美しく悪魔的な記憶
(2009年11月27日 読売新聞)
戦争についての映画を撮るために、兵士にインタビューする。彼らの証言で戦場の様子を再現した映画は、真に迫っているかもしれないが、あくまで、記憶の再現にとどまる。ドキュメンタリーのようだが、戦争そのものの記録ではない。アリ・フォルマン監督は、アニメーションの手法を導入することで、そうした記憶の問題に迫った。
本作の主人公は、1982年のレバノン侵攻に従軍した映画監督のアリ。彼には、戦争の記憶がない。唯一、脳裏によみがえってきたのは、照明弾が光る夜、ベイルートの海に全裸で漂っているイメージだけだ。アリは、記憶を求めて戦友を訪ねる。
アリは、フォルマン監督自身の姿である。イスラエル人のフォルマン監督が、従軍の記憶を失い、実際に戦友たちをスタジオに呼んでインタビューした。その記録映像をアニメーション化し、証言に基づく戦場のイメージを加えて完成させたのだ。
元兵士たちが語る記憶は複雑多様だ。すさんだ兵士の心を包み込むかのように、水中から現れる巨大な裸の女、ワルツを踊るかのように機関銃を乱射する兵士。彼らの恐怖や不安と結びついた記憶は、夢のように美しく悪魔的だ。いかにも、アニメーション映像にふさわしいイメージといえる。
次第にアリの記憶も輪郭を形作っていくが、大勢のパレスチナ難民が犠牲になったサブラ・シャティーラの虐殺の記憶は失われたまま。映画の後半では、虐殺の記憶をたどるアリの旅が描かれるが、両親のアウシュビッツ体験がかせになっていたことが分かる。アウシュビッツでは被害者だったのに、レバノンでは加害者に転じた経験が、トラウマのように記憶をゆがませていたということだろう。
真実に近づくにつれ、美しかったアニメーションが、次第に戦争の実写映像に近づいていく。そして、ラスト、限りなく真実に近い記憶にたどりついたかにみえた瞬間、まったく異質の記録映像が挿入される。これこそが真実だと突きつけられたようで、その衝撃は大きい。せめて悪夢にとどめておきたかったことが、現実としてせりあがってくるのだから。
アニメとドキュメンタリーの対比が理にかないすぎている点もあるが、戦争を題材に、記憶と記録という映画の本質を問う意欲作である。1時間30分。シネスイッチ銀座。(近藤孝)
先に結論を言います・・・・・・これは、アニメ映画ではなく、正真正銘のドキメンタリー映画だと言うことです。
消えた戦争の記憶を取り戻すと言う形をとりながら、1982年にレバノンへ侵攻したイスラエル軍が行った蛮行を告発しているのです。
映画は、3000人のパレスチナ難民が犠牲となったサブラとシャティーラ地区での大量虐殺へ向かって記憶が取り戻されて、衝撃のエンディングへと繋がってゆきます。
しかもこの映画が、レバノンへ侵略したイスラエルに住むアリ・フォルマン氏により作られたことです。
パレスチナに占領を続けるイスラエルが、それ自身の国民から占領と虐殺の告発を受けているのです。
これは、先日紹介した、イスラエル帰還兵によるパレスチナ占領の告発と兵士自身の人間崩壊を描いた土井敏邦監督作「沈黙を破る」と双璧をなす作品です。
イラクやアフガン戦争からの帰還兵による「冬の兵士」活動が、アメリカで広がりを見せ、戦争に実態とその結果として起こる「人間破壊」・・・・。
戦争は、侵略する側にも多大な被害をもたらしていることを「冬の兵士」が教えてくれています。
2008年カンヌ国際映画祭で上映されて話題をさらい、あの「おくりびと」と本年度米国アカデミー賞外国語映画賞を競ったことは有名な話です。
「おくりびと」で主演した本木雅弘氏をして、「本来、『戦場でワルツを』の方が賞に値する映画です」と言わしめたものです。
2008年12月10日付け日経新聞で美術家の森村泰昌氏がREViEWを書いています。
「・・・・・本作の最後がアニメでないと言う点だけは言っておきたい。この個所こそが最も重要な場面だからである。映画をこの結末へ至らせるための長い布石として、あえてアニメ表現が用いられている、という点は強調されていいと思う。
「戦場でワルツを」は、アニメだから面白いのではない。アニメによってスタートし、最後にアニメが裏切られる仕組みがすばらしいのである。これは、まったくもってアニメ映画ではない。」
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