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産婦人科医の友人・郁子(仮名)から、久しぶりに電話がきた。
郁子は、数年前に心折れて現場を立ち去ってしまった、元・熱い産婦人科医だ。
子育てをしながらたまに当直バイトをして、幸せに暮らしている。
「ななちゃんとこ、当直がいなくて困ってるんだって?」
「そーなの。え、郁子、来てくれるの♪」
「じゃなくて、P先生が、よかったら行こうかって、言ってるの」
「・・・・・」
P先生もずっと前に立ち去った先生で、バイトで暮らしている。
他の病院に勤務していた時にも、当直に来てくれていたが、
実は、患者さんに非礼を働いて大泣きさせる、とんでもないトラブルを起こして
当直を辞めてもらった経緯がある。
正直、ためらう。
「ん~とね、人事が仕切ってるから、そっちに電話してもらった方が早いんだけれど」
「それがね、連絡したら、担当者がなんか頼りない感じだったんだって。
今からP先生の携帯番号言うから、電話してよ」
「う~ん、実は当直探し業務はもう事務に任せて
私はタッチしないようにしようと思っているので・・・」
「でもさ、そんなんじゃダメだよ。事務の仕事だ、とか言ってたら。
私がななちゃんの病院にいた時は、やってたんだよ」
もう5年以上前の話だ。
我々だって去年まで、いえ先月までやっていた。
産婦人科医療の置かれた状況は、去年とですら全然違う。
「うん、まあ、他にもいろいろ事情があってね」
「困っているらしいから、と思ったのに。
P先生だって、すごく行きたいってわけじゃなくて、
ななちゃんを助けてあげようと思って言ってくれたんだよ。
そんなんじゃ、みんな助けてあげらんないよ」
郁子の言う通りだ。
でも、傷つく。
かと言って、P先生と親しい郁子に、前任地での事件を話すわけには行かない。
「はは。うちの病院も、内情は大変でね」
「そうなんだ。ま、愚痴ならいくらでも聞くからさ」
「ありがと」
そして、言われた。
「妊娠は?」
「え」
「妊娠。希望はないの?」
友人というのは、いつまでも友人ではないのだ。
十余年間、産科医療の最前線で突っ走って来た私と
妊娠・出産を経て、ほぼ主婦として暮らしている彼女とでは
目に映っているものが、違わないわけがない。
残念だけれど、郁子とは距離を置こう。
縁があるのなら、いつかまた、交差するのだから。
そう割り切ってみたものの、心は晴れない。
うん、うん、と黙って聞いてくれるやさしい夫と
「那由多の刻」という、おいしい水のようにおいしい焼酎を飲るが、
その日は全く酔えなかった。