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医療安全調査委員会の第三次試案に反対します。
誰のためのものなのか、わからないからです。
この委員会は、医療死亡事故が起きた場合に、
原因究明と再発防止を専門的に評価する機関として、設立が検討されています。
さらに、医療の透明性の確保や医療に対する信頼回復につながることによって
医師等が萎縮することなく医療を行えることが目的なのだそうです。
厚労省か内閣府に属して、医師・看護師等・法律家・有識者(患者代表)で構成されます。
第三次試案そのものはこちら
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=495080001&OBJCD=&GROUP
僻地の産科医先生がまとめた、この件に関するブログ一覧はこちら
http://obgy.typepad.jp/blog/2008/04/post-1341-13.html
私見ですが、反対理由の概要は、以下です。
1 患者遺族の気持ちより届け出義務が優先
医療死亡事故について、一定の基準に達したら、全例この委員会に届け出ることになっています。
全ての患者さんのご遺族が、それを望むでしょうか。
医療事故で死亡した患者さんのご遺族の気持ちは、様々です。
謝罪してほしい、補償してほしい、真実が知りたい、再発防止につなげてほしい、
そっとしておいてほしい。
さらに、これらの気持ちは、時の流れと共に変わっていきます。
ご遺族が病院からの説明で納得し、そっとしておいてほしいと思っているのに、
基準に達したら全部調査、という発想は、
到底ご遺族の気持ちに配慮したものとは、思えません。
2 働き者のナースが危ない
例えば「消毒薬の静脈内への誤注入」は、届出の対象になっています。
主としてナースの仕事ですが、このような事故は
働く量が増えれば増える程、起こしやすくなります。
タクシーの運転手さんが、長く運転すればするほど交通事故を起こしやすくなるのと、同じです。
だったら、働かなければ事故はゼロになりますが、そうは行きません。
本気でこのような性質の事故を減らそうと思ったら、事故後に机上で検討することよりも
ナースの注意力が散漫にならない状況で働かせること、つまり「ナースの労働環境の整備」が
本来やるべきことではないでしょうか。
3 産婦人科医の立場からも反対
「医療事故の刑事手続きの対象については(中略)謙抑的な対応が行われることになる」
とあります。
つまり、「この委員会の存在は、医療事故を犯罪として裁くことには、抑制的に働く」ということです。
表現が曖昧過ぎて、全く信用できません。
刑事罰適用を検討する対象を、何故はっきりと明記しないのでしょう。
この点が曖昧なままでは、現場は益々萎縮してしまいます。
内診問題がいい例です。
看護師に内診させたとして、医師・看護師が逮捕されました。
このままでは分娩ができない施設が続出し、地域医療の崩壊につながると
分娩医療機関に大混乱を起こしました。
産婦人科医の団体と厚労省の応酬の末、
看護師は医師の指示によって「診療の補助」として、内診をしていいことになりました。
しかし、結局現場では、看護師は内診していません。
何の火種になるか、わからないからです。
一度萎縮した医療現場は、なかなか元に戻りません。
40年間産院で働いた看護師の技術も、埋もれたままです。
内診してもいい旨、通達されていてすらこの顛末ですので、
大野病院事件で加藤先生が逮捕され、醜悪滅裂な論告求刑がなされた時に
全く明文化されていない「警察・検察による謙抑的な対応」など、誰が信用できるでしょう。
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全ての研修医に、新臨床研修制度が義務付けられて、数年たちます。
この制度は、医師が幅広い診療能力を身につけることを目的として、スタートしました。
「スーパーローテーション」と呼ばれ、
将来何科の医師になろうと、各科を研修することになっています。
産婦人科には、卒後1年間の研修を終えた先生が回ってきます。
これまで来た研修医は全員が、既に何科に進むか決めていました。
つまり、耳鼻科に進もうが皮膚科に進もうが、
お産や不妊治療、婦人科手術などを研修しなくてはなりません。
それも、たった1ヶ月の間です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 佐藤先生(仮名)は、呼吸器内科に進むことが決まっている研修医です。
opeの時、簡単な操作くらいはやらせてあげようかと思って、
「ope、興味ある?」と聞いたら
「いえ」。
