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少しの間、来院していなかった妊婦さん・典子さん(仮名)が、外来にいらっしゃいました。
カルテを開くと、最後の受診が4月末になっています。
健診、さぼったのかな? と思いながら診察室のお呼びすると、
別人のように憔悴し切った典子さんが入って来ました。
ぽつり、ぽつりと話した内容は、こうです。
GWの直前の頃、微熱と倦怠感が出てきました。
本当は自宅で寝ていたかったけれど、兼ねてからの帰省の約束を反故にすることもできず、
不調を圧して移動しました。
ところがどんどん体調が悪化するので、帰省先で病院にかかったところ、
麻疹と診断されました。
妊娠中の麻疹は、対症療法といって、高熱に対する治療くらいしかできませんが、
食事も満足に摂れていない状態だったので、産婦人科に入院しました。
点滴を受けて、少し身体が楽になったと思ったら、
突然お腹が激しく痛くなって、ベッドでうずくまっていると、
数分で、赤ちゃんも胎盤も一塊になって出てしまったのだそうです。
妊娠、19週でした。
妊娠中に麻疹にかかると、流早産のリスクがあること、
分娩直前だと、赤ちゃんにうつる可能性があることは知られていますが、
こんな激烈なことになるとは。
検索すると、報告はありました。
わが国では、2000年頃に麻疹が流行した地域があり、
やはり同様の急峻な転帰をたどった例が記されていました。
特に妊娠中期(妊娠24週未満)では重篤で、
ほぼ全例で麻疹の診断後数時間〜数日のうちに、突然お腹を痛がって、
あっという間に流産・死産に至ったそうです。
妊娠25週以降だと、概ね良好な経過をたどっているようですが。
典子さんは、激しい自責の念に苦しんでいます。
あの時、人ごみに出かけたのがいけなかったんだ。
自分が充分注意しなかったのが悪いのだ。
栄養のバランスに、偏りがあったのかも知れない。
もし、子宮の中が透けて見えるようにできていたら、
赤ちゃんが苦しんでいるのが、わかったかも知れないのに。
流産・死産を体験された妊婦さんは、赤ちゃんの喪失だけではなく、
母としての役割や、娘や嫁(孫を身ごもっている者)としての役割をも、喪失します。
典子さんの悲しみがひとしきり癒えるまでには、相当時間がかかるでしょう。
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麻疹にかかったことのない妊婦さんは、充分に気をつけて下さい。
特に今の東京は、依然として伝染病危険区域です。
なるべく人ごみに出ないで、手洗いとうがい(水でいいそうです)をしっかりやって下さい。
国の公衆衛生を司る人たちは、麻疹ワクチン不足と、麻疹輸出国対策に加えて、
実際に妊婦さんと胎児の犠牲者が出ていることに対して、
充分な啓蒙と対策を講じて下さい。