日本の説話史上、異形の怪物は数多いが「鵺(ぬえ)」は、その代表格だろう。頭は猿、体は狸(たぬき)、尾は蛇、手足は虎という。その怪異さを想像するだけで、頭がこんがらかる。不気味な夜鳴きで、人々をおびえさせた
▼平家物語や謡曲などが描く弓の名手源三位頼政(げんざんみよりまさ)による「鵺退治」は、英雄譚(たん)として名高い。ギリシャ神話に登場する獅子や山羊(やぎ)、蛇が合体した怪物キメラも、鵺の仲間だろう。洋の東西を問わず、神話世界には異種生命が合体した不気味な異端の生き物が棲(す)んでいる
▼医師と暴力団組員が結託して養子縁組を装い、不法な臓器移植をたくらむとは。そのおどろおどろしさは、神話の怪物を超えている。東京のクリニック院長とその妻、暴力団員らが、臓器移植法違反などの疑いで逮捕された
▼院長は重い腎臓病を抱えていたという。「自分の病を治したい」という気持ちは、医師であろうとなかろうと変わらない。しかし、臓器移植には厳格な規則と倫理が求められることを医師である院長本人は熟知していたはずだ
▼健康な体にメスを入れ、二つある腎臓のうち一つを取り出して移植する生体腎移植は「親族を何としても救いたい」という臓器提供者の切実で、崇高な愛に応えるためにある。医療に携わる者が、それを踏みにじった
臓器移植医療が進む中で、あってはならないことのひとつがおきてしまいました。
以前から、国内外、特に開発途上国も含めて不足している移植臓器の「確保」をめぐり、黒いうわさが絶えません。
「移植臓器の売」が公然と行われている社会のあることも指摘されていました。
そうしたことがたとえ一部分にせよ行われているとしたら、移植医療そのもの発展が大きく立ち遅れることになりかねません。
再生医療など、移植医療とともにこれから大きく前進するであろう21世紀の医学を支えることのひとつに「医療・医学倫理」があることは言うまでもありません。
これを蔑ろにされていては、医療そのものが成り立ちません。
今回の事件は、その中でも大切な位置にある医師そのものが、自己の健康のために犯罪に手を染めたことに、深刻さが内包されているのです。
一方で、「経済優先」がもてはやされている今日、医療をめぐり、利益追求のために、隙あらば「医療」の内外にもぐりこもうとする集団が出てくることは否めません。
しかも、法律の網をくぐりながらです。場合により、ドナー審査の厳密化が必要になるかもしれません。
こうしたことを十分理解しながら、日々の医療の実践に向かいたいものです。
医療関係者自身も自己研鑽と努力が求められているのではないでしょうか。 ・
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