(・・・あ、そ)。
と、私に冷たくされてしまいました。
でも熱心なので、切迫早産で入院中の妊婦さんたちみんなの胸に、毎日聴診器を当てています。
しかし、お腹が張ること以外は元気な若い女性たちに、毎日胸を出させているわけですから、
当然の流れとして、妊婦さんたちに嫌われてしまいました(苦笑)。
そんな佐藤先生ですが、
横で見ていると、必ず患者さんの目を見て話しています。
きっといいお医者さんになってくれるでしょう。
2 伊藤先生(仮名)は、循環器内科に進むことが決まっている研修医です。
病棟で師長さんにオリエンテーションを受けた後、
「ところで、産婦人科部長に挨拶した?」と聞かれて、
返事は、
「どうして挨拶しないとならないんですか」。
引継ぎの言葉が飛び交っていたナースステーションが、シン・・・としました。
どこの病棟でもそうですが、病棟を仕切っているのは医者ではなく、師長さんです。
師長さんに嫌われたら、おしまいです。
産婦人科には興味がないとしても
この先、どうするのでしょうね・・・
3 斉藤先生(仮名)は、私が所属する産婦人科医局に入局することが決まっている研修医です。
実に、熱心です。
夜中だろうが休日だろうが、お産がありそうとなると、やって来ます。
毎日全ての患者さんのベッドサイドを回り、我々よりもよく患者さんの話を聞いています。
opeの時も「ちょっと、そんなに近寄ったら手術できないでしょ」と言われるくらい、
熱心に見入っています。
「身体壊すから、もう今日は帰ったら」と、こちらが言いたくなるくらい、病院に張り付いています。
「是非、自分の部下にほしい」と思うような、好人物です。
しかし、最近は分娩の研修ができる病院が減ってきて、
他の病院から産科の研修だけしに来ている人が増えており、
数人の研修医がいっぺんにかち合ってしまうことがあります。
産婦人科医局で自分の後輩になることが決まっている、超熱心な斉藤先生に、
本当だったら全ての手術に入ってもらいたいのですが、
他の研修医の手前、そうも行きません。
本人は「見るだけでも勉強になりますから」と謙虚なことを言っていますが、
他科に進むことが決まっている研修医の先生たちも、遠慮がちです。
私自身が、研修医時代に上の先生たちにかわいがってもらったように、斉藤先生にもしてあげたいのに、
そんな気持ちも、活かすことができません。
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産婦人科のことしかわかりませんが、
たった1ヶ月研修したところで、
「幅広い診療能力」の足しになるとは、到底思えません。
おそらく、正常分娩ひとつ取ることができないでしょう。
一体誰の、何のためになるのか。
スーパーローテーションは、当然現場から出た発想ではありません。
「現場のことは現場で決める」
「現場で起きた症例は、現場の人間が検討する」。
こんな当たり前のことがなされないから、医療が壊れてきたように思えてなりません。
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以前は、飛び込み分娩も普通に受けていました。
最初に経験したのは医者になって2年目、救急指定病院に勤務していた時です。
その地方の基幹病院ですから、何でも受けるのが当然と思っていましたし、
何でも受けることを使命と考え、何でも受けられることに誇りを持っていました。
ですので、救急隊が「自宅分娩後、十代前半の女性と新生児」と連絡をしてきても、
小児科の先生も私も、何とも思いませんでした。
今、同じことをするとしたら、2年目の医者としては無謀です。
でも、当時の上級医師たちも病院管理職もみな、普通の搬送例として捉えていました。
最後に経験したのは約3年前、産科医療崩壊元年の一年前です。
当時勤務していた地方基幹病院が、分娩取り扱いを休止し、
医局派遣撤退が決定した後、撤退を実行するまでの間のことです。
産婦人科は「宅直」と言って、自宅待機しながら、
必要時は電話で指示を出したり、場合によっては病院に駆けつけるという体制を取っていました。
休日の夕方、病院から電話がかかってきました。
出ると、その日の内科系当直の血液内科の先生(50代のベテラン先生)からです。
「腹痛の女性が運ばれて来たんだけれど、妊娠しててガンイだからさ、なな先生、来てくれる?」
・・・ガンイ??
まずは、「顔位」を診断した血液内科の先生、すご過ぎます(笑)!
「顔位」とは、本来頭頂から出てくるはずの赤ちゃんが顔から出て来てしまう、異常分娩です。
帝王切開にするしかありません。
産婦人科医でも、研修医レベルでは診断すら困難なものです。
それを、内科の先生が「顔位」なんて・・・!!
