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2007.02.09 00:19 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 9

"義理・人情” の入り口で

とも子さん(仮名)は、妊娠後期の妊婦さんです。
赤ちゃんの不整脈と、発育遅延のため、詳しい検査目的で入院されて来ました。

検査と言っても、実はあまりやることはありません。
胎児エコーと、連日CTG(赤ちゃんの心拍数の変動を診るもの)をするくらいで、
あとは安静にして、赤ちゃんが育つのを待つだけ、という入院生活です。
赤ちゃんの状態がある程度安定していることが確認されると、外出許可が出ました。
とも子さんはとても気さくな女性で、年齢も私とほぼ同じだったこともあり、
すぐに仲良しになりました。
当時私は、入局したばかりの研修医でした。
今考えると「いいの?」という気はしますが、その時は喜んで一緒に出かけました。

行き先は、デパートの子供服売り場。
とも子さんのお腹の中の赤ちゃんは女の子とわかっていましたので、
とも子さんの大好きなキティちゃんグッズを、いっぱい買いました。
2人できゃあきゃあ言いながら買い物をして、外に出ると、
外は、晴れた休日。
忙殺されそうな研修医生活、ほっとひと息つけたことに心和ませていると、
背後から、野太い男性の声が。
「とも子先輩じゃないっすかぁ」
驚いて振り返ると、どう見ても怖いお兄さんたちが、数人。
「ちわーーーーっす」
「ちーーーーっす」

そう、とも子さんは、レディースの頭だったのです。

「お荷物、お持ちいたします」と、ちょっと重いくらいの量のキティちゃんグッズは
怖いお兄さんたちに軽々と運ばれて行きました。
呆気にとられている私を、とも子さんが紹介してくれました。
「こちら、なな先生。私の主治医よ。お世話になってるの」
「なな先生、お世話様~~~っす」(唱和)
・ ・・って、ショッピング街の真ん中なんですけど(苦笑)。

さらにあろうことか、とも子さんのご実家に、荷物と一緒に運ばれてしまいました。
とも子さんのお父様は、どうやら任侠道のえらい人のようです。
一見、ごく普通の穏やかな紳士なのですが、ふとした物腰に迫力のある方でした。
「とも子が、どうもご面倒をおかけします。」
当時の私のような小娘研修医に向かって、丁寧にお辞儀をされる姿に、
静かに感動しました。

翌日の夕方のことです。
先輩ドクターに呼び止められました。
「ななちゃん、あのお鮨、どうしたの?」
何のことかわからないまま医局に行くと、
テーブルに、直径50cmくらいある鮨枠の、5段重ねが置いてありました。
一番上の段に「なな先生へ」の文字。
とも子さんのお父様から私への、贈り物でした・・・

若くて活発なとも子さんは、次第に入院生活に退屈して来ました。
どこが痛いわけでもなく、ただ毎日赤ちゃんの様子を見るだけの生活ですので、
仕方がないかも知れません。
「退院したい」としきりに言うようになりました。
しかし、赤ちゃんの発育遅延は少しずつ進行し、平均体重から完全に外れて来ました。
こうなると、いつ赤ちゃんの具合が悪くなるかわかりませんので、
退院は厳しい状況です。
ある時、指導医の先生ととも子さんとで
ほとんど言い合いのようなやり取りになってしまいました。
「先生が何と言っても、帰りますっ!」と言うとも子さんに、
「自主退院するなら、仕方ありません」
そう言って、指導医の先生はその場を離れてしまいました。
ただ、おろおろする私をよそに、とも子さんは帰り支度を始め、迎えを呼んでいます。
「ね、とも子さん。赤ちゃんの命賭けてでも、帰りたいの・・・?」
多分半泣きになっていたと思います。
「・・・しょうがないな、ななっちに泣かれたら」。
とも子さんは、退院を思いとどまってくれました。

翌日、5段重ねのお鮨が、今度は2山届きました・・・

その数日後、赤ちゃんの状態が急変し、緊急帝王切開になりましたが、
とも子さんは、元気な女の子をお産されました。
おそろいのキティちゃんグッズを身に着けた、とも子さんとお嬢ちゃんの笑顔の年賀状は、
今年で10数枚になります。

つい先日、トークライブで聴いた言葉です。
「義理・人情というと、マイナスのイメージで捉われがちです。
 でも本来は“義理がたい”、“人情に厚い”と、いい意味で使われていたはずです。
 義理・人情は、日本的な良さを含んでいますので、
 これを粗末にすると、社会がすさんで行くのではないでしょうか」。
 

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