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2008.02.21 18:45 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 26

恩師井上先生との往復書簡

少し時間は経ちましたが、手術の合併症が続きました。

尿管や膀胱を損傷してしまいました。

患者さんには、大変申し訳ありません。

幸いにして、後遺症が残るようなものではありませんが、

治るまでの間、患者さんには多大なご負担をかけてしまいます。

 

合併症は、一定の確率で起こり得ることは頭ではわかっているのですが、

外科系の医師としての自信が、根底から揺らぎます。

 

産婦人科医としての人生において、多分第二の苦境にいました。

こんな自分が、今後もopeをやる資格があるのだろうか。

「もう、辞めようかな・・・」

そんな気にもなります。

しかし、この産婦人科医不足の状況下で辞めてしまうことが、

本当に正しいと言えるのだろうか。

 

こんな時に相談できる人は、産婦人科の恩師・井上先生(仮名)です。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

<井上先生へ>

尿路損傷を続けてやってしまいました。

・・・・(合併症の詳細な説明)・・・・

正直なところ、産婦人科医を辞めたい、と思ってしまいます。

しかし空前の産婦人科医不足の今、自分が辞めることが

社会にとって、医局の一員として、正しいことなのでしょうか。

ここで逃げてはいけない、という思いもありますが、

続けるのだとしたら、どう気持ちを持って行ったらいいのでしょう。

悩んでおります。

 

<ななへ>

失敗を恐れていたら、人間は進歩しません。

偉そうなことを言っている僕が犯した過ちの数は、ななの比ではありません。

それでも僕が立ち直っているのは、同じ失敗を繰り返さないこと、

自分の経験を次の世代に伝えることが、使命であると解釈しているためです。

ななは、僕が誇る僕の後継者です。

もし産婦人科医を辞めるのだとしたら、共に働いたあの日々は

一体何だったのでしょう。

辞めるのは止めましょう。

・・・・(症例に関する詳細なアドバイス)・・・・

それぞれの症例には、少しずつ違いがあるはずです。

それを認識して、次に役立てましょう。

ななは次の世代を育てなくてはなりません。

それが僕の願いです。

立ち直らなくてよいのです。今のままでいて下さい。

 

<井上先生へ>

先生の言葉に、涙しております。

本当に本当に、ありがとうございます。

そうでしたね・・・似たような合併症ではありますが、

それぞれ違いがあります。

詳細に検討して、反省すべき点をもっと具体的に肝に銘じます。

後達を育てることは、井上先生になったつもりで頑張っています。

自分が若いドクターたちに執刀させる立場になって、

井上先生がいかに忍耐強かったか、今更ながら思い知っています。

前任地で遭遇した新生児仮死に次ぐ、産婦人科医としての人生の危機を迎えていますが、

こんな時に親身になって下さる師匠に出会えたことは、

何ものにも代えられない、大きな財産です。

この事態を見ている後輩たちに、そう話します。

そろそろ泣き止まないと外来に出られなくなるので、これで送信します。

敬愛する井上先生へ

 

<ななへ>

「敬」は要りませんよ。

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2008.02.18 02:38 |  診療  |  医療事故  |  なな  | 推薦数 : 75

2月18日に記す

新潟大学産婦人科教授  田中憲一先生

 

不遜な文言を、どうかお許し下さい。

 

先生が、福島県立大野病院事件の検察側証人になられてから、

生活が一変したのではないでしょうか。

産婦人科の狭い世界で、居づらい思いはしていませんか。

心休まる暇は、あるのでしょうか。

 

この裁判、一審無罪の後も、控訴されるのではないかと思います。

もし先生が、これまでの成り行きを悔いていらっしゃるのでしたら

どうか勇気を持って、検察側証人を降りて下さい。

 

この事件のために、日本中の医師たちが悲鳴を上げています。

一日も早く裁判に終止符を打ち、

壊れかけた医療を、

我々の愛する産婦人科医療を、

共に守って行っては、下さいませんか。

 

 

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2008.02.13 17:37 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 30

風邪をひいた妊婦さんへ

季節柄、風邪をひいた妊婦さんが何人も受診されます。

風邪をひいた妊婦さんは、大体2通りのタイプがあるようです。

 

まず、赤ちゃんが元気だとわかると、安心するタイプです。

このタイプの妊婦さんは、赤ちゃんの心音を聞いて、エコーで元気な姿を見ると

ほっと笑顔になり、安心して帰って行きます。

 

もうひとつは、風邪薬を希望するタイプです。

妊娠中でも、病院が出すお薬なら安心と思っていらっしゃるのでしょう。

咳やくしゃみ、頭痛などつらい症状を取るために、お薬がほしいとおっしゃいます。

 

