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昨年あったちょっとしたエピソードである。
脳梗塞で、右麻痺と運動性失語の70代の男性患者さん。
もともと口数の少ないかたで、自己主張もあまりない。言語訓練も今ひとつすすまない状況だった。
ちょうど約3ヶ月のリハビリを終えて、そろそろ退院も間近になった。
家族も受け入れ態勢を整えていた。
食事は、もともと自分で食べられていたが、ある日突然食べられなくなった。
介護していた摂食嚥下療法士が、昼食は問題なく食べられていたのに、夕食は食べられないという。元気も今ひとつだし、嚥下反射もよかったのに突然わるくなってきたという。
バイタルサインはほとんど問題ない、体温も高いわけではない。脳梗塞の再発だろうか?
患者本人の意識もそれほど低下したようにはみえなかったが、ちょっと元気がない。
さっそくMRIをおこない病変の有無を確認するが、特別目新しい所見はみあたらない。
おかしい?
ひょっとしたら脳幹部梗塞があるのかもしれないなどと考えつつ点滴を併用しながら様子を見ることにした。
翌日には、食形態をかえてなんとかいけるかもしれないとの報告をもらった。しかし、嚥下食では、自宅でつくるのもたいへんであり、あまり現実的ではない。
自宅に帰るに当たってどう対応したらよいのか?退院までの期間がないなかで頭を悩ますことになった。
3日目になり、一度しっかりと患者さんと向き合うしかないと思い、下部脳神経機能をチェックすることを考えることにした。ナースステーションにたまたま患者がいたので診察をこころみることにした。
舌の提出は悪くない、でも、声がほとんど出なくなっている。命令にもよく応じるし、おかしい?顔面神経麻痺も中枢型であるので軽い。下咽頭から喉頭部に何かあるのではないかという考えがおよび
患者さんに口を大きく開けてもらうと、
「おやっ、何だこれ!」
思わず病棟中に聞こえるような大きな声をあげてしまう。
何か咽頭の奥に見える。近くの看護師に異物かん子をもってくるように指示、ひきあげたところ出てきたのは
「入れ歯」であった。
危機一髪。よく、窒息しないで済んだものである。
患者さんも自分では主張しないが、実は、喉の奥に何かあることは感じていたようである。
「喉の奥が苦しかったでしょう」というとコクリとうなずいた。
異物がなくなってからは、食事も飲み込めるようになり、食形態ももとにもどすことができるようになった。
あとから
ケアワーカーからの報告で、実は、3日前から入れ歯が紛失していて捜していたことがわかった。
家族とのトラブルもなかった。
摂食嚥下療法士もついていながら、結局、わからなかった医療事故である。
なかなか遭遇することのない事件であると思うが、患者さんを身近で診てみることの大切さを感じた事件であった。
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東洋医学、鍼灸をはじめとする、様々な代替補完療法を学ぶにつけて非常に重要なツールとなるのが手であることがわかる。
まず手は、診断ツールとして使える。
脈診や圧痛点などの触知、ヒーリングポイントの触知。
手で感じる様々なアナログ情報は膨大であり、それをもとに病態診断をする。
次に、そのままヒーリングツールとして利用する。
とくにヒーリングツールとして使う場合は、暖かくやわらかい心地よい手をつくりあげなければいけない。
また、 コミュニケーション手段としても利用できるので、手が治療家の声の代わりをすることがある。
脳外科医であるころは、術者や助手の手の動きをみて、何をどう判断し、何を行おうとしているのかを知ることができた。マスクで通らない声も、手の動きによって推測することができた。
実に様々な手の使いようがある。
しかし、現代医療は、そんな手の重要性をあまり主張しない。手をつかった様々な診断と治療を書いた医学教科書も存在しない?
ただ、鍼灸師さんが読む本には当然のごとく書いている。
医師も、診断と治療のできる手をつくらなければいけない。
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