| 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 3 | ||||
| 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
| 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
| 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
| 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
外来に、産後1ヶ月健診の方がいらっしゃいました。
順番が来たのでお呼びすると、
コンコン、という元気のいいノックの音に続いて入って来たのは、
生まれた赤ちゃんの、お兄ちゃんです。
4,5歳でしょうか。
入るなり、”きをつけ”の姿勢で私に向かって
「せんせい、いもうとのおさんのときは、ありがとうございました」
もう、感激のあまり、全身の骨がずるんと抜けそうになります(笑)
後でママにお聞きしたら、お産の時、お兄ちゃんは
ママにつき切りで、励ましてくれたのだそうです。
その姿を見た私が
「お兄ちゃんが励ましてくれたおかげで、いいお産ができましたね」
と、褒めたらしいのです。
それが嬉しくて、ありがとうを言いたくて、
前の晩からお礼の挨拶を練習して、来てくれたそうです。
あ~~~、感激!!
いいでしょ? 産婦人科医。
固定リンク | コメント (56) | トラックバック (0)
深夜、病院からではない携帯の呼び出し音。
「ふぁい、もしもし」
「あ、ななちゃん、俺・・・」
電話の相手は産婦人科医局の同期、沖田くん(仮名)。
「ああ。おきたくん。どしたの?」
「・・・ななちゃん、あのさ・・・」
「うん?」
「・・・俺って、顔、でかいかな」
「・・・。う、うーん、そおねえ。ま、首も太いんだから、いんじゃない」
「あ、そか。そだよな。ははは・・・」
「ははは」
「・・・・・」
「で、相談は何?」
「・・・最近さ、動悸するんだよね」
「へえ」
「それから、脈飛んだり。夜中に喉渇いて、目が醒めたり。
あとね、ピザとナッツとフライドチキン食ったら、吐いちゃった」
「・・・」
「血液検査したらさ、肝酵素全部3桁だった。エコーあてらた、真っ白だったし」
「え・・・」
「でね、ななちゃん俺、思うんだけれど、
無罪判決が出て、控訴されるくらいなら、あの地検の庭に麻の実まいてこようかと思って」
「あ、麻の実?」
「うんそう。で、生えて来た頃に、警察に通報する。
あのさ、どうせ俺、もう肝臓も身体もぼろぼろだし、
毎週5連直とかでくたくただし、
このまま生きて産婦人科医やるより、地検をとっちめた方が
多くの生命を助けられるんじゃないかと思うんだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここで、目が醒めました。
あ、なんだ、夢か・・・
固定リンク | コメント (58) | トラックバック (2)
もう、何年も前のことです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕方、私が外来で診ていた妊婦さん・裕美さん(仮名)が
陣痛が始まったので、今からいらっしゃるという連絡を受けました。
病棟で到着をお待ちしていたら、何故か入り口の警備室から電話がかかってきました。
「先生! 妊婦さんがお腹痛がって、立てないみたいです」
助産師と一緒に玄関に飛んでいくと、裕美さんがお腹を抱えて、うずくまっています。
痛がり方が、尋常ではありません。
にわかに緊張が走ります。
すぐに病棟に運んで、内診台に上がってもらったら、血性羊水が流れています。
赤ちゃんの心音は聴取できず、エコーをあてたら・・・
心臓は、既に、止まっていました。
嗚呼・・・
「裕美さん」と呼びかけると、
怯えきった目が私の顔を捉えて、一瞬表情が緩みます。
愛おしさが、こみ上げて来ます。
しかし、告げなくてはなりません。
「裕美さん、残念だけれど、赤ちゃん・・・亡くなっているみたい・・・」
「えっ・・・。先生、私はいいから、赤ちゃん助けて・・・」
