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医局が、勤務先の病院を撤退する旨を知ったのは、撤退の10ヶ月前でした。
本当は1年前の時点で決まっていて、その病院の部長先生はご存知だったのですが、すぐには知らされませんでした。
「撤退と聞いた時、僕もがっくり来ました。先生に言うと、先生もやる気をなくしてしまうのでは、と思って、すぐには言えませんでした」
とおっしゃっていました。
部長先生は、赴任されるまでほとんどされてなかった手術を多数こなし、
一躍その地方の中核病院に仕立て上げた先生です。
私も、長期間勤務する予定で赴任したはずでした。
大学医局を出る時、敬愛する講師のK先生に
「部長を支えて、しっかりやって来るんだよ」と励まされ、
希望と使命感を持って、喜んで赴任しました。
それまでやっていなかった術式を導入し、
器具の選定から、業者の比較選択までしました。
一人一人の患者さんに時間をかけて診察することを主眼にした、新しい外来を開設して、
多くの患者さんを診て来ました。
それらを、全部あきらめなくてはならなくなりました。
産婦人科医が10人弱勤務する病院でしたが、
まずは人数を2人に減らされました。
でも、仕事量はそのままでしたので、
人員削減後は、地獄でした。
一番辛かったのは、途中まで診た妊婦さんたちに
転院してもらうしかなかったことです。
健診の日、一人一人の妊婦さんに事情を説明することを、
ひと月半くらい続けました。
「えっ・・・?!」と絶句して、 呆然と出て行かれる人。
どうしてもここでお産したい、と涙を流す人。
先生もご無念でしょう、どうかお身体を大切に、と目を真っ赤にしながら励ましてくれる人。
後で家族を連れて、抗議に来る人。
無責任です、と罵られたこともありました。
こちら側も、やりきれない思いでした。
励ましながら不妊治療をした末、妊娠された方もいました。
心の不調を抱えたまま妊娠をし、泣きながらかけてくる夜中の電話を繰り返しながら、なんとかお産近くまでやってきた妊婦さんもいました。
度重なる病気の発作に苦しみ、一時は妊娠を中断しようかと思った妊婦さんもいました。
どの妊婦さんも全員、よその病院に任せざるを得ませんでした。
「断腸の思い」という言葉がありますが、まさにそんな心境です。
医者があれだけ辛いのだから、患者さんの方は、どれだけ辛かったことでしょう。
あんな思いは、二度としたくありません。
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