風邪をひいた妊婦さんたちに、お伝えしたいことがあります。

40度近い高熱が続かなければ、風邪自体が赤ちゃんに影響することはありません。

昔からある風邪の治し方で、充分です。

おうちであったかくして保湿して、栄養と水分を摂って、寝ていて下さい。

ママにとっても赤ちゃんにとっても、それが一番。

寒い中病院に行ったり、風邪薬をのむことに、あまりメリットはありません。

もし「インフルエンザかな」と思ったら、病院に行けば検査はできますが、

インフルエンザの薬は使えません。

妊婦さんでも使える解熱剤はありますので、高熱が続いたら病院に行って下さい。

 

そして、病院にかかる場合は、なるべく急患にならない時間帯に行って下さい。

最近は、どこの病院も急患で一杯で、一刻を争う患者さんの治療が優先されます。

寒い中待たされたら、たいへん。

かかりつけの病院がお休みの場合は、

救急病院にかかる場合でも、必ず電話をしてから行くようにして下さい。

ドクターは全員手術中、なんてこともあります。

個人病院も、時間外はぎりぎりの人数で切り盛りしていますので、

なるべく時間内にかかるようにしましょう。

施設によりますが、60歳70歳の助産師・看護師が

数日に1回当直しているのが現状です。

限られた医療資源=医療設備と医療者の労働力を、本当に必要な患者さんのために使えるよう

協力して下さい。

 

妊婦さんの風邪以外にも、こんな場合は「本当に今すぐ救急受診するべき?」と、

まずは一旦考えましょう。

・妊娠初期の、ごく少量の出血

・妊娠中の、休めばおさまる程度のお腹の張り

・妊娠中の便秘や腰痛

・生理痛

・避妊の失敗

 

もうひと言。

臨月の陣痛や破水で、あわてて救急車を呼ばないようにしましょう。

まず大きく一回、深呼吸をして、かかりつけの病院に電話します。

そして落ち着いて、お産のために準備したバッグを持って、自分の足で病院に行きましょう。

それで充分、間に合います。

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2008.02.07 18:01 |  診療  |  医療事故  |  なな  | 推薦数 : 77

福島県立大野病院事件に思う

平成18年2月18日、福島県立大野病院の産婦人科医、加藤先生が逮捕されて

もうすぐ2年経ちます。

平成16年12月、加藤先生は前置胎盤の妊婦さんの帝王切開を執刀されました。

手術中に、胎盤が子宮壁に強固に癒着していることが判明し、剥離の際に大量出血、

加藤先生と手術スタッフたちは、懸命の治療をしますが、

非常に悲しく残念なことに、産婦さんは亡くなりました。

 

まずは、亡くなった産婦さんに、心から哀悼の意を捧げます。

 

手術から1年2ヶ月の後、加藤先生は業務上過失致死等で、福島県警に逮捕されました。

手術から1年以上経っているのに「証拠隠滅の恐れあり」、

ご自宅では、臨月の奥様がお待ちになっているのに「逃亡の恐れあり」として、

在宅起訴ではない、逮捕でした。

 

逮捕には、100を超える医学系学会が、抗議声明を表明しました。

現在も裁判は続いており、証拠調べは終了、次回は論告求刑が予定されています。

 

裁判では、癒着胎盤の術前診断や、胎盤剥離にクーパーを使ったことの可否が争われていますが、 

何だか違う気がするのです。

この他に、ずっと思っていることがあります。

 

① 加藤先生は、出血に対する処置は、最終的には完遂しています。

  手術経過を見直してみましょう。

------------------------------------------------

    14:50 児娩出、濃厚赤血球5単位輸血

  16:30 濃厚赤血球10単位輸血し、子宮全摘開始

  17:30 濃厚赤血球10単位輸血、子宮全摘終了

  18:00頃 心室細動、蘇生開始

  19:01 死亡確認

------------------------------------------------ 

出血を止められず、輸血も間に合わずに、血圧が低下して死亡しているのであれば、

過失の有無が問題になるのも、まだわかります。

しかし、胎盤剥離に固執せずに子宮摘出に切り替えることによって、止血を得ており、

その後、心室細動が起こって、亡くなっているのです。

加藤先生に、あれ以上何をし得たでしょうか。

 

② 医療が介入していなかったら、母児共に救命し得なかったケースであることが、

 忘れられていないでしょうか。

 麻酔下でも剥離できなかった、前置胎盤・癒着胎盤です。

 しかし、医療が介入した結果、児だけは救命できました。

 「母児共に救命できない」ことと、「母児共に救命できる」ことの間には、大きな溝があります。

 医療が介入すれば、その大きな溝を一足飛びに埋めることができて当然、

 できなければ犯罪行為なのでしょうか。

 医学はまだまだ発展途上、不確実なものです。

 発展を追求する途上で、追求者たちが犯罪者として裁かれるのであれば、

 誰が医学を発展させて行けると言うのでしょうか。

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