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20代後半の、妊娠初期の患者さんがいらっしゃいました。
診察すると、子宮の中に10数mmの小さな赤ちゃんがいます。
しかし、どうも浮かないご様子です。
気になって、患者さんの言葉を待っていると
「今回はあきらめようと思いまして・・・」
「・・・そうですか。それは、パートナーの方とよく話し合った結果ですか?」
「話し合って、彼は生んでほしいと言っているのですが・・・」
ここで、言葉が途切れます。
その日は、妊娠は間違いないこと、考える猶予はまだあることをお話して
診察を終えました。
数日後、再診にいらっしゃいました。
やはり今回はあきらめます、と言いながらも、今にも泣き出しそうなご様子。
お話をお聞きしたら、彼とは2人で育てて行こうと決めたのですが、
ご両親が、彼の職業を理由に反対なさっているのだそうです。
でも、2人とも20歳をとうに超えているし、
親と縁を切ってでも生んで育てたい、と思う一方で、
両親に大反対されてまで生まれた子が、幸せになれるのだろうか、
という思いも、ぬぐい切れません。
ご両親は、大丈夫、すぐに次の子ができるから、と言っているそうですが・・・
どんな手術でも、100%絶対に成功する手術は存在しません。
中絶手術でも、1000件に1件くらい子宮穿孔が起きますし、
術中の大量出血、子宮内腔癒着など、
今後の妊娠に影響する危険性も、皆無ではありません。
何故、我が子が選択した幸せを信じないのか。
中絶手術に伴う危険を冒し、心に傷を負わせ、
それでも親の選択が正しいのだ、と信じて疑わない自信に、
ただ、圧倒されます。
しかし、親子関係は様々で、本人同士にしかわかり得ないものがあります。
患者さん本人が悩んだ末辿り着いた、ひとまずの結論です。
却って混乱させるようなことは、言えません。
でもでも、大反対を押し切ってお産をしたら、
赤ちゃんを見た途端、骨抜きになった、という例は本当にあります。
いいえ、私は医師なんだから、
あくまでも医学的なアドバイスだけをすべきだろう、
あまり個人的な考えを述べるのは、控えなくては・・・
でも、私は医師だ。治療マシーンじゃない。
人間味があったって、いいじゃない。
医師も、迷います。
「ご両親は、リスクのこともご承知の上で、そうおっしゃっているのですか」
この問いには、言葉に詰まっていました。
結局、結論は先に持ち越されました。
最終的に患者さんがどのような選択をしても、支持するのが、
産婦人科医の仕事であると思っています。