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2008.05.03 20:01 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 27

町医者の問題意識:(4)価値観

恵理さん(仮名)は、不眠、頭痛、無月経、疲れやすさを主訴に受診された方です。

もうすぐ1歳になる男の子のママですので、もしかして育児が大変なのかな、と思い

それとなくお話を向けてみました。

 

聡明な恵理さんが語ったお話は、以下のようでした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

恵理さんは結婚前、大変なエリートコースにのった、職業婦人でした。

仕事に自分の存在意義を感じ、仕事は天職であり悦びの源であり、

生活の全てだったそうです。

仕事がどんどん発展して、活き活きと充実した毎日を送る中、

予定外に妊娠をしました。

迷った末、中絶を考えたそうですが、

当時の彼(現在のご主人)に、「お願い、産んで!」と頼み込まれて

考え直し、ご結婚されたそうです。

 

妊娠・出産の経過は良好でした。

しかし、どうしても赤ちゃんに愛情が湧きません。

何でも人並み以上に上手にこなしてきた恵理さんですが、

子育ては、そう思うようにいくものではありません。

ご主人は赤ちゃんをかわいがるのですが、恵理さんの辛い気持ちはわかってくれませんでした。

恵理さんを庇う気持ちもあったのかも知れませんが、

ご主人と赤ちゃんが2人で寝て、恵理さんは一人で寝ていたそうです。

周囲からは「育児のストレスね」と言われ、お姑さんからは叱咤激励され、

実のお母様には「心配をかけたくない」と話すこともできないまま、

恵理さんは孤立し、追い詰められて行きます。

 

楽しかった独身時代を思い出します。

快活な恵理さんはお友達が多く、

常に誰かと会っては、食べて、飲んで、しゃべっていたそうです。

大好きだった仕事、自分が一番輝いていた時間。

でも、妊娠によって生活の自由はなくなり、

築いてきたキャリアを捨てて、思うようにならない不本意な育児をやっている、今の自分。

子供を愛せず、育児に幸せを感じられない自分は、誰にも認めてもらえない・・・

これでは頭痛くらい起きても、当たり前でしょう。

 

恵理さんの言葉です。

「同性愛は法的に認められても、

母性のない女は、女としても人としても、認めてはもらえないんです」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

元来、女性は妊娠・出産に幸せを感じ、

自然と子供に愛情を感じるものと思われていました。

しかし、価値観の多様化と言われて久しい現在は、

必ずしもそうではなくなりました。

特に女性が「子供に愛情が持てない」と口にするのは、非常に勇気が要ります。

密かに同じ悩みを抱える女性のために、また、認められない価値観に苦しむ方のために、

このお話を綴りました。

 

痛み、お年寄り、モラル、多様な価値観。

町医者の課題は尽きず、挑戦は今日も続くのです。

 

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