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2008.01.07 18:22 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 24

「お正月をやろうよ。」

不妊のために悩む女性は、大勢いらっしゃいます。

 

約半年前の記事では、様々な苦悩を何とか乗り越えて体外授精に到達したものの、

受精卵を子宮に戻す段階で、どうしても受け入れられず、

クリニックの最寄りの駅で過換気発作を起こしては苦しむ、B子さんのお話をしました。

 http://blog.m3.com/nana/20070719/1

 

B子さんのような女性は、実は稀ではありません。

しかし、ほとんど同じ境遇にありながら、

ご主人のひと言の違いによって、全く違う転帰をたどった方がいらっしゃいます。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

洋子さん(仮名)は、遅い結婚をされた、いわゆるキャリア女性です。

仕事に対して明確な目標を持ち、「この仕事は、天職だと思っています」と目を輝かせていました。

ご本人は、赤ちゃんは自然に授かるならそれでいい、というお考えですが、

ご主人がとても子供好きな方で、赤ちゃんを熱望されていました。

それなら、愛するご主人のために子作りをしよう、と決心し、

数々の段階を踏んで、体外授精にたどり着きました。

 

しかし、B子さんと同じ苦悩に陥りました。

受精卵の凍結保存まで成功していながら、子宮に戻すステップを、

どうしても心と身体が受けつけられません。

 

洋子さんはそれまで、本当は自分の望むことではない不妊治療と体外授精に

様々な無理を圧して、頑張りました。

産婦人科の診察なんて、誰だって嫌なものです。

恥ずかしいし、痛いし、怖いし、気持ちわるいし。

その上、洋子さんが何よりも大切にしていた仕事を休まなくてはなりません。

当然心は沈む一方で、感情のコントロールが困難になり、日常生活にも支障が出始めてきました。

 

ご主人は、洋子さんをとても大切になさる、やさしい方です。

診察室に入ったり、椅子に座ったりする仕草ひとつひとつに、

洋子さんに対する深い愛情がにじみ出ています。

しかし、多くの男性がそうであるように、不妊治療に通う女性の苦しさまでには

なかなか思いが及びませんでした。

洋子さんが、検査のためにキリキリと痛むお腹を抱えて帰宅しても、

労いの言葉をかけてはくれなかったそうです。 

 

ご主人を愛するがために頑張った洋子さんですが、ある日とうとう音を上げます。

「もうだめ、ごめんね、私にはもう、無理」

しかし、ご主人の返事は

「僕は子供がほしいから」、だけ。

 

洋子さんは、辛く苦しい気持ちをわかってもらおうと、説明しました。

 

クリニックに向かう途中、車道にふらりと歩み出て、トラックにはねられちゃえばいいと思う。

もう、仕事も何もかも放り出して、実家に帰りたい。

子供がほしいのはわかるけれど、子供がいないのなら私は要らないというのなら、

離婚して下さい、一人で生きて行きます。

 

それでも、それでもご主人の返事は

「僕は、子供がほしい。子供と、洋子と、3人で生きて行きたい」。

 

妊娠・出産は、甚だしい男女不平等です。

少なくとも、身体的負担や生命と健康の危険は、女性と男性では10対0。

男性にとっては楽な反面、愛する妻のために何ひとつ代わってあげられない苦しみもあるでしょう。

 

しかしご本人は、「泣かない日は一日もありません」というところまで追い詰められています。

こんな時我々医療者に、一体どんなケアができるのだろう、と考えあぐねたまま、事態は停滞しました。

 

ある日、転機は訪れました。

 

お正月の早朝、洋子さんは不妊クリニックに向かおうとします。

街には、トラックどころか、車もほとんど通りません。

日本晴れの空の下、大通りで足がすくんで、呼吸が苦しくなってきた洋子さんは、

何とか必死で、ご主人にメールを打ちます。

 

「だめ、もう、行けない」

 

待つこと数分、返って来たメールは

 

「行かなくていいから、お正月をやろうよ。帰っておいで」。

 

短いメールなのに、終わりの方は、涙で読めなかったそうです。

 

洋子さんの言葉です。

「胚移植に行けない私を主人が受け止めてくれたことで、すっと肩の荷が降りました。

 ひと月くらい、2人だけの時間を楽しんだら、子宮に戻そうと思います。」

 晴れ晴れとした、笑顔でした。

 

洋子さんがどうしても受け入れられなかったものは、

受精卵を子宮に戻すことでは、なかったのでしょう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  

仕事をしながら不妊治療に通う女性は、増える一方です。

しかし、「不妊治療のために仕事を休みます」とはなかなか言えないのが現状でしょう。

日本を上げて、少子化対策と言っていながら、何故なのでしょうね。

不妊治療は、愛し合う2人の子供を作ろうとする、尊い行為です。

赤ちゃんを望む女性たちが、堂々と「不妊治療に行きます」と言えるのが本来の姿だと、

私は思っています。

 

そして、赤ちゃんを望みながらも、

病院に行くことをためらい、誰も知らないところで心を痛めている女性も、

大勢いらっしゃいます。

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