なす術は、ありませんでした。
常位胎盤早期剥離です。
通常はお産になってから剥がれてくるはずの胎盤が、先に剥がれてしまう、
原因不明の恐ろしい病気です。
胎盤が剥がれてしまえば、赤ちゃんに酸素が行かなくなりますので、
赤ちゃんは数分で亡くなります。
さらにDICという血液凝固異常を併発すると、
血が止まりにくくなる一方で、血が固まり過ぎて血栓ができてしまうことがあり、
母体の生命も危険です。
なるべく早めに、死んだ赤ちゃんをお腹から出さないとなりません。
帝王切開が頭に浮かびましたが、準備する間もなく分娩が進行して、
あっという間にお産になりました。
急激に進んだお産にありがちなのですが、弛緩出血や頚管裂傷を起こすことがあります。
裕美さんの場合もやはり、なかなか血が止まりませんでした。
両手で子宮を圧迫して止血を試みますが、叶いません。
産婦人科医3人がかりで出血点を確認しようとしても、
子宮を圧迫している手を緩めると、ジャーッと血が出て、何も見えません。
輸血をオーダーし、院内にいた他科の先生にも来てもらって、
3本の点滴ルートから、輸血を注射器で流し込みます。
産婦人科部長が、決断しました。
「だめだ、開腹しよう」
お腹を開けてみて、全員が驚きました。
子宮頚管から子宮の壁に向かって、ざっくりと裂けています。
頚管裂傷が延長した、子宮破裂です。
子宮、取らないと、だめかな・・・
しかし部長が、粘ります。
鮮やかな手際で、すいすいと破裂した子宮壁を縫合し、
あっという間に縫い終わりました。
部長すごい、と思ったのも束の間、DICという凝固障害を引き起こしており、
縫合した針穴からも血が流れています。
もはや縫合では止血できません。
麻酔科の先生が、凝固因子をどんどん点滴します。
これで止血はできますが、今度は過凝固になって、血栓症を引き起こす危険があります。
しかし今、目の前の出血を止めないことには、裕美さんを救命できません。
最終的に出血は止まり、子宮を残せました。
裕美さんはICUに入院し、DICに対する厳重な治療を受け、
一時は透析をする状態になりましたが、生命は助かりました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
産婦人科医をしていると、全身の血液が沸騰するような、恐ろしい思いをすることがあります。
そのうちの何例かは、常位胎盤早期剥離によるものでした。
恐ろしく悲しい病態です。
固定リンク | コメント (56) | トラックバック (6)
戦場に向かうような気持ちで、手術に入ることがあります。
麻紀さん(仮名)は、前回帝王切開、前置胎盤の妊婦さん、
あの福島県立大野病院事件でお亡くなりになった妊婦さんと、同じ状態の方です。
考えられる範囲で、あらゆる準備をしました。
術者は私ですが、助手には産婦人科部長に入ってもらいます。
麻酔科の先生にも、よくよくご相談しておきました。
そして、麻紀さんとご主人にも、厳しい説明をしました。
前置胎盤で、通常の帝王切開より出血が多くなる可能性のあること。
もしかしたら、癒着胎盤である可能性があること。
場合によっては、子宮を取らないとならないかも知れないこと。
そして、麻紀さんと同じ状態の妊婦さんで、お亡くなりになった例があること。
私の話を静かにお聞きになっている麻紀さんご夫婦は、何と福島事件をご存知でした。
当然のことながら子宮温存を強くご希望されつつ、
万が一の場合は子宮全摘もやむを得ないということを、ご理解下さいました。
手術は、午後からでした。
午前の外来が終わってから、お昼を食べる時間はあったのですが、
緊張のあまり、何も喉を通りそうにありません。
レモンボルビックをひと口だけ飲んで、手術室に向かいました。
幸いなことに、物々しい準備や、皆の厳粛な覚悟をよそに、
あっけなく胎盤は剥がれ、ほどなく止血し、無事に手術は終了しました。
全身の力が、抜けます。
手術室の前で、ご主人が緊張した面持ちでお待ちになっていました。
無事手術は終了し、輸血もせず子宮も取らずに済んだことを説明し、
「もう一人いけますよ」と言い添えると、
ご主人は涙されていました。
麻紀さんの乗ったストレッチャーを引いて、病棟に帰る途中のことです。