結局、その日の外科系当直だった呼吸器外科の先生と帝王切開をし、ママも赤ちゃんも無事でした。
後日、血液内科の先生に
「先生、すごいですね。どうして顔位とご診断なさったのですか?」
とお聞きしても
「ははは」
としか答えて下さいませんでしたが。
その世代の先生方の、臨床力の計り知れなさを感じたエピソードでした。
時代は、変ってしまいました。
専門医不在を理由に受け入れを断ると、メディアにバッシングされます。
基幹病院が30分以内に帝王切開できないと、多額の賠償金を払わないとなりません。
若い医師の使命感も、ベテラン医師の臨床力も、封印せざるを得ない世の中になってしまいました。
何が、いけなかったのでしょう。
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身近な医者を、2人亡くしています。
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一人は約10年前。
当時30代の、先輩医師です。
研究に、臨床に、非常に忙しくなさっていました。
たまにご連絡を下さる時は、決まって深夜2時3時のメールでした。
学生時代は体育会でご活躍された先生で、
人間?と思いたくなるようなタフさと、ひょうひょうとした笑顔を併せ持った
爽やかな先生でした。
大学病院勤務時代の夏、当時研修医だった私たちを集めて
ナイター見物に連れて行って下さったことがありました。
外野席で、ビールを飲みながらハンバーガーとポテトをほお張って
みんなでひゃあひゃあ言っていたら、
先輩だけ眠ってしまったのを、今でも覚えています。
その日も、病院で夜遅くまでお仕事をなさっていました。
術後の患者さんが落ち着くのを見届けた後、
0時過ぎから論文の添削を始めたところまでは、他の医師が見ていました。
翌朝、出勤してきた同僚医師が、医局で倒れている先生を見つけた時には
既にお亡くなりになっていたそうです。
葬儀には、婚約者の女性は出て来ることができなかったと、
後で聞きました。
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今度は、友人医師を亡くしました。
彼女も、30代です。
同じ職場の上級医師が、過労でその病院に入院中でした。
元々、一人が過労になるような労働環境ですから、
多くをお話しする必要はないでしょう。
一人が入院・休職しても、現在の医療事情では代替要員は派遣されませんので、
残ったドクターたちは、目も当てられない忙しさでした。
緊急opeのある科の医師で、毎日遅くまでopeをした上に、
夜中も容赦なく呼び出されていました。
「過労だけは気をつけようね。壊れる前に、逃げようね」
と、お互い言い合っていたのに・・・
その日、彼女は当直でした。
翌朝、交代で当直に来た若い先生が当直室に入ると
彼女は机にうつ伏せになった状態で、亡くなっていたそうです。
大きな悲鳴を聞いて、一番に駆けつけた人が
何と過労で入院中の、彼女の上級医師でした。
その先生は、自分が休職したからだと自分を激しく責め、
入院先も変えた上に、退職されてしまいました。
残った同じ科の先生たちも、全員がご自分を責め続けています。
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二度と犠牲者を出したくありません。
どうしたらいいでしょう。
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2泊連続当直が明けた日のことです。
午前は、外来患者さんを40人診察しました。
午後は開腹のopeが2件、お産が1件ありました。
夜、ope患者さんの様子が安定したのを見届けて、帰宅します。
しかし、もし夜間にopeが必要な急患が発生したり、搬送があったりしたら、
出動して、病院へ向かいます。
今までもそうやって、搬送を受けて来ました。
ちょうどその日、奈良県で妊婦さんを乗せた救急車が10数カ所で受け入れ不能となり、
病院到着までに3時間かかってしまう、という事件がありました。
受け入れ不能の影には、この日の私の病院のように
無理してでも受けて来た、幾多の病院があるはずです。
しかし残念ながら、私の病院も、近いうちに搬送受け入れの範囲が制限される予定です。
人員不足により、責任を持ってお受けできる範囲が、狭まってしまったためです。
マスコミの人たちへ。
世の中の女性たちに向けて
「妊婦健診はきちんと受けましょう」と、発信してもらえないでしょうか。
この事件の妊婦さんも、普通に健診に通ってかかりつけ医がいたら、
搬送先が見つからずに往生することは、なかったでしょうから。
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産婦人科医になってから、
「全身の血液が沸騰するほど怖い思い」をしたことが、何回かあります。
