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2007.09.20 17:31 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 18

「”オギノ式”乱用者に告ぐ」

先日、理由あって人工妊娠中絶術を施行しました。

胎児が少し大きくなってからの手術でしたので、

肋骨と思われる骨の一部が見えて、背筋が凍りました。

 

多くを語るよりも、ご紹介したい談話があります。

荻野式避妊法を考案された荻野久作先生による、歴史に残る談話

「”オギノ式”乱用者に告ぐ」です。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 どんな職業についている人でも、それぞれの仕事の上の喜びというものがある。

大工さんは、木の香も新しい家を前にして、胸をふくらませるであろうし、

教師もまた、巣立っていく教え子の後姿に自分の夢を描いているに違いない。

 私が専門にしている産婦人科医の場合も、それはまったく同じである。

難しいお産を無事に切り抜けたとき、

まだ人間の態をなしていないような赤ん坊が手足をばたつかせて、

「オギャア」と第一声を放つその瞬間ほど、

我々の心を解きはなしてくれるものはない。

この道を歩みはじめてから六十年近く、私はもう八十歳を越えているが、

それでも勤務先の病院でこの「オギャア」を毎日のように耳にするたびに、

朗らかな気分になる。

 沈痛な面もちで、為すこともなくただうろうろと廊下を歩き回っている若い夫に、

何か祝福の言葉でも贈ってやりたいような気分になるのも、

おそらくは「生命の誕生」というものが持つ犯しがたい価値に由来するのであろう。

私は、産婦人科医を、すばらしい職業だと信じている。

 

(中略)

 

一人一人のケースについて、我々産婦人科医が本気で悩んでいたら

自分が死んでしまうだろうから、

あとは教育なり政治なりにおまかせするのが順当だが、

どうしても言っておきたいことがある。

それは、世の男性諸君がもっと真剣に、

深刻に子供とは何であるかを考えるようになってほしい、ということである。

子供を育てていく自信があったら、

親の誇りと責任に於いてすばらしい子供を生むように夫婦で協力する。

もし、子供を生むのはまだ無理だと考えるなら、

そんな自信が湧いてくるまで、

妊娠しないように慎重な配慮をするのが当然である。

 

(中略)

 

性に対する不当な抑圧感が解けて、じめじめした感じが無くなったことは喜ばしいが、

反面、よい加減な解説書が巷にあふれて、

科学に対する安易な考え方を植え付けてしまう傾向も、困ったものである。

 (中略)

金があればレジャーに費し、

欲情のおもむくままに、深く考えもせずに行動して、

その結果については人間としての最低の責任すら果たせないような、そんな人間に、

いったい何がなせるというのであろうか。

 

 

          ~昭和39年、文藝春秋第42巻第2号より~

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