インフルエンザの予防注射で込み合うロビー。対照的に入院病床がある二階はひっそりと静まり返っていた。十五の病室のうち患者がいるのは八室。四十床のうち埋まっているのは九床だけだった。
人口約三千三百人の農業のまちの中心部に同病院はある。ここ数年20%台で推移してきた病床利用率は、昨年度、ついに20%を割った。道内九十四自治体病院の平均約75%(二○○五年度)に対し際立って低い。
「かつては五十五床すべてが埋まることも珍しくなかった」と秀毛(しゅうけ)寛己院長(50)。利用率は常に七割超。患者の大半は、家庭の都合などで長期療養を余儀なくされた、いわゆる「社会的入院」の高齢者だった。
転機が来たのは二○○○年。社会的入院による医療費膨張に歯止めをかけたい国は「医療から介護へ」の理念を掲げて介護保険制度をスタート。町も国の意向に沿って約六億円を投じて介護老人保健施設を開設。多くの患者が老健施設に移り、「病院のベッドに空きが増えていった」(秀毛院長)。
町は同年、病床を十五床減らしたが、その後動きはない。病床削減に踏み切れないのは「削減すれば補助金が減り、救急医療を維持できなくなる」という地域事情があるためだ。
実態に合わせて十床程度に減らすと、病院(二十床以上)から診療所(十九床以下)に格下げとなる。これに伴い、年間約八千万円ある国からの交付税も十分の一以下になる。既に病院会計に毎年二億円前後を繰り入れている町にとって、「減収分を補うのは厳しい」(佐藤雅彦副町長)。医師二人(欠員一)、看護師ら二十人の現行体制が縮小を迫られることは必至で、「夜勤当番などを考えると救急医療は維持できなくなる」(同病院の安田重幸事務長)という。
救急医療体制がなくなれば、車で一時間以上かけて倶知安町まで行くしかない。
「地元に救急病院がある安心感は大きい」。この夏、右足を深く切り国保病院の救急で七針縫ったという飲食店経営石塚真澄さん(53)は話す。
町内は道央と道南を結ぶ国道が三本通過する。同病院への救急搬送は年間六十件前後あるが、四割程度は町を通過中に交通事故を起こした町外の人だ。ほぼ毎晩病院で仮眠し急患に備える秀毛院長は「町民のためだけの救急病院ではない」と話し、安田事務長は「国の考えに沿って老健を建てた結果、地域の安心が切り捨てられようとしている。国に乗せられた思いがする」と語っている。
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