そのうち上位10に入る事件が、S先生の産院で去年の今頃にあった
分娩時出血多量事件です。
http://blog.m3.com/nana/20060831/1
子宮内反、修復後の弛緩出血、頚管裂傷で、
搬送先での出血量もあわせると、
身体中の血液が全部出切るくらい、出血しています。
人が一人失血死する過程を、目の前で見ているような感じでした。
S先生の産院で分娩、輸血、内反修復、裂傷縫合
搬送先でも再度内反してope、輸血、術後入院していますが、
実は、当院にも搬送先にも、全く費用を払っていないのです。
ちなみに、きちんとした妊婦さんです。
真面目に健診に通い、ちゃんと費用を支払っていました。
思いがけないアクシデントのために、医療費がかさんでしまい、
払い切れなかったのではないか、と思うのです……
あの時産まれた子は、1歳になるはずです。
あの妊婦さんがママとなって、
今、どうしているのか、どんな気持ちでいるのかと、
時折、思うことがあります。
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12時間の間に、お産が7件ありました。
産院ですので、院内に存在する医療者は、私と、看護師2名。
看護師は2人とも60代のベテランです(深夜勤、なさるんです(/_;))。
7件のうち2件は、15分違いで出生しています。
会陰の縫合も間に合いません。
7人とも、最初から入院していたわけではなく、 深夜になってから入院してきた人もいます。
その度に、電話に出たり、カルテや入院用具やベットの準備をしたり、
また入院時には、バイタルを測り、モニターをつけ、着替えてもらいます。
中には、入院後7分で分娩になっている人もいました。
進行中の産婦さんは、3時間おきに医者が内診して カルテに署名しないとなりません。
新生児室には、総勢19名の赤ちゃんが、 授乳時間を過ぎてしまい、
ほぎゃあほぎゃあの大合唱です。
明け方になって、妊娠35週0日の出血の急患が来ました。
診察すると、子宮口も開いて、お腹もはっており、 お産が始まっています。
この直後に、他の進行中の産婦さんが分娩、
新たな陣痛発来の妊婦さんが入院。
この陣発の妊婦さんを診察していると、
35週の早産の方が、あっという間にお産になりましたが、
血性羊水と共に、赤ちゃんも胎盤もいっぺんに出ました。
部分常位胎盤早期剥離です。
赤ちゃんは手足がだらんとしており、呼吸はなく、 心拍は100回/分を切っています。
第一啼泣があるまでは、生きた心地がしませんでしたが、
5分後には自発呼吸が出て、泣いてくれました。
しかし保育器に入れても、あまり具合は良くないので
新生児の搬送先を探しましたが、全くみつかりません。
どこも満床ですし、
「そのくらいの具合の子なら、そちらで診てもらえないでしょうか」とのこと。
今の医療事情では、当然の発想です。
人手は、増えません。
こんな状況ですので、新規採用の助産師・看護師は居着かないようです。
医局から派遣されている産婦人科の先生は、
他の病院で遭った医療事故を契機に、どんどん口数が減って、 メールをしても返事が来なくなり、
とうとう休職したと人づてに聞きました。
こんな現場で、
使える医療技能を使ってはいけない、
内診のできるベテランナースの技能を使っては、いけない、
というのが、この国の決まりです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いなか小児科医先生に、賛同します。
以下、先生のブログより頂戴しました。
おそらくご存知と思いますが・・・
http://tsukinohikarini.blog41.fc2.com/
この文章ですが、告発文です。多くの人の眼に届くよう、特別のご配慮をお願いします。リアリティの無視、などというレベルではありません。
全文を読みたい方は、こちらです。
http://tsukinohikarini.blog41.fc2.com/blog-entry-290.html
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少しの間、来院していなかった妊婦さん・典子さん(仮名)が、外来にいらっしゃいました。
カルテを開くと、最後の受診が4月末になっています。
健診、さぼったのかな? と思いながら診察室のお呼びすると、
別人のように憔悴し切った典子さんが入って来ました。
ぽつり、ぽつりと話した内容は、こうです。
GWの直前の頃、微熱と倦怠感が出てきました。
本当は自宅で寝ていたかったけれど、兼ねてからの帰省の約束を反故にすることもできず、
不調を圧して移動しました。
ところがどんどん体調が悪化するので、帰省先で病院にかかったところ、
麻疹と診断されました。
妊娠中の麻疹は、対症療法といって、高熱に対する治療くらいしかできませんが、
食事も満足に摂れていない状態だったので、産婦人科に入院しました。
