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2007.04.14 19:37 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 9

幸せを決めるもの

シーラさん(仮名)は、外国から来た妊婦さんです。

妊娠経過は途中までは順調だったのですが、次第に赤ちゃんに発育遅延が見られるようになり、

詳しい検査を目的に、ご入院さました。

ご主人も同じお国のご夫婦で、母国語が英語ではないのですが、

ご夫婦と私と、お互い片言の英語で、何とか意思の疎通ができました。

心を割って話せる友人もいない知らない国で、妊娠しただけでも大変でしょう。

そんな時に赤ちゃんの発育遅延がわかり、

シーラさんは、当然のことながら非常に強い不安を訴えていました。

しかし片言で、私の乏しいボキャブラでは、

シーラさんの不安を受け止めるにも限界があります。

では、ドップラーで赤ちゃんの心音を聞いてもらって、聴覚に訴えるのはどうだろう、

あるいは、超音波で赤ちゃんの動いている様子を見てもらって、視覚に訴えるのは如何か。

いろいろ試しましたが、シーラさんの不安を和らげることは、できませんでした。

 

時期が来て、シーラさんは、小さいけれど元気なお嬢ちゃんをお産されました。

 

出てきた赤ちゃんを診察して、凍りつきました。

手の指が、6本あるのです。

ただでも不安の強いシーラさんに、指が6本なんて話したら・・・

 

幸いにして、その他の異常はありませんでした。

心の準備をしっかりして、シーラさんと向き合いました。

「シーラさん。実は赤ちゃん、手の指が6本あるんです・・・」

どんな嘆き声が響き渡るだろう、と、身を縮めて待っていると、

「えええ~~~っ、うれしい!」

・・・え?

 

よくお聞きしたら、シーラさんのお国では、

指が6本ある女の子は幸せになれる、という言い伝えがあるのだそうです。

 

幸せの多様性は、計り知れません。

 

 

 

マリアさん(仮名)も、外国から日本に嫁いでいらした女性です。

日本に来て1年くらいしたところで、倦怠感、気力減退、気分の落ち込み、不眠などの症状が出現し、

私の外来にいらっしゃいました。

流暢な日本語で、淡々とご自分の症状をお話しになるので、

その冷静さが、却って気になります。

ひとしきりお話を伺ったところで、こちらから質問をしてみました。

「マリアさんは、お国はどちらですか?」

「お国」と言った途端、マリアさんはわあっと泣き出しました。

「タイです。タイに、帰りたい・・・」

 

不調の原因は明らかです。

しかし、日本での生活もありますので、

ひとまず薬物療法とカウンセリングで、対応することになりました。

 

2週間に1度のペースで通院を続けているうちに、

症状は緩和し、マリアさんに笑顔が見られるようになってきました。

そんなある日、

「最近、生理じゃない時に出血する」とのこと。

念のため、婦人科的な診察をすると・・・

クスコをかけた途端、血の気が引きました。

肉眼的にわかる、子宮頸癌です。

 

早急に検査を進めたところ、幸いにして手術が可能なステージです。

ご家族を交えて、病状と今後の治療法について、ご説明しました。

抗がん剤治療の後、手術が必要であること、さらにおそらく放射線治療が必要になること、

それには半年くらいの時間を要すること。

はっきり病名を告知するのは、癌としっかり戦ってほしいからであること、

戦って、健康を取り戻した方も大勢いらっしゃること。

 

マリアさんは、こちらの説明を静かにお聞きになっていました。

そして、

「先生、お話は、よくわかりました。

 でも私、国に帰ります。

 そして、子供のころから通っている寺院に行って、薬をもらいます」

薬は、木や草を砕いた粉末だそうです。

 

言葉を尽くして説得を試みましたが、最終的にマリアさんの決心は変わりませんでした。

 

紹介状を取りにお見えになった時、マリアさんは笑顔で言いました。

「これで国に帰れます」。

柔らかな、笑顔でした。

 

人の幸せは、その人の心が決めるのでしょう。

 

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