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利枝さん(仮名)の主訴は、ずばり「いらいら感」でした。
女性が心身の不調のために病院に来る場合、
複数の症状にお悩みのケースが、圧倒的に多く見られます。
いらいら感だけでなく、不安、気分が落ち込む、やる気がしない、もの悲しい、
頭痛、腹痛、肩こり、めまい、不眠、等等。
ところが利枝さんは
「一日中いらいらして、子供にも主人にもあたり散らしてしまうんです。
いけないと思っていても、どうしても自分では止められません」というだけです。
お友達に相談したら、「若年性更年期じゃない?」と言われて、受診されたといういきさつです。
しかし利枝さんは、5歳と1歳のお子さんのいる30代の女性、
当然月経も順調に来ており、更年期に程遠いのは明らかです。
「いらいら」の内容は、なかなか壮絶でした。
1歳のお子さんにご飯を食べさせている時、思うように食べてくれないと
無理やり口の中に押し込んでしまう。
5歳のお嬢ちゃんがじゅうたんの上にジュースをこぼした時、お手洗いに閉じ込めてしまい、
窓越しに、泣き叫んでいるお嬢ちゃんを見た通りがかりの人が、警察に通報してしまった。
ご主人のご実家から送られてきたお菓子の包みに
「たまには孫を連れて、遊びに来て下さい」とあるのを見て頭に血が昇り、
お菓子を床に叩きつけてしまった。
ご主人は非常に忙しい「仕事人間」で、ほとんどおうちにいないようです。
しかし、夜遅くご帰宅されるご主人にもあたってしまうのだそうで、
暴言はもとより、お子さんたちにあたっていることをたしなめられると
食器やペットボトルを投げつけてしまうことも、日常茶飯事とのこと。
利枝さんは「カウンセリング外来」に通院されていましたが、
いらっしゃると、とにかく
「あんなこともやってしまった、こんなひどいことも言ってしまった、
悪いとわかっているのに止められない、こんな自分が大嫌い」
というお話ばかりです。
ただ聴いて、苦しい胸のうちを言語化させることに終始し、
しばらくは何の進展もないまま、月日が過ぎました。
ところが経過中、ご主人の業務内容が変わりました。
それまでとはうって変わって、定時に帰って来れるスケジュールが、
しばらく続くとのこと。
嬉しさ半分と、戸惑い半分という表情で、そのことをお話になる利枝さんでしたが・・・
2週間くらいしたところで、利枝さんのいらいらは、霧が晴れるように消えました。
ご主人に対する暴言・暴力は影をひそめ、
1歳のお子さんが、今までのペースでのんびりご飯を食べても
ゆっくりと待っていられるようになりました。
5歳のお嬢ちゃんのことで、利枝さんはたまに幼稚園に呼び出されていました。
お嬢ちゃんが、他の園児に噛み付いて怪我をさせた、とか、
器物を壊したとか、お遊戯の練習に一人だけ入ろうとしない、などでした。
「呼び出しが全くなくなりました。娘にどんな辛い思いをさせていたのかと思うと、
不憫でなりません」
利枝さんは、結局何もできなかった無力な医者のもとを、卒業されて行きました。
一緒にいることと、充分なコミュニケーションを取ること。
良好な人間関係の、基本なのでしょう。