点滴を受けて、少し身体が楽になったと思ったら、
突然お腹が激しく痛くなって、ベッドでうずくまっていると、
数分で、赤ちゃんも胎盤も一塊になって出てしまったのだそうです。
妊娠、19週でした。
妊娠中に麻疹にかかると、流早産のリスクがあること、
分娩直前だと、赤ちゃんにうつる可能性があることは知られていますが、
こんな激烈なことになるとは。
検索すると、報告はありました。
わが国では、2000年頃に麻疹が流行した地域があり、
やはり同様の急峻な転帰をたどった例が記されていました。
特に妊娠中期(妊娠24週未満)では重篤で、
ほぼ全例で麻疹の診断後数時間〜数日のうちに、突然お腹を痛がって、
あっという間に流産・死産に至ったそうです。
妊娠25週以降だと、概ね良好な経過をたどっているようですが。
典子さんは、激しい自責の念に苦しんでいます。
あの時、人ごみに出かけたのがいけなかったんだ。
自分が充分注意しなかったのが悪いのだ。
栄養のバランスに、偏りがあったのかも知れない。
もし、子宮の中が透けて見えるようにできていたら、
赤ちゃんが苦しんでいるのが、わかったかも知れないのに。
流産・死産を体験された妊婦さんは、赤ちゃんの喪失だけではなく、
母としての役割や、娘や嫁(孫を身ごもっている者)としての役割をも、喪失します。
典子さんの悲しみがひとしきり癒えるまでには、相当時間がかかるでしょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
麻疹にかかったことのない妊婦さんは、充分に気をつけて下さい。
特に今の東京は、依然として伝染病危険区域です。
なるべく人ごみに出ないで、手洗いとうがい(水でいいそうです)をしっかりやって下さい。
国の公衆衛生を司る人たちは、麻疹ワクチン不足と、麻疹輸出国対策に加えて、
実際に妊婦さんと胎児の犠牲者が出ていることに対して、
充分な啓蒙と対策を講じて下さい。
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大学医局同期の沖田先生(仮名)から、以下のようなメールが来ました。
沖田先生は、基幹病院の産婦人科勤務医です。
私がブログを書いていることすら話していなかったのに、
ある日突然、「あれ、ななちゃんのブログ?」と言って来た、驚愕のお方です。
(注:「なな」には私の本名が入ります)
本人の許可をもらったので、公開します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
当直中、開業医さんから夜中に電話がありました。
「順調に進行していたお産だけれど、赤ちゃんの心音が時々下がるので帝王切開にしたい。
しかし院長が不在なので、帝王切開ができない。
ついては貴院で帝王切開してくれないか」 という内容でした。
うちの病棟はその日すでに早剥(常位胎盤早期剥離)の緊急帝王切開も受けていて、
その患者さんの術後経過がもうひとつでした。
NICUも満床で、誰か調子の比較的よい赤ちゃんをGCUに移さないと入院は受けられません。
すなわち、「絶対に受けられないというわけではないが・・・」という状況でした。
救急車で来ても小一時間はかかる距離です。うちよりも近くに総合病院もあります。
うちに送ってもらって、それから帝王切開にしていたら、かなり遅くなってしまいます。
NICUの先生が常々
「胎児適応の帝王切開は時間が勝負なので、母体に問題がなければ、搬送元でオペしてもらう方が助かる。
児に問題があれば新生児搬送で構わない」
とおっしゃっていたのを思い出し、on callだった当科の副部長にも電話で相談した上で、
その旨と、「母児の状態が不良であればもう一度ご連絡下さい」と返事しました。
断られた病院側(多分バイトの医師でしょう)は、助産師相手にオペすればいいのに、
あちこち電話しまくった挙句、他県の病院でやっと搬送を受けてもらい帝王切開になりましたが、
結構時間がかかったせいなのか、新生児はNICU管理となりました。
入院後の経過は良好のようですが、
帝王切開が決定してからの対応に対して、家族が開業医の院長先生に抗議したらしく、
院長先生は当院が断ったのが悪いと言って、産婦人科部長に抗議してきました。
院長が不在でバックアップがいないような病院で当直するなら
一人で助産師相手に帝王切開する(開業医ではよくやるよね)か、
それが無理なら近隣のほかの開業医を確保して、緊急帝王切開に対応できるようにしておくのが
お産を取り扱う開業医の最低限の責任だと思います。
それができないなら、分娩を取り止めるべきだと思います。
なのに帝王切開に対応できなかった自分たちの責任は棚に挙げて、
搬送を断った病院に責任をなすりつけようというのはいかがなものか、と思いませんか。
他のスタッフも、同じような意見でした。
ところが、当科の部長だけは違いました。
「この件で当院スタッフは正しいことをしたと言い切れるのか?!
