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2007.01.07 16:30 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 23

「受け入れ拒否」の実態

産婦人科部長がお休みの日のことです。

その場合、私が現場のコーディネイトをしないとなりません。

「お願いだから、今日だけは何も起きないでね」。

そう祈ってから、一日の業務を始めました。

 

始まりからして、私の期待は空しく外れました。

日柄、フル稼動している病院は少ないこともあってか、外来が激混み。

 一瞬ひるみましたが、「始めなければ終わらない!」をモットーに、

平常心で、こういう時こそ丁寧に、外来をスタートしました。   

 

 粛々と進めること約1時間、隣県で開業されている先生からの電話です。

「妊娠20週で、胎胞が透見できる患者さんがいます。受けてもらえませんか」。

つまり、本来子宮の中に収まっているはずの、羊水と赤ちゃんを包む膜(羊膜)が、

流産しかけて開いてきた子宮口から、肉眼的に見える状態、ということです。

そのままではほぼ確実に流産しますし、

緊急手術をしても、助かるかどうか、という緊迫したものです。

知り合いの先生からのご依頼ですので、お受けしたいのは山々ですが

進行中の分娩もあり、外来の混み具合とその日のマンパワーから考えると、

お受けするのは、かなり無理があります。

他の病院も当たって頂いて、 もしどこも受けられないようなら

再度ご連絡を頂戴するという約束で、

一度電話を切りました。   

 

1時間後、やはりどこも受けられない、という電話がかかってきました。

そうなったら、引き受けるしかありません。

ほどなくして、救急車でやってきた妊婦さんを、すぐに診察しました。

電話で聞いた状態より、さらに状態が悪化しており、

胎胞が子宮口からせり出して、膣内まで垂れ下がっています。

妊婦さんもご主人も、前医でかなり厳しい話を聞いてきているようですが、

妊婦さんご自身は、急な事態の変化に気持ちがついて行けず、

不安と恐怖で泣き通しです。

「手術をしても、流産を止められるかどうかわかりませんが、どうしますか」

とお聞きしたところ、

こちらが全てを言い終えないうちに

「お願い。助けて下さい」。   

 

すぐに手術室に連絡しましたが、この日は手術室もいっぱいいっぱいで、

脳外科と消化器外科が、緊急opeをやっているということです。

4時間後くらいなら入れられますけれど」という、困り声の麻酔科の先生に

「そんなに待ったら、赤ちゃん出ちゃいますよ」と言うと、

 一方の外科のopeが一段落したところで、そちらをストップして、

無理やりこちらのopeを入れてくれました。   

 

緊張してopeを始めると、最後に診察した時よりさらに張り出した胎胞から、

赤ちゃんの手か足と思われるものが、羊膜を通して透けて見えます。

これを見て、一緒にopeに入った後輩ドクターも、隣で凍りついています。  

持ちは怯みますが、ここで私が諦めたら、ひとつの命が確実になくなります。

 

泣きつづける妊婦さんの身体を、頭を下にしたかなり無理な体勢にしてもらい、

子宮口からせり出した胎胞をなるべく子宮内に収めるようにしながら、手術開始。

子宮口を鉗子で挟みながらこちらへ引っ張り、 胎胞を決して破らないように、

ガーゼツッペルで慎重に子宮内側に収めながら、子宮口に糸をかける手術です。

胎胞を破れば破水ですから、赤ちゃんは助かりません。  

しかし、胎胞を子宮口に収めようとしても、そっと押すそばからせり出してしまい、

なかなか思うように行きません。

一方で、子宮口をあまり強くこちらに引っ張ると、軟らかく血流の豊富な妊娠子宮は、

簡単に出血したり切れたりしてしまいます。

ようやく糸がかかった! と思って、慎重にありったけの力で糸を締めたら、

子宮の一部が切れて、糸が外れてしまいました。

さあっと血が流れ、益々視野が悪くなります。

でも、諦めるわけには行きません。    

 

何度目かのトライの時、胎胞を押すガーゼツッペルが、瞬時に水びたしになりました。

破水です。

・・・嗚呼。  

 

病棟に戻って数時間後、体長10cmの赤ちゃんが、娩出されました。

このくらいの時期の赤ちゃんが流産になった場合、外に出てから動くことがあるのですが、

この児も少しの間、動いていました。

 

無力感に打ちひしがれながら、ご夫婦と動かなくなった赤ちゃんを残して、

分娩室を出ました。

 

ちなみに、この間に2件、搬送依頼の電話がかかってきています。

1件は子宮外妊娠、もう1件は子癇分娩後の褥婦さんです。

Ope室ナースも麻酔科医も産婦人科医も緊急ope中、

子癇分娩後には助力を仰ぐかも知れない脳外科の先生達も、緊急ope中です。

だから断らざるを得なかったのですが、

それでもことがあれば

「受け入れ拒否、たらい回し」なんて書かれてしまうんでしょうか・・・   

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