なな
More プロフィール

Search

Calendar

<< 2008/05 >>
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

トップページ

Doctors Blog

ブログの購読

新着コメント

新着トラックバック

2008.05.06 14:16 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 56

前回帝王切開、前置胎盤の症例

戦場に向かうような気持ちで、手術に入ることがあります。

麻紀さん(仮名)は、前回帝王切開、前置胎盤の妊婦さん、

あの福島県立大野病院事件でお亡くなりになった妊婦さんと、同じ状態の方です。

 

考えられる範囲で、あらゆる準備をしました。

術者は私ですが、助手には産婦人科部長に入ってもらいます。

麻酔科の先生にも、よくよくご相談しておきました。

そして、麻紀さんとご主人にも、厳しい説明をしました。

前置胎盤で、通常の帝王切開より出血が多くなる可能性のあること。

もしかしたら、癒着胎盤である可能性があること。

場合によっては、子宮を取らないとならないかも知れないこと。

そして、麻紀さんと同じ状態の妊婦さんで、お亡くなりになった例があること。

 

私の話を静かにお聞きになっている麻紀さんご夫婦は、何と福島事件をご存知でした。

当然のことながら子宮温存を強くご希望されつつ、

万が一の場合は子宮全摘もやむを得ないということを、ご理解下さいました。

 

手術は、午後からでした。

午前の外来が終わってから、お昼を食べる時間はあったのですが、

緊張のあまり、何も喉を通りそうにありません。

レモンボルビックをひと口だけ飲んで、手術室に向かいました。

 

幸いなことに、物々しい準備や、皆の厳粛な覚悟をよそに、

あっけなく胎盤は剥がれ、ほどなく止血し、無事に手術は終了しました。

全身の力が、抜けます。

 

手術室の前で、ご主人が緊張した面持ちでお待ちになっていました。

無事手術は終了し、輸血もせず子宮も取らずに済んだことを説明し、

「もう一人いけますよ」と言い添えると、

ご主人は涙されていました。

 

麻紀さんの乗ったストレッチャーを引いて、病棟に帰る途中のことです。

新生児室で先に赤ちゃんと会ったご主人が、麻紀さんに話しかけます。

「赤ちゃん、かわいいぞ。なあ、ほんっっとに赤ちゃん、かわいいぞ。

 俺、チューしちゃおうかと思ったもん」

麻紀さんもナースも私も、一斉に笑い出します。

産婦人科医として、至福の時です。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

手術が無事にできたのも、過剰なくらい厳重な準備ができたためだと思っています。

これも、大野病院事件という、苦くも貴重な前例があったおかげです。

あの事件がなかったら、あそこまでの準備はできなかったでしょう。

しかし、あの事件の顛末と昨今の状況を見ると、

この手術に入る前に、場合によっては刑事罰もあり得るだろうと、

覚悟せずにはいられませんでした。

今まで苦労してきた若い麻紀さんに、是非とも幸せになってほしいし、

そんな麻紀さんとご主人のために、子宮を残す努力をぎりぎりまで頑張るつもりでした。

それができなければ、医者ではありません。

しかし、どこまで頑張っていいものか。

きちんと見極められるのだろうか。

結果が悪かったら、書類送検ぐらいはされるんだろうな。

そう、思っていました。

 

帝王切開の前に、緊張しながらもそんとなことが思い浮かんでしまう現実が

ちょっと悲しくなりました。

 

 

固定リンク | コメント (62) | トラックバック (2)