責任を取ろうとせずにたらい回しにしただけじゃないか!
これからはどういう理由であっても母体搬送は受けるようにしなさい!」とのたまいました。
そうは言っても、NICUが空いていない場合は現実的には搬送受け入れできないですし、
母体ベッドだって確保できないこともあります。
麻酔科やオペ室の問題でオペがすぐにできないこともありうる。
しかし、しかしです。 部長に言わせれば
「そんな問題は誰かが何とかしようと工夫したら何とかなるものだ。 すぐに諦めないで、全力を尽くすのだ!
そもそも、搬送依頼を断って何かあった場合は、断った病院にも賠償責任が生じる可能性があるのだから
よほど正当な理由がない限りは受けないといけないのだ。」
とのことでした。
副部長が
「そんなことを言っても、現場のスタッフにそこまで強制したら疲弊しきってしまって却って危険です。
そもそも周辺開業医が辞めているせいで、当院の分娩数は今年は1000件を超えそうな勢いで、
かつ帝王切開率が30%近い現状なのに、
これ以上母体搬送例を全例受け入れてしまったら、皆がもちません。
小児科だって、何とかギリギリのところで頑張ってもらっているのに、何でも受けるなんて言えません」
と諌めましたが、部長からは
「全例受け入れ。NICUに確認するまでもない」
というお達しが出たままです。
副部長からは
「現実的には全例受け入れは無理だから今まで通りの方針でいい。
断るべきは断って構いません。何があってもこちらで対応します」
という指示が別に出ているので、現場の混乱は最小限に収まっていますが、
今後はどうなるか、きな臭い状況です。
当院が「うちが断ったら他に行き場がない」という病院だったら意地でも受けざるを得ないかと思いますが、
近隣には他にも通常の搬送くらいは受けられる病院が2つあります。
それにスタッフが揃わないという理由で帝王切開にできない産婦人科開業医なんて
非常識としか言いようがないと思う。
そんなところの尻拭いまでしないといけないんじゃ、やってられません。
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部長先生と、その他の先生方との温度差は、明らかです。
部長先生の理想も、理解できないではありません。
しかしこのままでは、「産婦人科医、全員辞職」なんていうことになり兼ねません。
かと言って、どうやったらこの温度差を縮めることができるでしょう。
「ななちゃん、どう思う?」と結んでありましたが・・・
どう思う、って、どう思う、って、う~ん
沖田くん、やられる前に、逃げて~~!
