医師が直面している無茶苦茶な横暴である。
もう20年ほど前になるが、研修医の時におばあちゃんの患者さんに、「こんなにしっかりお医者さんに見て頂いたのは初めてです。本当にありがとうございました。」と、まるで仏様にするように手を合わせてくれた方がいた。当時はもちろんぺーぺーであり、そんなことを言って頂ける技量も持ち合わせていなかったのであるが、「お医者さんにしっかり見て頂いて、ありがたい」という気持ちが暖かく伝わってきた。
「ありがたい」と想う気持ち。今の日本人は忘れていないか?
これこそ「美しい国〜日本」の原点ではないか?
タミフルは効く。これは私も自分の身体で確認しているので間違いない。まず異常行動を起こす可能性が高い集団(10代)への投与は当面の間原則禁止。それはそれでよい。ではタミフルの恩恵への影響を最小限にして、どのような方策を取れば異常行動の発生確率を最小限に出来るか? もし異常行動が起こることが懸念される場合はどうしたらよいか? それをちゃんと複数の専門家へ意見を聴いてみたら?
お上(厚生労働省)が指示を出さなければ「何やってんだ!」、出したら「遅い!」、急いで夜中に会見したら「何故慌てて夜中に?」、なんてどうでもいい議論でしょう?責任を誰かに転嫁したい!という意図が見え見えであり、不満を厚生労働省へぶつけているだけ。
こんな時には、イラクで殺害された被害者へ向かって「自己責任だ!」とした、威勢のよい発言は全く見られない。
作用と副作用について説明を受けた上で薬を飲むことは、自己責任ではないのか?
あなたには、医師に勧められた薬を飲む/飲まないを、誰にも束縛されない自由な自らの意思で決定できる権利があることを知っていますか?
今日のオレ様な一言:
このような一貫性のないマスコミにミスリードされ、「成熟できない市民」の状態で置かれていることに、日本国民は早く気がつかなければならない!
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コメント
コメント一覧
「作用と副作用について説明を受けた上で薬を飲むことは自己決定ではないのか」とのご意見もごもっともですが、いくら説明しても理解力・判断力の乏しい患者や保護者が多いのも確かです。早く先生の言われるように「成熟した市民」になって頂きたいですね。
「医師に勧められる薬を飲む、飲まないを誰にも束縛されない自由な自分の意思で決定できる権利がある」というのも常識的には私もそう思うのですが、最高裁判例などで「患者が一度や二度、検査や治療を拒否したからといって、担当医はその検査や治療が患者の病気にとって必要ならば何度でも説明し、検査や治療を行う必要がある。しかるに本件では担当医がそれを怠り・・・・・結果的に死期を早めたものであり、期待権の侵害と言わざるを得ない」というのもあります。精神病で、病識がなく現実検討能力欠如している人には、医師は強制的に抗精神病薬などを服薬させたりする治療義務があり、患者の自己決定権はかなり制限されますね。
失礼な発言でしたがお許しを。
最高裁判例をご参照になっていますが、ご指摘の通り、この判決が今の日本の幼稚さを端的に現しているものだと思います。
医療はすべからく患者vs医師の契約関係においてのみ成り立つのが原則であり、双方が充分に納得した上で実施するべき性質のものです。説明しても拒否する患者を無理矢理説得してまで治療を受けさせるなどと言うこと、そしてこれを最高裁が判例に入れるなどということは、余りにも患者の主体性を無視したものです。私はこのような例を聞いた患者は何故怒らないのだろう、こんな馬鹿にしたことはないのに、と思ってしまいます。
医者の立場にある私がこのようなことを申し上げると不遜に思われるかもしれませんが、あえて誤解を恐れずに患者サイドへの心構えを記しておきます。
「患者サイドとしては、マスコミの偏った、かつかなり恣意的な報道に惑わされるのではなく、自分でしっかりと情報を集めて、よく勉強して頂きたい。自分の命に関することですから真剣に。この時代は情報が溢れていますから、色々なルートから正確な情報を得ることが出来ます。またセカンドオピニオンはしっかりと受けること。これに難色を示す医師に命を預ける価値は無し。欧米ではそれが当たり前のことです。そして何よりも、自分の命は自分で護るという気概を持って頂きたい。これからは成熟した社会の一員として、医師との間に信頼と契約を結んだ上で、納得の行く治療を受けて頂きたい。」
私の声はどこまで届くのでしょうか・・・。でもこれからも叫び続けます!
今、医師叩きがはやってますが。
患者が死んだら、医者が悪いって事にして、医師叩きをするのも同じ構図なのかもしれませんね。
薬には作用と副作用の両方があるって事も、医療ミスと合併症の違いもわからないんでしょうけど、マスコミの人達は。
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