新生児室で先に赤ちゃんと会ったご主人が、麻紀さんに話しかけます。
「赤ちゃん、かわいいぞ。なあ、ほんっっとに赤ちゃん、かわいいぞ。
俺、チューしちゃおうかと思ったもん」
麻紀さんもナースも私も、一斉に笑い出します。
産婦人科医として、至福の時です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
手術が無事にできたのも、過剰なくらい厳重な準備ができたためだと思っています。
これも、大野病院事件という、苦くも貴重な前例があったおかげです。
あの事件がなかったら、あそこまでの準備はできなかったでしょう。
しかし、あの事件の顛末と昨今の状況を見ると、
この手術に入る前に、場合によっては刑事罰もあり得るだろうと、
覚悟せずにはいられませんでした。
今まで苦労してきた若い麻紀さんに、是非とも幸せになってほしいし、
そんな麻紀さんとご主人のために、子宮を残す努力をぎりぎりまで頑張るつもりでした。
それができなければ、医者ではありません。
しかし、どこまで頑張っていいものか。
きちんと見極められるのだろうか。
結果が悪かったら、書類送検ぐらいはされるんだろうな。
そう、思っていました。
帝王切開の前に、緊張しながらもそんとなことが思い浮かんでしまう現実が
ちょっと悲しくなりました。
固定リンク | コメント (62) | トラックバック (2)
恵理さん(仮名)は、不眠、頭痛、無月経、疲れやすさを主訴に受診された方です。
もうすぐ1歳になる男の子のママですので、もしかして育児が大変なのかな、と思い
それとなくお話を向けてみました。
聡明な恵理さんが語ったお話は、以下のようでした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
恵理さんは結婚前、大変なエリートコースにのった、職業婦人でした。
仕事に自分の存在意義を感じ、仕事は天職であり悦びの源であり、
生活の全てだったそうです。
仕事がどんどん発展して、活き活きと充実した毎日を送る中、
予定外に妊娠をしました。
迷った末、中絶を考えたそうですが、
当時の彼(現在のご主人)に、「お願い、産んで!」と頼み込まれて
考え直し、ご結婚されたそうです。
妊娠・出産の経過は良好でした。
しかし、どうしても赤ちゃんに愛情が湧きません。
何でも人並み以上に上手にこなしてきた恵理さんですが、
子育ては、そう思うようにいくものではありません。
ご主人は赤ちゃんをかわいがるのですが、恵理さんの辛い気持ちはわかってくれませんでした。
恵理さんを庇う気持ちもあったのかも知れませんが、
ご主人と赤ちゃんが2人で寝て、恵理さんは一人で寝ていたそうです。
周囲からは「育児のストレスね」と言われ、お姑さんからは叱咤激励され、
実のお母様には「心配をかけたくない」と話すこともできないまま、
恵理さんは孤立し、追い詰められて行きます。
楽しかった独身時代を思い出します。
快活な恵理さんはお友達が多く、
常に誰かと会っては、食べて、飲んで、しゃべっていたそうです。
大好きだった仕事、自分が一番輝いていた時間。
でも、妊娠によって生活の自由はなくなり、
築いてきたキャリアを捨てて、思うようにならない不本意な育児をやっている、今の自分。
子供を愛せず、育児に幸せを感じられない自分は、誰にも認めてもらえない・・・
これでは頭痛くらい起きても、当たり前でしょう。
恵理さんの言葉です。
「同性愛は法的に認められても、
母性のない女は、女としても人としても、認めてはもらえないんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
元来、女性は妊娠・出産に幸せを感じ、
自然と子供に愛情を感じるものと思われていました。
しかし、価値観の多様化と言われて久しい現在は、
必ずしもそうではなくなりました。
特に女性が「子供に愛情が持てない」と口にするのは、非常に勇気が要ります。
密かに同じ悩みを抱える女性のために、また、認められない価値観に苦しむ方のために、
このお話を綴りました。
痛み、お年寄り、モラル、多様な価値観。
町医者の課題は尽きず、挑戦は今日も続くのです。