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2007.06.20 18:11 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 12

赤ちゃんを待つ、それぞれの人間模様

妊娠・出産に係る仕事をしていると、思わぬ人間関係を見ることがあります。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

園子さん(仮名)は、妊娠を主訴に初診された時から、

重い悪阻のため、真っ白な顔で診察室に入っていらっしゃいました。

年輩の女性とご一緒で、すぐにお姑さんであることがわかりました。

園子さんに、お食事は摂れていますか、のどは渇きますが、などの問診をするのですが、

全てご本人ではなく、お姑さんが答えてしまいます。

「先生、私も2人子供を産みましたけれど、こんなことはありませんでした。 大丈夫でしょうか」

お嫁さんをご心配されてのご質問なのはわかるのですが、

園子さんは、ちょっと所在なさげです。

悪阻は、どんなにひどくても赤ちゃんはちゃんと育つこと、

そもそも体長1cmあまりの生命体に、そんなに栄養は要らないことを説明すると、

ひとまずご納得されたようでした。

 

1週間後いらっしゃった時には、症状はさらに悪化していました。

尿ケトンも(3+)になっています。

入院を勧めたところ、お姑さんは「悪阻で入院ですか?」と難色を示されましたが、

ご本人のご希望により、入院となりました。

 

悪阻は、妊娠初期に出るホルモンが主な原因と考えられていますが、

当然のことながら、精神的な因子も影響します。

入院のいいところは、患者さんとゆっくりお話できるところでもありますので

園子さんに、少しずつお話をお聞きしました。

お姑さんは、園子さんのご主人であるご自分の息子さんを非常に大切にしていること、

お嫁さんである園子さんへの要求は大変厳しく、

ものの食べ方から服装から、家事のやり方の微に入り細に渡って、こと細かに直されていること、

そして従順な園子さんは、全く反発せず、ひとつひとつに従っているらしいことがわかりました。

珍しいお話ではありませんが、園子さんの場合、悪阻に心因性嘔吐が加わっている可能性もあります。

 

現状打開のためのKey personはいないかと、探ってみました。

ご主人はどうやらだめです。

では、園子さんの実のお母様はどうかと思い、それとなくお話を持って行くと

「母にも、今の気持ちを話せずにいるんです。 

 本当のことを話したら、きっとものすごく心配してしまいますから」。

 

妙案が見つからないまま、悪阻の時期が過ぎるのを待っていましたが、

一向に治まる気配のないまま、赤ちゃんだけは順調に育っていました。

 

ある日、園子さんのベッドサイドに行くと、

園子さんは大学ノートを手にして、ぼんやりと眺めていらっしゃいました。

「あ、日記ですか?」とお聞きしたら、

見せて下さったノートには、園子さんのご主人がお好きなメニューのレシピが、

お姑さんの手書きの文字で、びっしりと書かれていました。

元気な時にもらったら嬉しいノートかも知れませんが、

悪阻の時には、如何なものでしょう・・・

 

そうこうするうちに、悪阻の好発時期はとうに過ぎ、

赤ちゃんの性別がわかるくらいの大きさになってきました。

胎児エコーの時に性別を聞かれたので、

「あ、お嬢ちゃんですね」と答えると

「ええ~~~っっ、嬉しい!!」

園子さんは、涙ぐんで喜んでいます。

お聞きしたら、ご主人もお姑さんも、男の子を熱望されているとのこと。

ところが園子さんご自身は、ご両親に大切に育てられ、

特にお母様とは、この上なく仲良しの母娘であるため、

ご自分もお嬢ちゃんを産んで、お母様が園子さんになさったのと同じように、

お嬢ちゃんをかわいがりたいのだそうです。

「男の子だったら、義母に取られてしまいます。 

 でも女の子なら、この子がいれば、私はあの家でやって行けます」。

 

数日後、すっかり元気になった園子さんは、

晴れやかな笑顔で、ご退院されました。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

瑤子さん(仮名)は、とても仲のいいご夫婦で、

ご主人が毎回妊婦健診に付き添っていらっしゃっていました。

ご主人が、瑤子さんのお腹についたエコーゼリーを丁寧に拭き、

手をとって背中を起こしてあげ、愛おしそうにスカーフを肩にかけてあげる姿は、

見る者を幸せな気持ちにします。

また、熱心に胎児エコーをご覧になるので、すっかりエコーをマスターして

「あ、今、耳のあたりに手をやってますね」などと言うようになりました。

助産師に聞くと、やはり妊娠生活に関する注意事項に熱心に耳を傾け、

いつもお2人で目を合わせては、微笑み合っているのだそうです。

また、瑤子さんご自身も大変素敵な女性で、

元々の色香のある美貌に、妊婦さん独特のやわらかなオーラをまとっており、

類を見ない美しさを放っていました。

瑤子さんご夫婦の存在は、ナースたちにはもちろん、外来の受付嬢にまで知れ渡っており、

すっかりみんなの羨望の的でした。

 

ある日の妊婦健診に、瑤子さんがお一人でいらっしゃいました。

「あら、今日はご主人はお休みですか?」と微笑みながらお聞きすると

「ええ。彼のお母様が、亡くなったので」

「・・・えっ?! 瑤子さんは行かなくていいんですか?」

「ええ。カレノオクサマが行っていますから」

 

・・・カレノオクサマ??

 

瑤子さんと、あの熱々の「ご主人」は、実は法律上のご夫婦ではないのだそうです。

ご主人の亡くなったお母様も、瑤子さんのことをご存知で、

孫になる瑤子さんの赤ちゃんを、誰よりも心待ちにしていらっしゃったとのこと。

「この子に会ってもらえなかったのが、残念で・・・」

一瞬、瑤子さんの美しい目が潤んだように見えました。

おばあちゃまに、と、エコー写真を一枚余分に撮ってお渡ししたら、

瑤子さんは、本格的に涙されていました。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

赤ちゃんを待つ、それぞれの心は、窺い知れません。

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