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2008.01.16 18:30 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 27

産婦人科医療に残されたもの

恵子さん(仮名)は、高度不妊治療によってご妊娠された妊婦さんです。

いわゆる高齢妊娠の方には多いのですが、とにかく熱心です。

 

毎回、ご主人と2人で妊婦健診にいらっしゃって、

満面の笑顔で赤ちゃんのエコーに見入っています。

赤ちゃんが口など開けようものなら、もう、大はしゃぎ(笑)。

ご主人は、とにかく恵子さんが大事で大事で、

お腹の赤ちゃんが大事で大事で、

常に愛情あふれる表情で、恵子さんをいたわっていらっしゃいます。

とても微笑ましいご夫婦で、お会いする度に私の方が幸せな気持ちになっていました。

 

妊娠後期になると、今度はお母様もご一緒にいらっしゃるようになりました。

狭い診察室に大人3人、まあ入れなくはないですが、

お母様もおんなじ調子で、恵子さんとお腹の中の赤ちゃんをパワー全開でいたわります。

エコーが終わると、

ご主人とお母様と2人がかりでエコーゼリーを拭き拭きして、

ご主人が手を取って、お母様が背中を起こして差し上げています。

私の話も、皆さん全員で身を乗り出して

メモを取りながら、真剣な表情でお聞きになっていますので、

こちらもつい、説明に熱が入ります。

健診が終わると、恵子さんもご主人もお母様も私も

みんな一緒にぐったり、という感じでした(笑)。

 

分娩方式に関して、よく話し合いました。

恵子さんは、自然分娩をご希望されています。

いわゆる高齢初産ですので、微弱陣痛や分娩停止、胎児仮死のリスクがあること。

自然分娩にトライしても、途中で帝王切開になってしまう可能性があること。

恵子さんの場合、病院や産婦人科医によっては

最初から帝王切開を標準的方針にしているケースもあること。

 

その結果、自然分娩にトライし、

「ちょっとでも危険になったら、帝王切開にしましょう」ということになりました。

 

お産は、37週~41週くらいまでの間、いつ始まるかわかりません。

多少冒険的なお産ですので、その間、気が抜けません。

緊張半分と、

恵子さんご一家のことだから、どんな素敵なお産になるだろうというわくわく半分との心持ちで、

その日を待ちました。

 

ある日の夜中、恵子さんの陣痛が始まりました。

ご入院と一緒に、私も病院に入ります。

私より10歳は年上のご主人、それぞれのお母様、全員が徹夜です。

 

しかしこちらの心配をよそに、非常に順調に経過し、

普通にお産されました。

赤ちゃんも元気です。

 

リスクを伴いながらも、妊婦さんがご家族に囲まれて頑張ってお産をし、それを見守る。

産婦人科医の、ロマンです。

しかし今のような世の中になってしまって、こんなお産は、どんどん減ってきています。

 

私自身も、今回のようなお産はこれで最後になるかも知れない、と思いがなら

ここにしたためます。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

産科医療を取り巻く環境は、年々厳しくなっています。

長時間勤務、緊急呼び出し、当直の多さに加えて、

どんどん離職者が出て、勤務条件は厳しくなる一方です。

加えて、訴訟に巻き込まれる割合が年々上昇し、

さらに産婦人科医全体の高齢化が進み、新人医師は減っています。

未来は明るくありません。

 

そんな中、産婦人科医に残されたものは、夢だと思うのです。

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