井上ひさし氏作「シャンハイムーン」 劇団新劇場上演 あすから 11/13 北海道新聞

 優れた戯曲を上演している札幌の劇団新劇場が十四-十六日、井上ひさし氏の「シャンハイムーン」を札幌市こどもの劇場やまびこ座(東区北二七東一五)で上演する。  作品は昭和初期の上海を舞台に、当時の政府から弾圧され、潜伏生活を送っていた中国の文豪、魯迅と、彼を助け出そうとする日本人たちを描く。井上氏は一九九一年、この作品で第二十七回谷崎潤一郎賞を受けた。  新劇場は近年、戦争など昭和史をテーマにした作品を重点的に上演している。演出の多海本(たみもと)泰男さん(72)は、「この作品はコメディーなので、笑いに包んで反戦を訴えたい。特に学校で詳しく近代史を習わなかった若者に、歴史を知ってほしい」と話している。
  十四日午後六時半、十五日午後一時半と六時半、十六日午後一時半。一般二千円、中高生前売り千円(当日千二百円)、小学生五百円。問い合わせは新劇場(電)784・9908へ(夜間のみ)。(松本悌一)

 先週、14日(金)の夕方、自宅近くの札幌市子供劇場で井上ひさし氏作「シャンハイムーン」が地元劇団の劇団新劇場が公演していました。http://home.att.ne.jp/sun/singeki/index.html

大学の先輩で元演劇部の黒川一郎名誉教授の誘われて、その小さな「劇場」へ行ってみました。

井上ひさしさんの独特の軽妙でコミカルな戯曲でもありながら、魯迅の革命生活の一面を描いていました。

特に、魯迅~朱安~許広平の関係、内山寛造夫妻の献身的な人柄と行動、そして善意に満ちた須藤五百三医師のヒューマニズムなど、たぶんに今日的な内容でもありました。

特に、舞台の最終版、須藤医師のせりふ「医師は、病人を待つのではなく、見つけに行くものだ」といって、上海の運河に浮かぶぼろ船にうずくまる人々へ巡回診療に飛び出してゆく場面が印象的でした。

あの軍靴が闊歩する時代での「良心的医療活動」の存在に勇気づけられた一夜でした。

 勿論、帰りには中華料理で乾杯でした。
  2005.9.18 『シャンハイ ムーン』    井上ひさし  集英社

 中秋の名月の今日は、その題に月が出てくる話を。 『シャンハイ ムーン』は戦時中の上海での魯迅とその周辺の人々を描いた戯曲。

 蒋介石の国民党に狙われた魯迅は、上海の地下に潜んで文筆活動を続けていた。彼の地下潜伏活動を支えていたのは、彼の妻と上海に住む日本人たちだった。                                                             

 

魯迅は中国に侵略しようともくろむ日本という国を心底憎みながら、一方では日本人を心から愛していた。そして、日本人の中にも、魯迅に心酔する人々が多かった。この作品は、そういった魯迅夫婦と彼を取り囲む日本人たちの心温まるつながりを描いている。

 

 

潜伏生活で窮地に追い込まれた魯迅は、歯痛に悩まされており、その治療のために使った麻酔(笑気ガス)の服用で幻覚を見る。幻覚で見えるのは、魯迅が常日ごろから常に「すまない」と思い続けている人々。心の中でやましさを覚えている人々である。魯迅は、そのやましさのために、慢性の自殺願望があるのだというのだ。

 その人物誤認と自殺願望を取り除くために、医者須藤が提案した方法は、魯迅の深層心理をついた、優しさにあふれるものだった。

  魯迅を取り巻く人々は、何よりも魯迅の健康回復のために(彼の身体は、ぼろぼろな状態だった)、ちゃんとした歯の治療を受けさせようと日本に亡命することを勧める。

 しかし、敵国である日本に亡命することに異議を唱える許広平と、ちゃんとした治療は日本でしか出来ない、魯迅の才能を生かしておくためには何より身体を丈夫にしなければならないと強く日本行きを勧める日本人たちの主張はなかなか一致しない。

 魯迅自身もその思いは許広平の考えを是としながらも、「小説を書くためには健康でなくてはならない」という日本人たちの言葉に反論できない。 そして、極度の精神的緊張から、魯迅は失語症になってしまう。

 

 いつ崩壊してもおかしくないようなぎりぎりの精神状態の魯迅。彼に、なんとしてでも生き続けてほしいと願う人々の献身的な援助。そして、魯迅は、ついに、どこにも逃げることなく上海で文を書き続けることを決意する。                            

暗い戦争の時期に、文章の力で民衆を支え変えていこうと活動を続けた魯迅。その魯迅を支え続けた日本人たちがいたということは、とてもうれしいことである。

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