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看護師による内診禁止が再通達されて、1ヶ月がたちます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その晩は、お産が続けて3件ありました。
分娩室には、分娩台が2台あります。
1台では、産後2時間たたない褥婦さんが休んでいらっしゃって、
もう1台では、他の産婦さんが無事お産され、会陰縫合をしている、その時。
陣痛室にいる、分娩進行中の産婦さんから、ナース・コールです。
「何か、出ているんですけれど……」
ナースが陣痛室に向かって約5秒後、悲鳴に近い声が響きました。
「先生!! 早く!」
縫合を中断して飛んで行くと、既に赤ちゃんの頭が出ていました。
一瞬息をのみましたが、落ち着き払ったふりをして
「あらあら。じゃ、ここでお産しましょうね」
と、すぐに手袋を換えて、床上で赤ちゃんを娩出しようとしました。
しかし、全然出ません。
肩甲難産です。
赤ちゃんは首が絞まって、顔がみるみる紫色になってきます。
産婦さんは仰向けになっていますが、背中側に赤ちゃんを引っぱらないと、出ません。
座位にすると、膝が下向きになるので不利だし、
横向きだと充分足が開きません。
そこで、産婦さんの背中の下に、丸めた毛布をねじこんで、
無理やり骨盤高位にしました。
ナースに産婦さんの両膝を押し上げてもらい、私はありったけの力で赤ちゃんを引きながら
恥骨の真上を押しました。
それでも全然肩が出ないので、一旦手を放して、大きく深呼吸しました。
院長先生はご不在ですので、院内にいる医者は私1人、ナースは2人です。
気を取り直して、もう一度、渾身の力を込めて引くと、
何とか赤ちゃんが出ました。
疎血のため、躯幹は蒼白、顔は暗紫色で、ぐったりとしています。
「お願い、泣いて!」
赤ちゃんの背中や足底を思いっきりこすりながら、
「挿管」の2文字が頭に浮かびましたが、
赤ちゃんは泣いてくれました。
第一啼泣まで、3分かかっていいます。
それでも幸いにして、赤ちゃんはすぐに元気になってくれました。
しかし産婦さんには、一生の記念になるはずのお産なのに、
怖い思いをさせてしまいました。
当然産婦さんも私も、羊水まみれ・血まみれ・胎便まみれ。
分娩台にいた褥婦さんは、会陰縫合を中断したまま、お待たせしてしまいました。
ベッドはマットレスごと廃棄です。
私は2件の分娩にかかりきりでした。
ナースは2人ともベテランで、本当は内診ができます。
ナースが内診していれば、
分娩の進行が予想外に早いことを察知していれば、
同じ肩甲難産でもせめて分娩台の上であれば、
あんな修羅場にはならなかったはずです。
この産院では、厚遇で助産師を募集していますが、
ほとんど助産師のいない産院に入れば、大変な負担がかかることは目に見えていますので、
なかなか応募がありません。
言うまでもなく、産婦人科医も足りません。
では、分娩取り扱い、中止しますか?
そうしたら、年間800件のお産が宙に浮くことになります。
為政者に聞きたい。
何故、何の代替措置もないまま、看護師による内診を禁止したのですか。
現場の私たちに、どうしろと言うのですか。
あの赤ちゃんに何かあったら、私たちを罰するのでしょうが、
それで本当に再発が予防できるのですか。
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2月18日(日)は、東京マラソンでした。
都内の約600ヶ所の道路で、通行止めになっていたそうです。
多くの時間を病院で過ごし、世事に疎い私は、
それを知らずに愛車で病院に向かいました。
ほどなくしてあっちで迂回、こっちで渋滞となり、
病院到着予定時刻を過ぎてしまいました。
入院患者さんと診察の約束をしていましたので、遅刻する旨病棟に連絡すると、
約束していた切迫流産の妊婦さんが、出血しているとのことです。
休日だしゆっくり行けばいい、と鷹揚に構えていた気持ちが、一気に吹き飛びます。
しかし、迂回を繰り返して、どんどん病院から遠くなるし、
交通量も増える一方です。
しびれを切らして、警官の前で停車しました。
身分と、入院中の妊婦さんが出血していることを説明し、
「中区(病院の所在地、仮名)に抜けたいのですが、どうしたらいいでしょう」
と言うと
「中区もヘチマもないよ、あっちに行くしかないね」
わかりました、ありがとうございます、と、その時は言われた通りにしましたが・・・
「中区もヘチマもない」だと??
警察にとっては、産婦人科医が急いでいようが、妊婦さんが出血していようが
知ったことではない、ということでしょう。
せめて近道を教えてもらいたかった、などというのは
医者のエゴなのかも知れません。
それにしても、産婦人科医であるなしに係わらず、一市民を馬鹿にしていませんか?
いえ、それとも私の風体が、医者には見えなかったのかな・・・
(何しろ、ジーンズにダルメシアン柄のシャツしたので)。
結果として、その妊婦さんは流産してしまいました。
流産は、一度始まってしまうと、どうやっても止めることはできませんので、
私が早く病院に到着したところで、結果は同じです。
ですが、その時に主治医として傍にいることができたら……
などというのは、欲張り過ぎかも知れませんが。
奇しくも1年前、福島県立大野病院の加藤克彦先生が不当逮捕された日と同じ、
2月18日のことです。
警察の、医療に対する姿勢が、垣間見える一件でした。
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